追放×誘拐=最悪
「アオラス、お前今日でクビな」
勇者が椅子に足を組んで座って、俺にそう言ってきた。
「は? クビ?」
「そうだよ、お前のスキルさ、少し使いにくいし~、何よりもう【蓄積】が切れるんだろ?」
「いや……確かにそうだけど、だからこうやって毎日筋トレとか精神集中で、筋力と魔力の【蓄積】をしてるんだけど……」
「いや、でもそれも限界は見えるてるだろ、僕は勇者だぞ……中途半端な仲間はいらないよ」
中途半端な仲間って……、いや確かに冒険者になるまでの間で【蓄積】していた物がそろそろ切れそうだけど……それって俺を無理に前に立たせるからじゃねーの?
使いにくいって言われてもなぁ……。
「いや、今更そんなこと言われても……俺これからどうすればいいんだよ」
「知らないよ、とにかくアオラス、お前は今日でクビだ以上」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
俺が、椅子から立ち上がる勇者の腕を捕まえようとすると、勇者の後ろにいた女戦士に、突然右のほほを殴られる。
「な、なにすんだ!?」
「勇者様がクビって言ったんだ、もうこの場を去れ」
「お、お前はもう俺たちの仲間じゃないんだから、どっか行けよ、ほら行けよ、しっし」
女戦士の陰に隠れながら、男魔法使いが眼鏡をクイっとあげながら言ってくる。
俺は、殴られた頬をさすって、後ろを振り返ることなく部屋から出て行った勇者とその仲間を睨みつける。
こんな……勧誘してから前線で俺を酷使した挙句……俺が使えなくなったらポイ捨てだと?
ふざけるな……こんなことがあっていいのかよ……理不尽だ。
俺は、あまりの怒りに勇者達の後をこっそりとついて行く。
「見てろ、俺の今現在の【蓄積】を使ってそのイケメンフェイスを不細工に整形してやる」
俺が、ボソッとつぶやいたとき、後ろから肩をトントンと叩かれた。
「なんだよ、今忙しいんだ後にしてくれ」
俺が、そういっても、肩をたたいてくるので、後ろを見ると……そこには武装した魔物がいた。
「こ……こんばんわ、魔王軍の皆様」
「こんばんわ、勇者パーティー所属、【蓄積】持ちのアオラス」
俺は……魔王軍の魔物に誘拐された。
「こんにちは、【蓄積】のアオラス、お調子はどう?」
「体中を魔法でギッチギチに拘束されて、ここに連れてこられてから三日も何も口にしてないけど……それでも元気といえますか?」
「あら。元気そうじゃない」
「お前ぶっ殺すぞ」
俺の前にいる人物は、筋骨隆々で黒い肌、紅い目、そして黄金に輝く王冠、そして……ピンク色に塗った唇がとても特徴的だ。
全身のほとんどが黒だから、余計目立つ……。
そして、俺の目の前にいるのは魔王だ。
俺やクソ勇者のパーティーが追いかけている、宿敵だ。
魔王は、檻の中にいる俺に不敵な笑みを見せてきながら、見下ろしている。
「なんの用だよ、殺すなら早く殺してくれ、そうでなければここから出してくれよ」
「いやね~、君がもう、勇者とは何も関係がないとかいう嘘をつくから、部下には任せてられなくて、私が直々に尋問してやろうかと思って」
「何を聞きたいっていうんだよ」
魔王は、自身の黒い肌に手を置く。
「勇者の弱点って何?」
「ピーマン草、あとマンドラゴラの涙を入れて作ったトマト草のスープ」
「いや、嫌いな食べ物を聞いてるんじゃなくてね……」
「あ? じゃあ好きな食べ物を答えればいいのか?」
「いや……食べ物からは離れてほしいのよ」
「じゃあ、何だってんだよ、さすがにクビにされたからって、宿敵に元仲間の情報を上げるわけには……元仲間……うーん」
俺は、何を守ってるんだ?
あのクソ勇者は俺をクビにして追放したんだぞ……。
何も守る必要なくないか?
いや、さすがにこの三日間いろいろ考えたけど……うーん。
「あっ……そうだ」
「なに?」
「んじゃさ、魔王」
「?」
「俺を殺さないって、条件で勇者の弱点とかいろいろ教えてやるよ」
「あら、急に素直じゃない、一体どういう心境の変化があったのかしら?」
「別に、あのクソ勇者を守る必要なんてないよなってことを、思い出しただけ」
「うーん……ちょっと信用できないわね~」
「別に、信用とかどうでもいいだろ、こっちは条件を守るなら情報を出すって言ってんだぞ」
魔王は考えるそぶりを見せて、自分の陰から一匹の魔物を生み出す。
「なんだそいつ」
「この魔物は嘘の感知できる魔物なの、だからもしあなたが嘘を言おうとしても無駄よ、それを踏まえたうえで、さっきのセリフをもう一回言ってもらえる?」
嘘の感知、なんだその便利な魔物は、というか本当なのか?
黒い塊がちょこんと先の丸い触覚が生えていて、一つ目がぎょろりと俺のほうを見つめている。
本当に嘘が感知できるかどうか、ちょっと試してみるか。
「魔王さんって美人ですね」
俺が、そう言って嘘をついた瞬間。
「ヴァアアアアア」
嘘の感知をしたらしい魔物がけたたましい鳴き声を上げた。
その鳴き声を聞いて、魔王がむっとした表情になる。
「あんた、殺すわよ」
嘘の感知が本当にできることを確認したので……殺される前にさっきの言ったことを言わないと……。
「えーっとなんだっけ、勇者の情報を上げるから、俺は生かしてください、お願いしますー」
俺が、そういうと拳を握っていた魔王が魔物のほうを見る。
「……」
魔物は沈黙を守っていた。
「あんた……人間の側としてそれでいいの?」
「なんで心配してるんだよ、別にいいよ。よくよく考えたら、俺があいつを擁護する必要なんてもうないんだよ、仲間じゃないんだから」
「ヴァアアアアア」
「……」
なんでだよ……。
しばらく魔王が、俺を無言で見つめた後、俺に勇者のことについての尋問(同意あり)を開始した。
今回から、新しく始まりました。
【10億蓄積】……なんか言いにくい略称だな。
また今度何かいい感じの略称考えておきます。
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んじゃね~