3.命懸けのワガママ。
ここまでで、ひとまずオープニングかな。
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『マスター! 止まってください!!』
「え、どうしたの!?」
声のした方へと走っていると、エクスが突然そう言った。
思わず足を止めて訊き返すと剣は、緊張感のある声でこう続ける。
『この先にある魔力反応は、デイモンの比ではありません!』
それを聞いて、ボクも意識を集中してみた。
すると、すぐに全身が震え上がるような感覚に襲われる。このまま無策に突っ込めば、間違いなく命を落とすだろうと思わされた。
エクスはそれを即座に感じ取って、ボクに忠告してくれたのだ。
だけど、それはつまり――。
「もしかして、女の子を見捨てろ、って言うの……?」
『………………それは……』
悲鳴の主――おそらくは年端も行かない女の子のことを見殺しに、ということ。もちろん、エクスはボクの問いかけに窮した。
しかし剣もまた、苦悩しているのだろう。
このまま突っ込めば、さっきも言ったようにボクは死んでしまう。
「…………」
その判断ができないほど、ボクも冒険者として落ちぶれてはいない。
だけど、それ以上に――。
「――ねぇ、エクス?」
『なんでしょう、マスター……』
譲れないものがあった。
だから、ボクはエクスにこう告げるのだ。
「少しだけで良いんだ。ボクのワガママを、聞いてほしい」――と。
◆
――魔法使いの少女は、目の前の敵に震え上がっていた。
「ど、どうしてこんな階層に……レライエが……!?」
何故なら、彼女の目の前に現れたのはダンジョンの下層に住まう死神だったから。アンデット族の王と呼称される魔物――レライエ。
それがどういうわけか、少女の前で弓を携え宙を舞っていた。
レライエに魔法は効かない。
故に、少女は抵抗することもできなかった。
もっともそれ以前に、彼女のような下級冒険者には敵うはずもない。
仲間たちは、少女を見捨てて逃げ去った。
もとより役立たずと言われ続けていた彼女を捨てるには、好都合だったのだろう。
「や、だ……! 死にたく、ない……!」
完全に腰が抜けてしまっていた。
それでも、這うようにして必死にレライエから距離を取る。
だがジリジリと、次第に距離を詰めてくる死神に、少女は身体を強張らせた。
「いや、いやぁ……!」
そして、ついにレライエが矢を番えた瞬間。
その少年は突然、姿を現わした。
「え…………!?」
放たれた矢を一刀両断し、少女の前に立つ少年。
彼は彼女を守るようにしながら、死神を睨みつけていた。
「大丈夫? 今のうちに、逃げられるかな」
そして、そう言う。
名前も知らない少年の言葉に、呆気にとられる少女。
足は動かせない。そのことを彼は察したのだろう。そのため――。
「だったら、一か八か……!」
剣を構えて一直線に、レライエへと躍りかかる……!
少女はただ、その後姿を見ていることしかできなかった。
◆
『ボクはどうなっても良い。だから……』
ここへたどり着く前に、カイウスはそう言った。
エクスにそれを止めるすべはない。剣は、あくまで剣なのだ。
主が行くと決めれば、進むしかない。だから、別れすら覚悟した。
『(……これは、いったい…………?)』
しかし、そうはならなかったのだ。
カイウスは高く跳躍すると、速射される矢を両断しながらレライエへと肉薄する。
『(おかしい。先ほどまでとは、桁が違う……!?)』
エクスは困惑した。
何故なら、少年の中に眠っているであろう潜在能力。それは先ほどのデイモン戦の時に感じたものと比べても、桁違い――いいや、規格外といっても良い。エクスも聖剣として、多くの英雄の力に触れてきた。
だがこの少年――カイウスの力は、異常だ。
人間が秘めるには、どう考えても大きすぎる力。
エクスは動揺を隠しきれずにいた。
だが、すぐに気持ちを切り替えて目の前の敵に集中する。
勝利は目前。
最後に、カイウスは聖剣をレライエの頭部に突き立てた。
【キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
――甲高い断末魔の叫び。
ダンジョンにそれが響き渡って、やがてレライエは魔素に還っていった。
『マスター……貴方は、いったい……?』
戦いを終えて、聖剣は少年に訊ねる。
しかし、彼はその問いかけが聞こえなかったのだろう。
「ありがとう、エクス……!」
心の底から安堵したように、ただそう笑うのだった。
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次回から、第1章(予定)!!