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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
第三章・前編

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◆第93話・B◆ 『陰キャに優しいギャルって存在するんですか?』


「――今日から文化祭に向けて準備を始めます。創作物コンテストのペアは、公平性を保って生徒会がくじ引きで決めさせてもらいました。今からペアの組み合わせが書かれた紙を貼りますけど、文句とかは言わないようにお願いします。生徒会が決めたペアはもう決定事項で、特別な理由がない限りは文化祭が終了するまで共に活動してもらうことになります」


 三学期になって初めて登校した庵。そんなめでたい日に、思わぬピンチは訪れた。そう、文化祭準備だ。もっと細かく言えば、創作物コンテストという強制的なペア活動に理由がある。


「ペア勝手に決められるとかマジかよ......」


「ま、一人ぼっちをなくすためにも仕方ないんだろ。僕は構わないけどな」


 クラスに友達といえる友達が暁しかいない庵にとって、ペアを自由に決められるのはかなりの地獄。普段まったく話さないクラスメートとペアになって、気まずくなる未来が見える。


「うわぁ、俺ってクラスのみんなからしたらハズレくじなんだろうなぁ。俺とペアになった人めちゃくちゃ申し訳ないんだけど」


「卑屈か。誰もそんなこと思わないから、庵はもっと自分に自身を持て。星宮さんが悲しむぞ」


「......ここで星宮の名前を出すなよ。卑怯者」


 星宮の名前を出されると庵は弱い。庵は今、星宮のために頼りがいのある男になろうと絶賛努力している最中。それならば、たかがペアワークごときでくよくよしている場合ではない。うつむきかけていた心にカツを入れて、なんとか気持ちを前向きにする。


「......ま、そだな。どんなペアでも何とかしてやるよ」


「お、急にやる気になった。やっぱ星宮さんパワーはすごいな」


「うるせぇ」


 茶化してくる暁を軽く小突いておく。しかし星宮という存在が庵の支えになっているのは事実なので、暁が言っていることはあながち間違いではない。


「じゃ、ペア分け貼りまーす」


 そんなこんなで、生徒会に所属しているクラスメートがペア分けを張り出した。早くペア分けを見ようとがやがやし始めるクラス。庵もその一人に混じり、ペアの人を確認しようとする。


 そして――、



『天馬庵・甘音あまねアヤ』



 全く話したことのないクラスメートの名に、庵の顔は盛大に歪んだ。



***



 ――甘音あまねアヤ。


 彼女を簡単に解説しよう。黄色の長髪をポニーテールでまとめ、健康的な肉付きをし、いつだって笑みを絶やさない元気ハツラツな女子。庵を陰のモノとすると、彼女は対極に位置する完璧な陽のモノ。住む世界が違いすぎる二人は、何と今日まで一言も会話を交わしてこなかった。


 早速ペアごとに集まり、庵と甘音は対面する。にっこりな甘音と、死にそうな顔をした庵が向き合った。陽のオーラを全身に感じ取りながら、まずは庵から話してみる。


「どうも初めまして、天馬庵です。ペアが俺なんかですみません」


「ええぇ!? なんで謝ってるの天馬くん! よく分かんないけど、とりあえず顔上げてぇ〜っ」


 いきなり頭を下げてきた庵に困惑を隠せない甘音。あわあわとしながら、パタパタと庵の前で手を振っている。その様子は少し小動物のような印象を見受けられた。


「それに、初めましてって何。ワタシたち、今日まで同じクラスだったでしょー? まさか、ワタシの存在感が薄すぎて、今日会うまで気づかなかったとかっ!?」


「いや、そういうわけじゃないけど......まぁ、今日まで一回も話してこなかったし、ほぼ初対面みたいなものかと思って『初めましての挨拶』をしてみました」


「えー、なにそれ。意味分かんなくて面白いね!」


「ははは、そーだね」

 

 アヤの屈託のない笑みに照らされ、庵は陽のオーラに溶けそうになる。ひねくれた庵は甘音が一生懸命会話を盛り上げようとしているのでは、なんてことを考えてしまい、負の連鎖に陥りかけていた。あんまり気を遣わないでほしいと思う庵だが、甘音のこの元気さは”素”のもの。やはり、陰のモノには陽の考えを読むことはできないのか。


「まぁでもさ、これまで話してこなかったっていっても同じクラスメートなんだから仲良くしようよ! ワタシ、めちゃくちゃフレンドリーだよ? 全然LINEの交換とかオッケーだしぃ、プリクラもいけちゃうよー」


 可愛らしく唇に手を当てながら、えげつないことを言い出す甘音。最早、庵が異性として見られていないかのような扱いだ。しかし前述の通り、これは甘音の素。別に庵を特別視しているわけではなく、彼女は素でこうなのだ。


 庵もいつまでも甘音と距離を取っているわけにはいかないので、ここは素直に相手の好意に甘えておくことにする。


「......まぁそこまで言うなら仲良くさせてもらおうかな」

 

「おっ、その調子その調子っ。創作物コンテスト一緒に頑張ろうね、天馬くん!」


 ニッと笑って、拳を突き出す甘音。数秒かけてその拳の意味を理解した庵が、同じように拳を突き出す。こつんと二人の拳がぶつかりあった。


「よろしく、甘音」


「え、いきなり呼び捨て!? 大胆だねっ」


 庵の呼び方に目を丸くする甘音。そこは触れないでほしかったと思う庵だが、甘音は何でも思ったことは口にしてしまいそうな性格なので、仕方のない話だろう。頭をかきながら庵は弁明する。


「あぁいや、俺さん付けが苦手でさ......気に障るんならやめるけど」


「いや、全然やめなくていいよっ! というか、めちゃ嬉しい! いやぁ天馬くん意外と大胆なんだねぇ」


「......あんまからかわないでくれ」


「ぅえ!? からかったつもりはないんだけどなぁ。ごめんよぉ、天馬くぅん」


 てへ、と舌をだして謝る甘音。その愛らしい仕草に、庵の甘音に対する警戒が少しずつ解かれていく。本人の言う通り、甘音はかなりフレンドリーでコミュ力も高く、緊張さえとれてしまえば庵も普通に会話を続けられる気がしてきた。


「陰キャに優しいギャルは本当に存在したのか......」


「んー? なんか言った?」


「いや、なんでも」


 それを言うならオタクに優しいギャルなのだが、細かいことは別にどうでもいいだろう。庵はふぅと息をついて、甘音に目を合わせた。何気に、いつの間にか女子と目を合わせられるようになっている。思わぬところで星宮の恩恵を感じられた。


「それじゃ天馬くん! そろそろ創作物コンテストの話し合い、しよっ。ワタシたちのパワーで最高の作品を作っちゃおうねー」


 甘音が目をキラキラさせながら拳を上げる。その無邪気な様子に、庵もほんの少し笑みを溢した。



 


 

甘音あまねアヤ


 とにかく元気なJK。くりくりとした瞳に、色白な肌。黄色の長髪をポニーテールにまとめている。誰とでも仲良くなれてしまうコミュ力の化け物で、冗談抜きで友達百人はいるらしい。そして彼女はいつだって笑顔を絶やさない。

 何がとは言わないがD。


○部活 帰宅部

○身長 165cm

○体重 健康的です

○趣味 友達と放課後遊ぶこと


○備考 重たい病気を抱えている



 予告していた新キャラです。第91話の設定集にもいつか載せます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 甘音さん、すごく明るくて魅力的ですが、北条あたりに仕組まれていないか心配になりますね…彼女も、庵もトラブルに巻き込まれなければいいのですが…。
2023/06/09 00:57 退会済み
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