2.聖剣の力。
ちょい長め。
面白かったらブクマ、評価などお願いします。
創作の励みとなり、頑張れます……!
「……えっと、エクス?」
『はい、なんでしょう。マスター』
「いや、その。いきなりデイモン狩りなんて、ボクには……」
エクスが伝説の聖剣だと自称した翌日。
ボクたちは、街外れのダンジョンの中にいた。
それというのもエクスが朝になって、自分の力を見せましょう、と息巻いたのが理由である。ボクは少し悩んだものの、エクスの意見を吞むことにした。
それでも、不安は不安なわけで……。
『ご安心ください。聖剣としての私の能力があれば、デイモン程度の魔物あっという間に退けられます!』
「う、うーん……」
とはいうものの、この勢い。
ボクは思わず苦笑いして、しかし相棒を信じることにした。
「分かったよ。でも、危なかったら逃げるからね?」
『えぇ、それで大丈夫です』
もっとも、保険をかけて、だけど。
とにもかくにも、乗り掛かった舟である。
ボクはエクスを引き抜いて、ゆっくりと呼吸を整えた。
「なんだか、不思議な感じがするな……」
『えぇ、力が漲るでしょう?』
「……うん、すごく」
すると、剣の語る通り。
ボクの身体には、今まで感じたことのない魔力が満ちていった。
その正体は分からないけれど、少なくとも心地よい。邪なものではなく、むしろ自分の肌に合うといえば良いのだろうか。
とかく、経験にないのに身体によく馴染んだ。
「これが、エクスの……?」
『その説明はまた、後にしましょう。……きましたよ』
「………………!!」
そうしていると、一気に周囲の空気が重くなった。
魔物の気配。それも、なかなかに大きい。
おそらく、ボクたちが探している奴のそれだった。
「デイモン……!」
岩場の影から現れたのは、筋骨隆々な悪魔。
鉤爪のような手をだらりと垂らしながら、ゆっくりとこちらへやってきていた。どうやら、ボクたちの居場所もバレているらしい。
『マスター。ひとまず、私のことを信じてください。そして――』
エクスが、真剣な声色で語り掛けてきた。
『あとは感覚に任せて、動いて下さい……!』
そして、その直後だ。
【ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
デイモンが、咆哮を上げてこちらに迫ってきたのは。
「…………!」
エクスに言われた通り、感覚に従うように身体を動かす。
すると自然、足が向かって右斜め前方へ。
デイモンの攻撃を掻い潜るようにして、ボクは相手の背後に転がった。
すぐに身を起こして剣を構える。
『今です、マスター!!』
「は、あああああああああああああああああああああああ!!」
そして、エクスの合図と同時に。
ボクは思い切り剣を振りかぶって、デイモンに叩きつけた……!
そうすると、断末魔の叫びを上げる間もなく。
デイモンは一刀両断され、魔素の欠片へと還っていった。
「す、すごい……!」
ボクは唖然としながら、その様子を見守る。
手にある感触は間違いない。ボクはこの手で、敵うわけのない魔物を倒したのだった。いったいどういう絡繰りなのか、ひとまずエクスに問いかける。
「ねぇ、エクス。いったいどういうこと、なの?」
『そうですね。では、説明しましょう』
すると、エクスはどこか満足したように語り始めるのだった。
◆
「潜在能力を、引き出す……?」
『えぇ、そうです。私の聖剣としての力は、主の持つ戦闘能力を最大限に引き上げること。今回はまだ序の口ですが、よく分かったでしょう』
「な、なるほど……」
エクス曰く、ボクの中に漲った力の正体は『ボクの中に眠る力』とのこと。
この剣の能力は、その持ち主が持つそれを最大限に引き出すことだ、という話だった。つまり非力な自分がデイモンを倒せたのは、エクスのお陰、ということになる。
なるほど、と合点がいく。
しかしそれと同時に、思うことがあった。
「どこか、複雑だな……」
つまるところ、これはボクの力ではない。
すべてはエクスのお陰だ。そう思っていると、剣はこう言った。
『気にすることはありません。いまの戦いで表出したのは、いずれマスターが手に入れる力に違いないのですから』
「……? どういう、こと?」
首を傾げると、エクスは続ける。
『潜在能力ということは、努力次第で私が不要になる、ということですから。私はあくまで、マスターが真の実力を身に着けるまでの補助に過ぎません』
「………………」
少しだけ、寂しそうに。
エクスの言葉は、なにかを思い出すように語っているように思えた。
ボクは剣の語ったそれに黙り、しかしすぐに頷く。そして、
「分かった。でも――」
ハッキリと、こう告げるのだった。
「ボクは、キミのことを手放さないよ!」――と。
……何故だろう。
この剣のことは放っておけない。そう、思った。
仮にボクが力を手にしたとしても、エクスとは共にありたい。
『マスター……?』
「だって、ボクたちはもう【相棒】でしょ?」
だから、自然とそんな言葉が口をついて出た。
利害とか、そんなもの関係なしに。ただ純粋に、不思議なことに、ボクはこの剣に運命めいた何かを感じ取った。
そしてそれは、きっとエクスも同じ。
聖剣は少しだけ息を呑んだようにしてから、こう言うのだった。
『これは、とんだ物好きなマスターですね……ふふふっ』
小さく。
初めて笑いながら。
「さて、それじゃ。そろそろ帰るとしようか!」
ボクはそれに安堵して、そう提案した。
だが、その時だ。
「だ、誰か助けてぇぇぇぇぇぇ!?」
そんな、女の子の悲鳴が聞こえたのは。
『マスター、いまの……!』
「分かってる!」
聖剣の言葉を聞くよりも先に、ボクの足は動く。
そして、声のした方へと駆け出すのだった。
ハプニング発生!!