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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
第三章・後編

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◆第128話◆ 『すごく嫌な予感』


 重たい瞼がゆっくりと持ち上がっていく。ぼやけた視界が映って反射的に目を擦りたくなったが、外の寒さからか、今温かいポジションにいる手をあまり動かしたくない。それに頭もまだぼやぼやとしてるので、いっそこのまま二度寝してしまいたい。睡眠欲は人間の三大欲求のひとつなのだから、逆らえなくて当然だろう。


 睡魔に耐えられず、また瞼が下に下がっていく。公園の地面に仰向けになった庵は、体制を変えないまま再び眠りに落ちようとするが――、


「何二度寝しようとしてんの」


「ぎゃぶっ!?」


 瞼を閉じた瞬間、ものすごい衝撃が脇腹を襲った。その衝撃は庵の全身を電気のように駆け巡り、さっきまでの睡魔をあっという間に吹っ飛ばしてくれる。重たかった瞼もバッキバキに開き、唐突な激痛に爛々とさせられた。


「あばっ!? な、何がぁ!?」


「おはよー、庵先輩。目覚めた?」


「おはよーって、お前愛利か!? 今脇腹蹴ってきたのはお前かよ!?」


「アタシだよん」


「はぁ?」


 脇腹を抑えながら立ち上がると、愛利の姿が見えた。厚めのジャージを羽織り、マフラーも巻いている。防寒対策はバッチリそうだ。庵は蹴ったことについて悪びれもしない愛利に対し、涙目になりながら頭に血が上っていく。


「てか愛利お前っ! こんなとこで何してんだよ!! 俺が寝てっ......寝て?」


「それはアタシのセリフ。庵先輩の方こそ、こんな寒い公園で何してんの。頭たんこぶ作って」


 愛利を問い詰めるつもりで口を開いたが、途中で違和感に気づく。よくよく考えたら、庵もおかしい。いや、庵だけがおかしいのかもしれない。


 何故、公園なんかで寝ていたのだ。


「った。ほんとだ、たんこぶが......」


「寝る前まで何してたの庵先輩。電柱にでも頭ぶつけて倒れてたんじゃない? ほんとドジだねぇ」


「んな馬鹿なことするわけないだろ。どんだけ勢いよく電柱にぶつかってんだ」


 さっきまで興奮で気づかなかったが、手で触ってみると後頭部辺りにボコッとした腫れがあるのが分かる。理解してたんこぶに意識が集中し始めると、痛みが体全体によく伝わってきた。世の中知らないほうが得なこともある。


「まぁ庵先輩の話はおいといて、琥珀ちゃんはどしたの? アタシ、どちらかといえばあの女心配してきたんだけど」


「......あ」


「てっきりアタシ、琥珀ちゃんと庵先輩が一緒にいると思ってたんだけど、来てみたら庵先輩が大の字で寝ててマジで草だわ」


 愛利の言葉を聞き、ピタッと庵の思考が一時停止した。寝る前の記憶が滝のように頭に流れこんできて、フラッシュバックする。


 逆に、何故もっと早くこの違和感に気づけなかった。何故、公園で寝ている。寝る前は何をしていた。そんな簡単に忘れてしまうほど、薄い記憶ではなかったはずだろう。


「――ぁ。っ、星宮、星宮は!?」


「は? だから居ないって」


「居ないって、なんでだよ!? 居ないわけねーだろ!?」


 思い出した。庵が意識を失う前にしていたこと、それは星宮との会話。確かに庵は、今倒れていたこの場所で星宮と会話をしていたはずだ。しかし今この場に居るのは、庵と、何も状況を知らない愛利のみ。星宮の姿はどこにもない。


「俺はさっきまで星宮と話をしてたんだ。だから、居ないわけが......てか、ぶっ倒れた俺を星宮が見捨てて帰るわけがねぇって」


「はいストップストップ、一旦状況整理ね」


 呼吸を荒らげながら、早口に根拠もない願望を口にする庵。そんな庵に、珍しく優しい愛利が、肩をポンポンと叩いて庵を落ち着かせる。


「庵先輩はあの女と話をしていて、気づいたら意識を失っていた。そして目が覚めたら頭にたんこぶできてて、眼の前にアタシが居たと? つまりついさっきまであの女は居たと?」


「っ。そうだけど......星宮のことあの女とか言うなよ」


「庵先輩もだけど、アタシ君らカップルあんまり好きじゃないからさ。理由は察せるでしょ」


「......今その話ぶり返そうとすんなよ」


「はいはい。それで、庵先輩も分かることは話しなよ」


「分かることって、なんか警察みたいだな」


「えー、そう? まぁでも庵先輩のたんこぶからして、なんか事件性感じるし、まぁ言い得て妙かも」


 己の指先を唇に当て、あざとくウインクする愛利。あまりに空気の読めていないウインクだ。それはさておき、冷静さを取り戻した庵は、愛利に言われた通り、話せることを探す。意識を失う前の記憶、それを細かいところまで思い出そうと頭を捻った。


「俺が最後にした星宮の会話は、確か、星宮を苦しめている人物を暴こうとして、あとちょっとで星宮が口を割りそうなとこだった......はず」


「よく分かんないけど、その直後に意識を失ったのね。それで、その星宮を苦しめている人物とは?」


「あぁ、それはおそらく北条。なんか今日星宮と話したら星宮メンヘラみたいになってたし、あきらかに様子が変なんだよ。だから、誰が星宮をそうなるまで苦しませているのか考えた結果、急に星宮の彼氏になりだした北条が一番怪しいと思った」


「あぁあの前庵先輩が言ってた完璧くん? やっぱアタシの読み通り、あいつが黒幕だったの?」


「星宮の口からは聞けなかったから確定ではないけど、他の選択肢は朝比奈くらいしか......いや、あいつは俺が弱み握ってるから、もうそんな下手な真似はしてこないはずだし。となると消去法でもう北条くらいしか怪しい人物が居ないんだよ」


「なるほどねぇ。朝比奈が誰か知らないけど、その北条くんが黒よりと」


 庵が意識を失う直前の会話、そして黒幕の可能性が高い北条の存在。それらを加味し、二人は再び頭を悩ます。しかし悩ます時間はお互いそれほど長くはかからなかった。しかも、お互いに同じ結論に至っている。


「......え、庵先輩、アタシすごく嫌な予感がするんだけど」


「......俺も、だ」


 意識を失った理由、頭にできたたんこぶ、星宮の行方の消失――そして、黒幕の存在。


 これらをすべて関連付けて考えるとしたら、答えは一つしかない。しかもその答えが、今考えつく中で一番の最悪で、それがただの現実逃避だとしても、庵の口から到底言えるはずがなかった。愛利さえも、引きつった顔で深刻そうな様子を醸し出している。


 愛利と、庵だけの二人きりの公園。さっきまでは、ここに星宮も居た。でも、今は居ない。それは何故。



「その、北条ってやつが、あんたたちを襲ったんじゃないの?」









久しぶりの更新すみません......更新ペース上げていきます(前も言いましたが)

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