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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
第三章・後編

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◆第113話◆ 『宝石級美少女の擦り切れていく心』


 星宮琥珀と北条康弘の交際関係の始まり。


 その事実がいろいろな場所に知れ渡るまで、それほど多くの時間は要さなかった。その理由はいろいろと挙げられるが、北条が交際関係を隠す気が無かったのが一番の原因だろう。登下校を一緒にして、学校内でも気安く北条の方から話しかけてくれば、噂はあっという間に広がってしまう。それに北条のもともとの女子人気の高さもあってか、今二人は一躍時の人である。


「――天馬くん、ごめんなさい」


 表向きは青い青春の一ページでも、この裏側には誰も知らない最悪の事実が隠されているのが現実。星宮は机に座って頭を抱えながら、庵に謝罪した。おそらく庵も北条と星宮の交際の噂は耳にしているはずだ。今、星宮と庵は距離を取り合っている期間のため、タイミング的には本当に最悪である。


(緊急事態なんですから、一度天馬くんに会って事情を説明した方がいいですよね。でも、どう説明すればいいんですか。もし天馬くんが北条くんの事を知ったら、きっと混乱させちゃうし......最悪、また巻き込んでしまうんじゃ)


 庵への説明は早いうちにしないといけないが、どう説明するかが難しいところ。ありのまま全てを話すのは、ようやくあの事件から立ち直り始めた庵には重すぎる。かといって詳しく話さなければ、庵には浮気という最悪の誤解を与えてしまうだろう。


(こういうとき、相談できる人が居れば......)


 よくよく考えると、今星宮は孤独だった。一番の友だちである秋は最近何故か最近学校に来ていない。愛利とは少し仲悪くなって、疎遠になっている。朝比奈に関しては論外だ。


 一人で抱え込んでしまうのが良くないことは分かっているのだが、分かっていてもどうしようもないのだ。北条という何が地雷が分からない爆弾を抱えている以上は――、


「秋ちゃん、なんで学校に来ないんですか」


 とりあえず、何も解決に繋がらなくとも誰かと話がしたい。寂しくて、星宮は昔のように一人ぼっちでクラスの壁に寄りすがった。


 そんなマイナスな星宮に、誰かが近づいてくる。


「――星宮。暗い顔してどうしたんだよ。話聞こうか?」


「......北条くん」


 話しかけてきたのは北条。一見、彼女の様子の変化を見抜き、心配してくれる優しい彼氏のように見えてしまうが、何もかもが違う。この男のせいで星宮はマイナスな気持ちになっているし、北条もそれが分かっていて話しかけているのだろう。簡潔に言って嫌がらせだ。


「大丈夫です。あと、何回も言ってますけど教室であまり話しかけてこないでください」


「え? どうして? 俺とお前は交際関係だろ。話しかけちゃいけない理由なんてない」


「......そうですか」


 当たり前というべきか、星宮のお願いは通用しないので、こちらが折れるしかない。下手に歯向かって北条の導火線に火をつけてしまうと最悪なので、しばらくはなるべく従順になるべきだ。とはいっても嫌なことは嫌なので、露骨に嫌そうな顔をしておいた。


「星宮はツンデレだなぁ。もしかして俺と一緒に居るのを誰かに見られるの恥ずかしがってる? 大丈夫だよ、誰もお前を変な目で見てる奴なんていないから」


 勝手なことを言いながら、星宮の肩をポンポンと叩く北条。触られただけで、寒気が走る。


「......気安く触らないでください」


「彼女とのスキンシップは大切だろ? 星宮も、全然俺を求めてくれていいからな」


 へらへらしながら、次は星宮の頭を撫でてくる。人が嫌がっていることをやめない、神経を逆撫でするような行為に温厚な星宮もフツフツと怒りが溜まってくる。交際関係が始まった日から北条の印象は星宮の中で既にどん底に落ちているので、今更これ以上評価は下がらないが。


「髪サラッサラだな。めちゃくちゃ良い匂いするし。え、シャンプー何使ってんの」


「......」


「無視すんなよ。それくらい答えてくれたっていいだろ?」


 言葉を交わしたくない。眼の前の男が気持ち悪くて仕方ない。我慢の限界が来たので、星宮は北条を無視したまま教室を出ようする。


「おいどこ行くんだよ。トイレならあっちだぞ」


「......」


「あー、怒らせちゃったか。ま、今日も一緒に帰ろうな、星宮」


 わざと無神経を装い、星宮を挑発する。ここで下手にイライラとしてしまえば相手の思うつぼだ。こんなくだらない仕掛け合い、一体これのどこが交際関係と言えるのだろう。


「――」


 教室を出る直前、ちらりと後ろを振り返ってみる。満足そうにいやらしい笑みを浮かべる北条が見えたので、直ぐに視線を逸らした。



***



 裏で蠢く魔の手とは別に、文化祭は刻一刻と近づいてくる。残された準備期間はもう僅かで、どのクラスの出し物もだいぶ仕上がってきた。ちなみに星宮のクラスは工作で水族館を作るらしい。今は創作物コンテストと出し物の二つでクラスは大忙しだ。


「――ごめんなさい、今日の文化祭準備も休みます」


「......あっそ」


 文化祭が近づき、興奮が高まる中、星宮は一人その波に乗れずに居た。それもそのはず、秋が学校に来ず、庵とも会えず、北条と交際関係になってしまった今。とてもじゃないが文化祭準備を楽しんでいられる精神状態じゃないのだ。


「......朝比奈さん」


「なに」


「......やっぱりなんでもないです」


「そ」


 誰かを頼りたいけれど、頼れない。朝比奈には裏切られたのだ。淡い期待を抱いたところで、この女が庵の母――青美の命を奪った共犯者である事実は変わらない。


 ――朝比奈美結も敵なのだ。



***



 とぼとぼと、不安定な足取りで帰路を歩く。北条と一緒に帰る約束は無断で断った。とてもじゃないが、いよいよ限界なのだ。大嫌いな男と交際ごっこをしているのは。


「......はぁ」


 北条を思い出しただけで、胸がズキリと痛む。考えただけで頭痛がして、病気にでもかかってしまったかのような気分だ。


(今日は......そうですね、何か美味しい物でも食べて、元気出しましょう。それから秋ちゃんに連絡を取ってみたり......)


 落ち込んでばかりいてはダメなので、なんとか前向きに今日の予定を考え出す。あまりお金は無いけれど、今日くらいケーキを買ってもバチは当たらないだろう。大好きな喫茶店でお気に入りのガトーショコラでも買おうか、なんてことを考えたら少し気分がマシになった。


(約束は破ることになっちゃいますけど、今週中には天馬くんに事情を説明しないと......え)


 いろいろと考え事をしている最中、ポケットの中のスマホが振動した。


「......誰」


 何の通知か知らないが、ものすごく嫌な予感がする。画面にヒビの入ったスマホを取り出し、恐る恐る確認した。LINEが一件来ている。星宮は顔を青くして呼吸を詰まらせた。


『勝手に一人で帰るなよ。お前彼女の自覚あるの? 殺すぞ』


 LINEを送ってきたのは北条で、まるでDV彼氏のテンプレのような文面が送られていた。星宮はその文章を見た瞬間、その場に硬直する。確かに星宮は北条と一緒に帰る約束を破ったが、ここまでの暴言を吐かれるものなのか。しかも北条の言う『殺す』は冗談の類に見えないので、更に恐ろしい。あの日から、北条は星宮に本性を隠さなくなったのだ。


 そして追い打ちをかけるかのように北条から更にLINEが飛んでくる。


『あんまり舐めた態度取ると元カレがどうなってもしらないぞ』


 新しく来たLINEに星宮は背筋を凍らせる。元カレとは、おそらく庵のことを言っているのだろう。庵の名前を出されたら星宮には反抗の余地がない。最悪なのは、北条の魔の手が再び庵を傷つけることだ。それを防ぐには星宮が盾になるしかない。


「......北条くんは、なんで私をここまで苦しめようとするんですか」


 北条が執拗に星宮を追い詰めている理由は未だ不明。一体、星宮が彼に何をしたというのだろうか。とりあえず北条には『ごめんなさい』とだけ返信し、トーク画面を閉じた。


「......っ」


 スマホを力強く握りしめる。衝動でその場に投げ捨てたい気分だ。


 北条の言いなりでしかない自分が情けない。庵のためとはいっても、大嫌いな北条に縛られ続けるのはもう限界だった。ストレスで頭がおかしくなりそうになる。


「早く、なんとかしないと」


 いつまでも北条と交際ごっこをしている場合ではない。この最悪を抜け出す最善な方法を見つけて、可能であれば北条に相応の罰を与えたい。誰も北条という危険な人間との『戦い』に巻き込ませるわけにはいかないから、一人で全て終わらせる。


 星宮の心が擦り切れてしまう前に――。



 

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