4.
「君に少し、話がある」
私の処刑執行の前日、ローマン殿下が訪ねてきた。
この国の第一王子である彼が、どうして私なんかを訪ねてきたのだろう。
もしかして、私に恨みがあるのだろうか。
私が殺したとされているヴィンセント殿下は、この国の第三王子だ。
つまり、ローマン殿下とヴィンセント殿下は兄弟だ。
弟を殺した私に恨み言の一つや二つ言いたくなるのも、当然のことといえる。
しかし、彼は意外な言葉を口にした。
「私は、君がヴィンセントを殺したとは、どうしても思えないんだ」
「え……」
ローマン殿下の言葉に、私は驚いた。
「正直に、私の目を見て言ってほしい。君は、ヴィンセントを殺したのか?」
「いいえ、私はヴィンセント殿下を殺してなんかいません」
私は彼の目を見て、はっきりと答えた。
「やっぱり、そうなのか……。ということは、犯人はほかにいるというわけだ」
「あ、あの、ローマン殿下。私の言うことを信じてくれるのですか? あの時、あの場にいた人たちは、誰も私のことを信じてくれませんでした。それどころか、私を人殺し呼ばわりする人までいました」
「ああ、話には聞いているよ。まったく、愚かしいことだ。根拠のない勝手な憶測やその場の雰囲気に流されて、君を犯人扱いするだなんて。私は、あの場でそのような行動をした者を軽蔑するよ」
ローマン殿下は、真剣に怒っている表情だった。
あの場では誰も信じてくれなかったのに、ローマン殿下は私を信じてくれた。
そのことが嬉しくて、私は気付けば笑みを浮かべていた。
「おいおい、何を暢気に笑っているんだい? 君は明日、処刑されるんだぞ」
「ごめんなさい、嬉しくて。あの場にいた人たちは誰も私のことを信じてくれませんでしたが、ローマン殿下は私のことを信じてくれました。たった一人とはいえ、最後に私のことを信じてくれる人が現れたので、嬉しかったのです。どうしてローマン殿下は、私の言うことを信じてくださるのですか?」
「君を信じた理由か……。まず第一に、君が犯人ではないかもしれない、という調査結果が新たに出てきたからだ」
「え、そうなんですか?」
「ああ。しかし、証拠としては、少し弱い。その程度では、決定している君の処刑を止めることはできない」
「そうですか……。でも、もう覚悟はできています。あの、殿下、第一の理由ということは、第二の理由もあるのですか?」
「ああ、もう一つ、私が君を信じた理由だが、実は、その証拠が出る前から、私は君は犯人ではないと確信していた」
「え、どうしてですか?」
「それは──」
ローマン殿下は、意外な理由を口にした。




