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◆第16話◆ 『宝石級美少女とのすり合わせ』


 ルール作り。それはすり合わせとも言い換えられる。二人がどれだけの行為を許容して、どこまでをダメとするかの線引き。この交際関係を円満に進ませるためには、お互い手探りではなく、明確なルールを作ることが必要になるはずだ。


 しかし、このルール作りで重要なことは『二人の意見を含めて』ルールを作るということだ。遠慮がちな星宮は庵の意見を必ず尊重する。嫌なことは嫌と言ってもらわなければ二人にとっての良いルールが作れない。


 だから最初にはっきりと言うべきだ。


「――ルールは二人で決めよう。俺一人でルールを決めたら、星宮の意見を含めなくなるからな」


「私のことは気にしなくても大丈夫ですよ? 余程のことじゃなければ従えるので」


「従うって......あのな星宮、これは二人のルール作りなんだよ。星宮もちゃんと意見言ってくれないと、俺が気が引けて話が進められないんだ」


 そもそも、ルール作りを男である庵に一任するなど無用心が過ぎる。庵は変なルールを作るつもりは一切ないが、それでも庵は一応男だ。星宮は何かいやらしい要求をされるのではと疑わないのだろうか。


「......天馬くんがそう言うなら......はい。じゃあ私も意見を出しますね」


「ああ。そうしてくれ」


 若干困り顔ではあったが納得してくれた。そうすれば次は本題のルール作りだ。


「んじゃあルール作りだけど......まず、星宮は俺にされて嫌なことはあるか?」


「私ですか? それは、その......」


 手始めに最初の質問をすると、何故か星宮は頬を赤く染める。そういえば以前に庵は同じような質問を星宮にしていた。確かその時の星宮の回答は――、


「あっ。いや、その、え、エッチなこと以外で何かあれば聞きたいんですけど......」


 前回の星宮の回答を言うと、星宮は肩をびくんと震わせた。やはり図星だったのだろう。


「そ、そうですね......」


「何でも言ってくれていいぞ」


「......じゃあ、その、私はまだ交際経験が薄いので、過激なスキンシップはちょっと難しいかなって思います」


 それを聞いて庵は心臓の鼓動が早くなる。庵はついさっき星宮と手を繋いだばっかりだった。手繋ぎは一般的に過激なスキンシップとは言えないだろうが、その考えは個人差もある。


 だから、つい不安になってしまい聞くべきではないことを聞いてしまった。


「過激なスキンシップっていうのは具体的にどういう感じのこと?」


「っ。え、えっと......それは......」


 より星宮の頬が赤くなる。女の子座りのまま、体をもじもじとして言葉を言い淀ませた。星宮が次の言葉を発するまでの数秒間、静かな空気が流れ続ける。


「......き、キスとかハグとか、えっと、そのっ。そのっ!」


「ほ、星宮!?」


 顔を真っ赤にして言葉が途絶える。大人な単語を使ったことで星宮の羞恥心が爆発してしまったのか、ひゅるるといった魂の抜ける擬音語が上に付きそうな感じで顔を俯かせてしまった。慌てて星宮が名前を呼べば、額に手を当てて星宮が顔を上げる。


「取り乱しちゃってごめんなさい......私、やっぱりこういうの苦手です......」


「俺も変なこと聞いて悪かった。ごめん」


 星宮は一般的な女子よりもうぶなのか、些細なことですぐに照れてしまう。その様子は見てる分にはとても愛らしいのだが、庵も共感性羞恥により恥ずかしくなってしまう。星宮のためにも庵のためにも、あまり踏み込んだ質問をするべきではなさそうだ。


「それでだけど、手を繋ぐこととかは別に大丈夫?」


「手、ですか......それくらいなら大丈夫だと思います。でも、突然触られるとちょっとビックリしてしまうかもしれません」


「なるほど......さっきは突然触ってごめんなさい」


「あっ。さっきのことは別に謝らないでください! 天馬くんのおかげで本当に助かりました。歩きやすかったです」


 手をぱたぱたと振って慌ててフォローをする星宮。とはいっても先ほどの手繋ぎは同意無しのものだったので、謝る必要は少なからずあるだろう。


 だがこのスキンシップの線引きをするルール決めはあまり必要の無いものかもしれない。何故なら、庵は星宮に対して欲情してるわけでもないし、恋愛感情があるわけでもないからだ。


「まぁそうは言っても、俺は星宮とのスキンシップは別に求めてないからな。むやみやたらに触るつもりはさらさらさらないからさ、そこら辺の心配はしなくていいと思う。俺を信じてくれ」


「そう......なんですね。はい、分かりました。信じます。私は天馬くんのこと信頼してますから」


「お、おう」


 力強く『信頼してます』と言い切った星宮。カフェに行ったときも同じようなことを言っていたが、その自信の源はどこなのかが謎である。何せ庵は星宮の信頼を買うようなことは一切できていないはずだから。


 しかし信頼してもらえるということは別に悪いことではなく嬉しいことなので、そのことをいちいち否定する必要もないだろう。逆にここで『なんで俺なんか信頼してんの?』みたいな発言をすれば好感度が下がること間違いなしだ。


「それで次の話なんだが......さっき星宮が言ってたことだけど、デートはするか? 星宮的にしたい? したくない?」


 スキンシップの話が一区切りついたところで次の話へと移り変わる。これも、これからの二人の関係に大きく関わってくる重要な話だ。


「で、デートですか。前も言ったと思いますけど、天馬くんがしたいのなら私は」


「そうじゃなくて俺は星宮の意見を聞きたい。したいかしたくないか教えてくれ」


「......いじわるですね、天馬くん」


「そんなこと言われても困る」


 こればっかりは無理にでも星宮の意見を聞かなければならない。デートというものは一度限りのものではなく定期的に行われるものである。星宮がデートという行為を好意的に思ってなかった場合、毎度毎度デートをする度に庵は星宮に迷惑をかけることになる。そのような事態に陥らないためにも、このすり合わせは絶対に必要だ。


 星宮は「うーん」と唸って、数秒間考え込む。そして顔を上げた。


「したいかしたくないかという二択だとちょっと困りますね。失礼な言い方ですけど、どっちでもいいという答えが私の中で一番しっくりきます。この答えじゃダメ......ですか?」


「どっちでもいい......か。デートすること自体は嫌じゃない?」


「嫌じゃないですよ。天馬くんの期待に添えれるかどうかは心配ですけど」


「それは俺の台詞だな。......んで、本当に嫌じゃないのか?」


「はい。嫌じゃないです」


「......そっか」


 星宮の答えは『どっちでもいい』。その答えは本当であり、自らデートをしたいとは思わないが、デートをすること自体は嫌ではないということ。曖昧な答えだが実に星宮らしい答えだ。


 顔を天井に向け、頭を悩ませる。庵は星宮とデートをすること自体は嫌ではない。宝石級美少女とデート出来ると思えば、恋愛感情が無いとはいえ少しわくわくする。


 しかし懸念材料はいくらでもあった。例えば、デートする度に気まずい雰囲気になってしまわないかや、デートで二人は何して遊ぶべきか、青美の目に見つからないかなど、その他沢山だ。


(でもここでくよくよしてちゃ、俺はダサいままだ)


 懸念材料はあっても、ここでくよくよしてれば二人は前へ進めれない。デートをしないカップルなど最早カップルとはいえないだろう。


 息を吸い込んで、星宮と視線を合わせる。前回は星宮の思考を深読みして勝手に嫌われていると思い込んでしまった。同じ失敗はもうしない。自信を持って、しっかりと言おう。


「じゃあ、一週間に一二回くらいのペースでデート......するか?」


 星宮が息を飲む。庵はその星宮から視線を逸らさない。時の流れが遅くなったかのような錯覚を感じつつ、静かに星宮の答えを待つ。呼吸が詰まりそうになるほどの長い数秒間が流れて――、


「......はい。いいですよ」


 斯くして、お互いに恋愛感情の無い二人は、これから定期的にデートが行われることが約束された。

次回、大乱闘(?)

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