5.
「それは……、いや、その前に、これを聞いても、絶対に笑わないと約束してくれ」
「え、ええ、もちろん絶対に笑いません。お約束します」
「子供の頃の話なんだけれど、私たちは、会ったことがあるんだ」
「え、そうなんですか?」
「ああ、父が主催したパーティで、君も私も、そのパーティに参加していた。そこで私は、うっかり飲み物を服にこぼしてしまってね。その服は、そのパーティのために、父が用意してくれたものだった。このことがバレたら、父にひどく怒られると思った私は、この世の終わりだというくらい絶望していた。……あ、笑わないって言ったのに、笑っているじゃないか」
「ごめんなさい、つい……。でも、思い出しましたよ。あの時服に飲み物をこぼして泣きそうな顔をしていたのは、ローマン殿下だったのですね」
私はつい笑ってしまった。
笑ったのは、久しぶりのような気がした。
でも、確かに思い出した。
私は子供の頃、ローマン殿下に会ったことがある。
「ああ、そうだよ。まあ、確かに、今でこそ笑い話だが、当時の私は本当にこの世の終わりかと思ったんだ。子供の頃の私は、父に怒られるというのは、それくらい怖かったんだ。……まあ、それで、そんな私を見かねた君は、君が私に飲み物をこぼしたと言って私のことを庇ってくれた。それで、私は父に怒られずに済んだというわけさ」
「ありましたねぇ、そんなこと。あの時私の父がひどく動揺して、陛下にひたすら頭を下げていたのをよく覚えています」
「まあ、結局は、子供同士のことだから、大目に見てもらえたけれどね。要するに私が言いたいのはね、そんな優しい心を持った君がヴィンセントを殺したなんて、どうしても思えないんだ。だから私は、犯人は君ではないと初めから確信していた。私が君を信じた根拠なんて、この程度のものなんだよ。笑いたければ、笑ってくれ」
「いいえ、私は笑いません。最後に私を信じてくれる人が現れたことは、私にとっては本当に救いになりました。これで少しは、死を受け入れることができます」
私は真剣だった。
処刑は決定しているのだから、覚悟はできている。
最後に信じてくれる人が現れたことが、どれだけ私の救いになったか計り知れなかった。
「さっきから最後だ最後だと言っているが、君はべつに死ぬわけじゃないよ」
「え、でもさっき、私の処刑を止めることはできないって……」
「ああ、確かにそうだ。でも安心してくれ。君を助ける手は、考えてある」
ローマン殿下が提示したその内容は、驚くべきものだった。