◆第124話◆ 『手紙』(※+今のキャラの状況説明)
山場も近いので、今現在のキャラの簡単な状況説明。
・天馬庵(星宮の彼氏。星宮の浮気を疑っている。北条、甘音、朝比奈という黒幕の存在に気づけていない)
・星宮琥珀(庵の彼女。庵の浮気を疑っている。北条、甘音、朝比奈の陰湿な攻撃により精神的に追い詰められている)
・前島愛利(庵のバイトの後輩。今現在、庵に空手を教えている。とりあえず過去の件については和解できた。庵と星宮の今の関係の危うさには気づいているが、北条や甘音、朝比奈と面識がない)
・黒羽暁(庵の友達ポジション。今の起きている問題に特に関わってはいないし、彼は北条の裏の顔を知らない)
・小岩井秋(星宮の友達ポジション。朝比奈により、大切なキーホルダーを奪われ、不登校になっている。オタク)
・北条康弘(すべての黒幕。星宮を追い詰める理由については未だ不明だが、犯罪を犯してでも星宮を追い詰める謎の執念がある。普段は真面目キャラを装っているが、中身は怪物。庵の親を殺している)
・甘音アヤ(庵のクラスメイト。北条の仲間。彼女も北条の星宮を追い詰める手伝いをしている。重たい病気を抱えていると本人は言っている)
・朝比奈美結(星宮のクラスメイト。北条の仲間。以前、星宮をイジメていた存在。なのだが、北条のあまりに容赦のない様子に、少し星宮に対して心を痛めている)
夜七時。バイトのシフトが入っていた愛利が、一人、奥の関係者のみ入れる小部屋でくつろいでいた。小休憩のようだが、ふんぞり返りながら椅子に座る姿は少し生意気だ。
「ん、んん〜っ」
サラサラの長い金髪を背もたれにかけながら、大きく伸びをする。それから首をポキポキと鳴らして、バタンと目の前の机に倒れ込んだ。最近、少し寝不足気味らしい。
「――ぁ」
ガチャリと扉が開いた音がした。顔は机に引っ付けたまま、だらしない姿勢で扉の方に視線を向ける。扉を開けたのは店長だった。
「――前島さん、レジ変わってもらってもいいかい?」
「あー、店長。分っかりましたー」
仕事を渡された愛利。仮眠を取るつもりだったが、どうやらお預けらしい。ゴワゴワとする目を擦りながら、フラフラとその場に立ち上がった。そのままレジに向かおうとするのだが、その前にふと愛利は頭に疑問を浮かべた。
「あれ。てか今日庵先輩は?」
居なくてはならない時間帯に、庵がいない。まさかサボりとは思えないが、愛利は少しイラッとした。ただでさえつまらないバイトなので、話し相手が居ないと暇で仕方ないのだ。
「てんちょー、今日庵先輩シフト入ってましたよね? あいつどうしたんですか?」
「あぁ、天馬くんなら今日は休みになったよ」
店長の答えに愛利は不思議そうに首を傾げた。
「休みになった? 庵先輩、何かあったんですかー?」
「それがね......」
愛利の質問に、店長は顎に手を当て、少しだけ答えるまで間を開けた。顔に刻まれたシワが不安そうに歪んで――、
「私もイマイチ分からないんだ。なんでも急用が入ったらしくて、今日の夕方に急に連絡が来たんだよ。確か......大切な人と話をするとか言ってたね。これは憶測だけど、おそらく彼女さんかな」
「大切な、人......」
店長の言葉を聞いて、愛利は少し考え込んだ。大切な人とはおそらく星宮のことに違いない。しかし今、庵と星宮の関係にヒビが入ってきている。そして今、二人はお互いを見つめ直すために距離を置いている期間のはずなのだ。だから、関係にヒビの入っている、距離を置いているはずの二人が出会って話をするなんて、普通に考えたらおかしい。
愛利は胸にチクチクと引っかかるものを感じ、最悪の想定をした。心の中の警鐘が音を鳴らし出す。
「え、絶対修羅場になるじゃん......!」
***
――小岩井家の自宅にて。
目に濃いくまを貼り付けた一人の少女が、なにかに取り憑かれたかのようにテレビに喰い付いていた。部屋には電気が付いておらず、テレビの光だけが灯る夜の狭い部屋は不気味だ。それ以上に不気味なのは、こうして今テレビに喰い付いている少女の方なのだが。
「――あのさお姉ちゃん、いい加減学校行ったら? そんな四六時中アニメ見てて飽きないの?」
「うるさい。私はもう終わりなんだ」
「......何言ってんの」
妹の小岩井みのりの声に、ボソッとした声で反応したのは小岩井秋。今、彼女は不登校である。不登校中にしていることは、ほとんどアニメ鑑賞だ。そして不登校の理由はお察しの通り――、
「朝比奈美結......私の『あっきー役の声優のサインが入ったアクリルキーホルダー』をよくも......」
「もうその言葉百回は聞いた。てか最近それしか聞いてない。もう呪詛かなんかじゃん」
そう、約一週間前の話。秋は朝比奈に放課後突然襲われ、命より大切な『あっきー役の以下略』を盗まれてしまったのだ。しかも返してもらうには、朝比奈が合図を出すまで学校に行かないことが条件らしい。だから素直に秋は不登校をしているわけだが、いよいよ妹も姉の方も限界だった。
「あのさーお姉ちゃん。その盗まれたキーホルダー?が大切な分かるけどさ、所詮ただのプラスチックの塊でしょ? そんなののために私たち家族に心配かけないでほしんだけどー!」
「みのり、鬱陶しいから部屋から出てって。私もその文句百回は聞いた。呪詛なの」
「むかーっ!? 私だって言いたくて文句言ってないし! 私はお姉ちゃんのために貴重な受験勉強の時間を割いてるんだからね!?」
暗くどんよりとした秋の言葉に、キンキンとしたみのりの声が秋の鼓膜を震わせる。容姿は似ているのだが、性格は本当に似ていない姉妹だ。
「......何の用」
ようやくみのりに視線を向けた秋が、もそっと体を動かした。ここ一週間ずっとパジャマ姿なので、暗がりから見たらまるで病人だ。みのりはだらしない姉に目を細めながら、何かポケットから取り出す。
「これ。お姉ちゃんへの手紙とプレゼントらしいよ」
視線を逸しながら、無愛想に何か突きつけてくるみのり。秋はぽかんとした顔をする。
「......みのりから?」
「なわけ。お姉ちゃんの友達の星宮さんから。さっき玄関前に星宮さんが来てたの。しっかりしてよね」
「......コハから手紙? LINEじゃなくて?」
「私に聞かれても困るし。ほら、さっさと受け取って」
みのりから秋に渡されたのは、星宮からの手紙と謎の小さな小包。秋は不思議に思いながらも、それを受け取り、まず手紙を開封した。薄ピンク色の便箋が中から出てくる。
「......秋ちゃんへ」
手紙の文章は短く、簡潔な内容だった。それを読み終えた秋は、首を傾げながら、手紙と一緒に受け取った小包を開く。中には手紙に書かれていた通りの物が入っていて、秋は目を細めた。
「こんなの、いつ使うの......」
秋は苦笑いしながら、深く考えずに星宮からのプレゼントを手紙と一緒に机の引き出しにしまった。カチャリと、小さな音が響いた。
次回から第三章も大きな山場に入っていきます。よろしくお願いします




