1.聖、剣……?
安心安全のテンプレ?
『ありがとうございます、カイウスさん』
「いや、良いけども。エクスの声は、他の人には聞こえないんだね」
帰宅して、ボクはひとまず剣――エクスと名乗った――と言葉を交わす。
人にするように椅子を持ち出し、立て掛けてあげるとエクスは少しだけ機嫌が良くなったように思えた。そして、どこか真剣な声色でこう語る。
『……まぁ、今の時代には不要かもしれませんが。これも、縁ですね』
「え……? 縁、ってなに?」
『いえいえ、お気になさらず。こちらの独り言ですから』
しかし、こちらが訊き返すとそうやって煙に巻くのだった。
「うーん、まぁいいか。とりあえず、修復してほしいんだっけ?」
気になりはしたが、自分には関係のない話だろう。
そう思って、ボクは本題に移ることにした。というのも、エクスは自らを修復してほしい、と願っていたのだ。それであれば、ボクにも多少の覚えがある。
『はい。よろしくお願いします』
「分かった。それじゃ――」
エクスの返事を聞いて、ボクは剣の前に立った。
そして、手をかざして意識を集中。すると、魔力が集まり……。
「……よし、これで良いかな?」
修復魔法によって、エクスは見違えるように綺麗になるのだった。
刀身には錆びや刃こぼれは一つもなく、鞘や柄も新品同様に。ボクの修復魔法はそこまで有用ではなかったけど、今回はやけに上手くいったようだった。
その証拠に、エクスは――。
『あぁ、これは素晴らしい……!』
そう、感嘆の声を漏らしていた。
そして自身の状態を確認したのだろう。
『まさしく、私の最盛期に相違ありません! カイウスさん、貴方の修復魔法は私という剣にとって、最も合っていたのですね!』
ボクのことを手放し(?)に称賛した。
「いや、偶然だよ。ここまで上手くいったのは、初めてだし」
だけど、ボクは苦笑いして頬を掻く。
事実ここまで上手くいくなんてことは、今までなかった。人それぞれ魔力というものには差異があって、あらゆることに向き不向きがある。
今回はたまたま、エクスという剣とボクの魔力に相関性があったのだろう。
だから、特別なことでもない。
そう思ったのだけど……。
『いえ、私は決めました……!』
エクスはなにやら決断したのか、力を込めて言う。
こちらが首を傾げていると、剣はこう続けるのだった。
『私はカイウスさんを新しいマスターと決定し、そして――』
ボクは、この後の言葉に耳を疑うことになる。
『【聖剣】としての力、貴方のために捧げましょう!』
…………へ?
いま、この剣は自分のことをなんて言った?
なにやらとんでもない発言があったような気がしたんだけど……。
「聖剣……?」
ボクがエクスの言葉を理解するには、小一時間ほどかかったのだった。