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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
第三章・後編

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◆第139話◆ 『対最恐無謀応戦(7)』


「イジメの件、ほんとに先生に報告しなくてもいいのか?」


「大丈夫です。もうこれ以上、事を大きくしたくないので」


 これは、朝比奈の星宮に対するイジメが解決したあとの後日譚。今回の件の結末について未だ納得のいっていない庵が、星宮に本当にこれでよかったのかと問いかけていた。


「10:0で朝比奈とかいう女が悪いんだから、俺は先生に言ったほうがいいと思うけど......だってあいつ絶対反省してないから。あいつの最後の捨て台詞、「一生恨んでやるー、ムキ―っ」だぞ」


 雑な朝比奈のモノマネをしたら星宮に苦笑いをされた。しかし庵の言い分は事実であり、ここでしっかりとお灸をすえておけば、朝比奈を戒めることができる。やはりこの件をこのまま放置というのは、庵じゃなくても納得がいかない。


「天馬くんの言いたいことは分かりますよ。でも、私にも事情があるんです。事情さえなければ、私も朝比奈さんを先生とかに告げ口したかもしれませんね」


 何やら意味深な発言をする星宮。


「事情というのは?」


「私の家族の問題です。とある事情があって、私親に迷惑かけれないんですよね。イジメの話を先生とかにしたら、私の親に絶対連絡がいくじゃないですか。それが嫌なんです」


「また事情かよ......」


「女の子には秘密が多いものですよ、天馬くん」


 星宮の親とは会ったことがない庵だが、どのような人物なのだろうか。星宮のような宝石級の美貌を産み出したのだから、親も相当の美男美女であると推測できる。


 それはそうと、星宮が親に迷惑をかけれない理由とはなんだろうか。庵は問いかけてみようと思ったが、星宮がどこか暗い顔をしている気がしたのでやめておいた。おそらくだが、星宮が一人暮らしなことに関係しているのだろうか。


「まぁでも、私は朝比奈さんのこと嫌いです。天馬くん」


「おぉ......そんなハッキリ人のこと嫌いとか星宮が言うの珍しいな」


「仕方ないじゃないですか。意味不明な冤罪で私、ほっぺたまでパンってされたんですよっ。それに大切なキーホルダーも踏みつけられました。嫌いにならないわけがないじゃないですか」


「......まぁ、当たり前だよな」


 星宮の言っていることは当たり前。でも、庵は心のどこかでそんな星宮を意外に思う気持ちがあった。それは、星宮は誰にでも優しそう、という勝手なレッテルを貼っていたからだ。勿論、誰にでも優しいからといって誰かを嫌いにならないというわけではない。だが星宮に関しては、誰かを特別に嫌うことができるようには思えなかった。


「だから私、決めたんです」


「何を?」


「私、朝比奈さんに”復讐”します」


「......え、今なんて?」


「私は朝比奈さんに”復讐”するって言ったんです」


「俺耳腐ったのかな」


 星宮の口から出たとは思えない野蛮な言葉に、庵は二度聞き直して尚自分の耳を疑った。対する星宮のマリンブルー色の瞳は可愛らしく輝いている。


「復讐ってなんだよ。これ以上、事を大きくしたくなかったんじゃないのか?」


「そうですよ。でも、私だってやられっぱなしじゃ悔しいです。それじゃ昔と同じですから」


「昔と同じ?」


「そこは気にしないでください」


「......」


 この日はやたらと意味深な発言が多い星宮。星宮の言う通り、女の子は本当にミステリアスだ。星宮の攻略本なんて、きっと国語辞典くらいの厚さなのだろう。


「それで、どう復讐するんだよ。逆にいじめ返すのか?」


「あの、私がそんなことすると思いますか?」


「いや思わないな。星宮暴言とか吐けなそうだし」


 ちょっとした冗談のつもりだったが、星宮にジトーっとした視線を向けられてしまった。


「まぁいいです。私が考えている復讐っていうのはですね、朝比奈さんと私が友だちになることなんですっ」


「なるほど意味がわからん」


 星宮が復讐の内容を話すも、庵は即答で言葉を返していた。今、星宮は何を言ったのか。朝比奈と友だちになるなんて、一体何の冗談だ。一度いじめられた相手と友だちになろうなんて思考、どうしたらできるのだろう。というよりも、それは復讐といえるのだろうか。


「えっと......星宮は朝比奈と仲良くしたいってことか?」


「それはちょっと語弊がありますね」


 どうやら仲良くしたいわけではないらしい。ますます意味が分からず庵は困惑してしまう。そんな庵に、星宮が柔らかく微笑みながら口を開いた。


「だって考えてみてください天馬くん。朝比奈さんは私のこと、きっと今でも嫌っているじゃないですか。反撃されてまだ根に持ってると思います」


「そうだろうな。あいつが10:0で悪いんだけど」

 

 ここで星宮が一呼吸おく。そしてほんのりと笑顔を顔にくっつけ、再び桜色の唇を開いた。



「そんな私のことが大嫌いな朝比奈さんが、私と友だちになっちゃうんですよ。それって、とっても良い復讐になると思いませんか?」



 そんな、どこまでも優しすぎて可愛すぎる星宮の復讐の内容に、庵は思わず笑った。星宮も吊られた笑った。やっぱり星宮は星宮だったのだ。どれだけ酷いことをされても、彼女の根っこは変わらない。



***



 後ろで愛利と北条が戦っている。そんな大変な状況の中、お腹を押さえながら足を引きずるように歩く星宮。歩いている先はこの林から抜け出す方向ではなく、一人の少女が横たわる場所だった。


「――朝比奈、さん」


 星宮を庇おうとし、北条に重傷を負わされた朝比奈。星宮は朝比奈の様子を真近で見て絶句した。


「私のために......こんなの......」


 解けたツインテール。折れた歯と、口内からこぼれている血。頬には酷いアザができていて、余程の力で殴られたのが察せられる。その他にも挙げていけばキリがないが、朝比奈の負った傷が星宮よりも酷いのは一目瞭然だった。唯一の幸いは、まだ息があることくらい。


「......ごめん、なさい、朝比奈さん」


 意識を失っているので朝比奈には届くことはないが、それでも謝罪をせずにはいられなかった。そして星宮は朝比奈の前で屈みだす。


「ちょっと何してるの琥珀ちゃん! 早く逃げてって言ってるじゃん!」


「ごめんなさい前島さん、朝比奈さんも連れていきます」


「はあああああ!?」


 北条と戦いながらも、星宮の予想外な発言に素っ頓狂な声を上げる愛利。同時に、北条がニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「何馬鹿なこと言ってんの! そのもう一人の女が誰かアタシ知らんけどさ、今の琥珀ちゃんがどうやってその子も助けんのよ!」


「......私がおんぶします」


「馬鹿なの? 今あんた一人で歩くのが限界でしょ? なのに人一人抱えて逃げるとか、マジでばっっっっかじゃないの? 寝言は寝てから言ってくれない!?」


「......」


 できるわけがないと、愛利は全力で星宮の意思を否定した。しかし星宮はそんな朝比奈の忠告を無視して、朝比奈の腰に手を回し、おんぶをする準備をする。自分勝手なことをする星宮に、思わず愛利は舌打ちした。


「あのさ琥珀ちゃん! ちょっと優先順位考えてよ! 今のアンタじゃ、絶対おんぶしながらここから出るのは無理! お願いだから分かって!」


「でも、ここに朝比奈さんを置いてったら、朝比奈さんが死んじゃいます」


「ごめんけどそんなん知らんから! アタシはあんたを助けるためにここに来たんですけど! あんたのその無茶のせいで逃げられなくなったらどうすんの!」


 愛利が声を荒げる裏、星宮は朝比奈をおぶり、立ち上がっていた。朝比奈の重みで、腹の痛みと頭の痛みが倍増したように感じるが、声には出さない。一歩、一歩と歩みを進めていく。


「無理だって! 絶対無理だって琥珀ちゃん!」


「できます、から......」


 星宮がなるべく北条の近くを通らないよう、迂回しながら歩き出す。愛利の叫びは虚しく、星宮の心には指一本届かなかった。おかげで今日一番、愛利の表情が歪む。


「誰のおかげで助けられてるって思ってんの、琥珀ちゃんっ。琥珀ちゃんは庵先輩と違ってそんな自分勝手な子じゃないでしょ! ちょっとは私の話を聞いてよ!」


「......」


「あぁもう! なんなのこのバカ女!」


 頭に血が上った愛利は、初めて星宮に向かって暴言を吐いた。それでも星宮は聞く耳を持たず、ただひたすら前へと林の出口を目指している。一歩一歩の間隔が不安定で、1メートル進むのに約10秒もかかっている星宮。星宮が完全に逃げ切るまで、愛利は北条の魔の手を防ぐ義務がある。


「――おいおい大変そうだな、星宮!」


「っ、琥珀ちゃん!」


 瞬間、北条の悪魔の声と共に、石が星宮目掛けて投げられた。反応しきれなかった愛利は、投げられたを止めることはできない。そして両手が塞がり、それじゃなくても満身創痍な星宮。愛利の背筋が凍る。


「ぁっ!」


 石は星宮の脇腹に直撃した。誰が見ても、今の一撃は”重いし痛い”。だが、星宮は僅かに表情を歪めただけで歩みを止めなかった。


「マジか」

「マジか」


 同時に目を丸くした北条と愛利の声が重なる。お互い、絶対にまた倒れると思っていた星宮が倒れなかった。その根性は愛利の目から見ても称賛に値する。しかし関心などしている場合ではない。愛利の目の前にいるのは、満身創痍の人間に石を投げつけた正真正銘のクズだ。


「っ、何琥珀ちゃんに石投げてんだよ! このドクズ野郎!」


「おっと」


 まさかの出来事に気を取られていた北条は、一瞬動きが遅れてしまう。朝比奈の蹴りが再び、北条の顔面に直撃した。受け身すら取れなかった北条は無様にも地面を数回転する。だが、それでもまだ立ち上がってくるのが北条のしぶとさだ。


「――琥珀ちゃん! もう分かったから、そいつも連れて逃げるなら早く逃げて!」


「......前島、さん」


「あんたがそこを譲る気はないのはよく分かったし、覚悟も伝わったから」


 いつの間にかだいぶ進んでいた星宮。愛利は呆れた口調で、最後の最後に星宮を認めた。でも、愛利のプライドがやっぱり星宮を許せなくて、余計な言葉も付け足してしまう。


「でも、あとで絶対琥珀ちゃんのこと説教するから! 覚悟しといてよ、このバカ!」


「......はい。ごめん、なさい、前島さん」


「絶対倒れちゃだめだからね!」


 星宮と朝比奈の背中がゆっくりと遠ざかっていく。不安ながらも、なんとか星宮奪還は成功したようだ。愛利は一度大きく深呼吸し、残された最後の問題と向き合った。


「あとはこいつをぶっ倒すだけ。頑張れ、アタシ」


 愛利VS北条は、いよいよ大詰めとなる。

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