3.
ついに、私は処刑の日を迎えた。
昨日は、ローマン殿下が私のところにやってきて、本当に驚いた。
第一王子が訪ねてきただけでも驚いたのに、あんなことを言われたから、余計に驚いた。
私は、処刑台の上ではりつけにされていた。
処刑台の周りには、たくさんの見物人がいる。
処刑方法は、火あぶりだ。
熱さに苦しみながら、ゆっくりと息絶えていくという未来は、想像しただけでも苦痛だった。
それが今、現実として私の身に降りかかろうとしている。
火がつけられた。
私の周りは、あっという間に火の海になった。
さっきまでは、妹たちの姿が見えていたが、それも今は見えなくなってしまった。
妹のアマンダは、悲しんでなどいなかった。
むしろ、喜んでいる様にさえ見えた。
両親も、元婚約者も、誰も悲しんでなどいなかった。
火の手が私に迫ってきている。
私の周りは三百六十度、火に囲まれているので逃げ場はない。
そもそも、はりつけにされているので、逃げることはできないのだけれど。
死が目前に迫っていると、嫌でも過去のことを回想してしまう。
幼いころから、妹には奪われてばかりだった。
おもちゃやドレスを奪うなんてことは日常茶飯事。
両親は妹のアマンダを溺愛しているので、私に我慢を強いるだけだった。
そんな家庭環境だったから、私は次第に家族に対して心を閉ざした。
そのせいで、何を考えているかわからない、なんて非難される始末。
さらに、婚約者は私を裏切って妹と浮気していた。
そのうえ、ヴィンセント王子を殺した罪まで着せられた。
いいことなんて、なかったのかもしれない。
それでも、今まで頑張って生きてきた。
それなのに、まさか、こんなことになるなんて……。
*
(※アマンダ視点)
お姉さまが、火に囲まれた。
もう、お姉さまは見えなくなってしまった。
あぁ、残念。
もう少し、悲しんでいる姿を見たかったのになぁ。
こんなに事がうまく運ぶなんて、思ってもみなかった。
ダミアンはお姉さまと婚約破棄することができたから、これで堂々と私と一緒にいられる。
それに、ラフルア家の次期当主の座を、お姉さまから奪うことができた。
今までずっと、お姉さまからいろいろなものを奪ってきた。
まさか、命まで奪う結果になってしまって、とても残念だ、なんてことは思わない。
まあ、私に奪われた時のお姉さまの顔が、もう見れなくなるのは少し残念かな……。
お姉さまを囲んでいた火が消えた。
そこから現れたのは、はりつけにされている人型の何かだった。
焦げて真っ黒になっているので、もう誰なのかわからない程だった。
さようなら、お姉さま。
あの世へ行けば、私から何か奪われる心配もないから、安心できるわね……。
*
(※ローマン殿下視点)
私は自室で、考え事をしていた。
ルーシーの処刑が執行されてから、すでに三日が過ぎている。
本当なら、処刑が執行される前に何とかしたかった。
しかし、いくら第一王子の私といえども、決定している刑を中止することはできなかった。
部屋の扉をノックする音が聞こえた。
私は慌てて、少し待つように返事をした。
そして十秒程経ったあとに、私は部屋に入るよう返事をした。
「ローマン殿下、お食事を持って参りました」
メイドが食事を持ってきてくれた。
普段から私は、自室で食事をとるようにしている。
メイドが、テーブルに皿を並べ終えた。
彼女は部屋から出て行こうとしたが、振り返って私の方を見た。
「あの、殿下、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「……なんだ?」
私は気付かれないように深呼吸した。
鼓動が、少し速くなっているような気がした。
落ち着くよう、自分に言い聞かせる。
「差し出がましいようですが、どうして急に、二人分の食事をお召し上がりになり始めたのですか? 殿下の食事を用意しているシェフが、殿下の健康状態が心配だと言っておりました」
「ああ、いや……、いいんだ、それは。君たちは、気にしなくていい。私が少々太ったからといって、君たちをクビにするようなことはしないから、安心してくれ。……話というのは、それだけか?」
「はい。失礼しました」
メイドが部屋から出て行った。
「ふぅ……」
私は大きく息を吐いた。
どうやら、本格的に怪しまれている様子はなかった。
「さて、食事にしよう。もう出てきてもいいよ」
私は部屋に隠れているある人物に声を掛けた。
「あぁ、隠れているのがバレないかと、どきどきしました」
彼女は、テーブルを挟んで向かい側の席に着いた。
「さて、それじゃあ、食べようか」
「はい! あぁ、毎日こんなに豪華な食事を頂けるなんて、死んだかいがありましたね」
「こらこら、冗談でも死んだなんて言ったらいけないよ」
私は彼女を少し窘めた。
「あはは、すいません。それでは、いただきます」
私たちは食事を始めた。
真正面にいる彼女を、私は見た。
彼女は美味しそうに料理を食べている。
確かに、死人にしては元気そうだ。
私の正面に座っている人物は、世間では処刑されて死んだとされている、ルーシー・ラフルアだった。