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◆第18話◆ 『宝石級美少女は壊滅的ゲームセンス』


「星宮、スティックを動かして俺のキャラまで近づいてきて」


「こ、こうですか?」


「そっちは逆だ星宮! スティックをもど......」


 忠告空しく、星宮の操作するキャラクターは真っ直ぐに画面外へと墜落していく。これで通算三回目となるがまるで星宮には成長の兆しが見えなかった。


 自分のキャラクターが倒れたことに気づいた星宮は悲しそうに顔を俯かせる。上手くコントローラーを扱えなくてしょんぼりとしてしまったようだ。


「ごめんなさい......私、すごく下手ですね」


「いやいやそんなことないぞ。初心者なら最初はこんなものだ」


「そう、ですか」


 フォローするも星宮の表情はあまり優れない。やはり失敗してばっかりではこのゲームを楽しめないのだろう。そもそもゲーム初心者の星宮に格闘ゲームは早すぎたのかもしれない。


「このゲームはちょっと星宮にはハードルが高すぎたかもな。別のやつにするか」


「別のがあるんですか?」


「あるよ。俺昔めちゃくちゃゲームしてたからな。まぁ今もだけど」


 ゲームを替えるため、今まで溜め込んだカセットが沢山収納されているカゴをがさがさとする。それなりにやりこんだ物や一回プレイして飽きたものなど、種々雑多に入り交じっていた。その中から二人でプレイできるものを選別していく。


「わぁ......すごい数ですね。これ全部天馬くんが買ったんですか?」


「そうだな。ざっとこれだけで五万円分くらいはあるんじゃないか」


「五万円っ。......お金持ちなんですね、天馬くん」


「それほどだよ。昔は小遣いは全てゲームに注ぎ込んでたからな」


 今は多少はゲーム以外の物にもお金を使い始めた庵だが、昔の金遣いは極端で、他に必要な物があったとしても迷うことなくゲームにお金を使っていた。おかげで毎日がゲーム三昧になり、青美や父から何度もお咎めを喰らう日々と化していたが。


「あ。これとか簡単だしよさそうだな」


 昔のことを思い出しながらカゴの中を掻き回してみれば、一つのカセットが庵の目に留まった。星宮が庵の隣に顔を出す。ふわりとした甘い香りが庵の鼻腔をくすぐった。


「それはどういうゲームですか?」


「レースゲーだよ。車に乗って、一番最初にゴールに辿り着いた人が勝ちっていうルールのやつなんだけど、やってみるか?」


「なんか簡単そうですねっ。やってみたいですっ」


「おっけー。じゃあやるか」


 再び目を輝かせる星宮。このゲームはカートを操作して前へ進むだけのシンプルなルールなので、慣れれば初心者でもある程度は戦えるゲームだ。先ほどの格闘ゲームは沢山の技術を要するので難しいが、これなら星宮でもいけるかもしれない。


 このレースゲームは庵が暁と二人でプレイするために買ったのだが、二人とも直ぐに飽きてしまったという思い出が実はある。なので、まさか数年後に再び宝石級美少女とプレイすることになるなんて、当時の庵は夢にも思わなかっただろう。


「これ久しぶりにやるなぁ」


 ゲームを起動すると庵にとって懐かしいオープニング画面が流れ出す。久しぶりに聞く軽快なBGMに感慨深いものを感じた。


「じゃあ星宮、簡単に操作を教えるな」


「はい」


 庵も久しぶりなので記憶はおぼろげだが大体の動きは体が覚えている。先ほどと同様、自身のコントローラーを星宮に見せながらアクセルボタンやブレーキボタン、アイテムボタンの説明をしていった。


 ルール説明を聞き終えた星宮が「多分いけそうです」と意気込む。そうして、星宮の初のレースゲームへの挑戦がスタートされた。



***



「星宮っ。そっちは逆。逆走してるぞ」


「えっ。えっと......」


「そっちはコース外。落ちるとタイムロスになるから気をつけて」


「あっ。落ちちゃいました」


「そこは障害物があるから避け」


「当たっちゃいました」


 宝石級美少女のゲームセンスは壊滅的だった。狙ってやってるのかと勘違いしてしまうほどに庵の忠告を無視してミスを連発していく。何もない真っ直ぐな道でも、何故かその場で回転を始めたりと散々だった。


 ゲームが初心者という部分はいくつか関係するのだろうが、それにしてもあんまりだ。星宮の操作するカートが再び海へと落下したところで庵は頭をポリポリと掻く。因みに庵のカートは既にゴールしていた。


「あ、星宮。そろそろタイムオーバーになっちゃう」


「そう言われても......」


 苦戦の末、もう一度星宮のカートがコースから転落してレースは終了した。


 最下位に表示される星宮のキャラクター。その散々な結果を見て星宮は「むむむ」と眉を寄せる。やはり星宮には難しかったのだろうか。


「やっぱ難しかったか」


「はい......ゲームは私には向いてなかったかもしれません。ちょっと残念です」


 二十分ほどゲームをプレイをしたのだが、プレイ中、星宮はほとんど操作に手こずっていた。ゲームという娯楽に触れたことがない星宮には少し新鮮すぎて難しかったのだろう。


 庵は星宮に楽しんでもらえなかったのではと心配になり、星宮をフォローする言葉を必死に考える。しかし、その前に星宮が視線を庵に向けてこう言った。


「でも、とても楽しかったです。本当に車を運転してるみたいでした。ゲームってすごいですね」


 笑顔でそう言ってくれた星宮。どうやら宝石級美少女はゲームを気に入ったようだった。

そーろそろ『日常回』は終わりかなー......なんて

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