クソ×勇者=クソ野郎
クソ勇者来たぁあー!
魔王がフラグにフラグを旗立てた上に、小山を形成してフラグを立てるから、勇者が秒で来たああ!!
「おい! どうすんだよ! いきなり来たぞ! お前が余計なことを言うからクソ勇者が、壁ぶち破ってきたぞ!!」
「……」
魔王黙っちゃったよ! まぁそれもそうか、来るのは難しい~的な事を言った傍から、壁ぶち破られてのクソ勇者のご登場だもんよ。
なんとも言えない表情の魔王が、俺のほうを一度見てから、壁をぶち破った勇者のほうを見る。
「ちょっと勇者様! 扉をぶち壊すときは言ってくださいよ~!」
聞き覚えのある高い声、女戦士が扉をぶち壊したことによって発生した砂埃で自身の体や服についた汚れをはたきながら祭壇の間に入ってくる。
「ゲホゲホ、ほ、本当ですよ勇者様……まったく、僕は魔力はありますけど体力はあまりないんですから」
砂埃のせいでむせているのは、男魔法使い、眼鏡をクイっと片手で上げながら、びくびくと勇者の後ろを歩いてくる。
「おう、悪かったなみんな、やっと宿敵の魔王に会えると思ったら、うれしくてな」
「ほんと、あいつをクビにしてから一気にことが進みましたね!」
「あ、あいつ……や、やっぱり、厄病神だったんだね」
あ? 今こいつらなんて言った?
ぶっころしたろか?
「おいおい、男魔法使い厄病神は言いすぎだろ」
勇者が、男魔法使いにそういって、俺のことをフォローしたのかと思いきや。
「厄病神に失礼だろ」
はい、ぶっころ。
あの野郎ども、俺が今目の前の祭壇で、寝たふりをしていることに気づいていないのか?
まぁ、どっちにしろ、必ず後悔させてやる。
「あら、いらっしゃい勇者~、私は魔王よ」
「貴様が魔王か!! 僕は勇者だ! 貴様を倒す者だ!」
かぁ~絶対ドヤ顔してるよ!
気持ちわり~、鳥肌立ってきた。
「勇者~、私はあなたとこうして、相まみえる時を心待ちにしていたの~」
うええ、違う意味で鳥肌が立つ……。
「き……、いや、僕も貴様とこうして相まみえる時を心待ちにしていた! そして今日が貴様の最後の日だ!」
うっわ……いたたた、色々いたたた。
こいつ確か17歳で、もう成人してるはずだよな?
いい大人が、しかも勇者がこんな痛いセリフを言うなんて……いたたた。
「勇者~、そんなことを言ってもいいのかしら?」
「ど、どういうことだ?」
「これを見なさい!!」
魔王がそういいながら、祭壇で寝たふりをしている俺の首根っこをつかんで、持ち上げる。
「そ、そいつは……」
「さぁ、あなたに仲間を犠牲にできるだけの気概はあるのかしら?」
魔王がそういって、勇者が驚いているのをしめしめと眺めていると……勇者が、光魔法を放ってきた。
しかも……魔王めがけてじゃなくて、俺めがけてだ。
「ちょ、ちょっとあんた!? 自分の仲間を殺す気!?」
「なるほど、ダンジョンの道中にピーマン草の炒め物やマンドラゴラの涙を入れたトマト草のスープがあったのは、貴様の仕業か! この裏切りもの!!」
俺は、うっすらと目を開けて魔王のほうを見る。
魔王が頬を少しだけ赤く染めて視線をそらしている。
「い、一応……聞くかもしれないと思って」
おかしい、この言動の魔王が気持ち悪い物体にしか見えない……。
そして、何よりも……設置するのかよ。
んで、極めつけは……。
「誰が、裏切り者だと!! このクソ勇者!!」
俺は、魔王に首根っこをつかまれた状態のままで、クソ勇者に怒鳴りつける。
急に目を開けて怒鳴る俺に、一瞬勇者の動きが鈍くなる。
「本来一番前に立たなきゃいけない勇者が、この聖剣の錆にしたいモンスターは大物がいいとかいう、わけわかんない理由で俺を一番前に立たせて、俺のスキルを酷使させたくせに! いざ、俺のスキルの【蓄積】がなくなってきたタイミングで……はい、さよならだと!ぶっ殺したろか!! 俺がどれだけお前たちのために尽くしてきたと思ってんだ!! 女戦士の仕事も男魔法使いの仕事も俺一人に任せやがって!! しかもいつもいざ魔王軍の幹部とかを討ち取ったかと思いきや、お前のようなクソ勇者がその幹部と戦えるまでの過程を作ってやった俺にねぎらいの言葉の一つもなく、それがお前の仕事だから当たり前だ、だと……? むしろここまで仲間のことをないがしろにて、よくもまぁ……そんなすました顔ができるな」
俺の中に今まで【蓄積】されていた『文句』があふれ出した。
「あ……あんた、結構壮絶な、旅をしてきたのね……」
あれ? なんか魔王がこの中で一番まともじゃね?
「っく、そんな屁理屈を、女戦士、男魔法使い、一気に叩くぞ! 人質のことは気にするな! 勇者である僕を裏切った、裏切り者だ!!」
「はい! 勇者様!」
「わ、わかりました! 勇者様!!」
こ、こいつ!!
それでも……いや……俺は、なんでこいつのことをまだ、勇者だなんて呼んでるんだ?
このクソ勇者なんて、さっき俺が言った通り、ただの……。
「クソ野郎があああ!!」
「あんた、ほんとうにこの勇者と仲間じゃなかったのね」
「だから最初から言ってるだろうが! 俺とあの、クソ野郎は! 仲間じゃない!!」
俺がそういっても……魔王の陰の中にいる魔物からの反応はない。
そうだよ……俺は、きっと心のどこかでいまだに期待していたんだ。
俺をクビにして、路頭に迷わせようとしているこの勇者にどこか……期待していたんだ。
欠片でも、まだ〈仲間〉と思ってくれているのではないかと……憎いという思いから、情報を魔王に与えたけど……本当の意味で全部の弱点を教えたわけじゃない。
「おい、魔王……契約通りだ、俺だけは生かしてくれ」
「いいわ、でもこのままじゃあなたは、あの勇者に殺されるだろうから、まぁ……最低でもこの勇者が死んであなたという存在が誰もかれもの記憶から消えるまで間は……」
魔王がそういうと……影が急激に大きくなって。
「私のスキル【幽閉】でさっきの条件が達成されるまで、閉じ込めさせてもらうわよ」
魔王がそういって、俺を陰の中に落とした時、クソ野郎と目が会った。
「お前のことを絶対に許さないぞ、アオラス」
「俺もお前のことを絶対に許さない、クソ野郎」
俺とクソ野郎が最後に交わした言葉は、悪態だった。
今日、バイトしているときに、いい感じの省略を見つけました。
『10億蓄積』改め『ジュウチク』
いや~、我ながら、天才なのではと思ってしまったよ~。
え? そんなことないって……DK!!
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んじゃね~