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「それではすぐにお食事をお持ちいたしますのでお待ちください」
そう言うとルゥフは指示を出しに行ったのか、どこかに消えていった。私はあてがわれた寝床前に座り待つことにしたのだが、こうして待つ間私はちょっとした不安にさいなまれた。
(……ここの小人たちって何を食べてるんだ?)
小人たちが私たち人間と同じ姿をしているからつい手放しで同じものを食べていると思っていたが、いざ改めて考えるとそんな保証はどこにもない。なにせ彼らは普通の人間とはだいぶ違うからだ。
単にうんこを尊ぶというだけならまだ『異文化』の範囲だろう。だが彼らは謎の力をもってあの若木を急成長させた。あれはもはや『魔法』の範疇だ。やはり何か根本的なところで人間とあの小人は違う存在なのだろう。そしてそんな彼らが提供する食事とは?
「……まさかうんこを食わされたりとかは……しない、よな?」
柄にもなくぞっと寒気を感じた。だがないとは言い切れない。それどころか十分あり得る話だ。
(もしそうなったら……全力でここから逃げよう……)
先ほど心に抱いた共存の気持ちもどこへやら、私は一種の覚悟を決めてルゥフたちの準備を待った。
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「お待たせいたしました、ニンゲン様。それではお運びさせていただきます」
数分後、ルゥフが戻ってきた。彼女は勝手に緊張する私をよそに手をパンパンとならす。すると岩陰から大きなトレイのようなものを担いだ兵士たちがやってきた。その上には何かが乗っているようだが、あれが食べ物なのだろうか。
このとき私は少し嫌なことを思い出していた。それはこの村までうんこを運んだあの神輿だ。複数でトレイを担ぐその様がうんこの神輿を担いでいた姿と被ったのだ。いやいやまさかと思いつつ、私はそれが私の前に来るまでは緊張を緩めることはなかった。
(さて、鬼が出るか蛇が出るか……)
さて、こうして私の前に彼らの言う食事とやらが運ばれてきたわけだが……。
(……あれ?思ったよりも普通だな)
木の皮を編んで作られた皿の上には何かの果実にキノコ、それに花びらや草、種などが置かれていた。少なくとも全く食べられないものではない。一応少量ではあるが皿の上には食べられないもの、土や石なども置かれていたが、これに関してはルゥフが前に出て説明を付け加えた。
「ニンゲン様が何をお食べになられるのかわからなかったので、このようになってしまいました。お口に合わなければ遠慮なくお下げください」
「ああ、ありがとう。それじゃあいただきます」
なるほど彼らも彼らなりに自分たちとは違う存在に苦慮していたようだ。彼らの気遣いと普通の食事に安堵した私は素直に礼を言ってから手を伸ばした。
出された中で私が選んだのは見たことのない果実だった。昨日食べたリンゴのようなものとは違う、例えるなら小さな桃や枇杷のような果実だ。正確な種類がわからないのは少々怖いが、それでもこの中では一番食べられそうなものだった。私は少し皮をむいて毒見感覚で一口かじってみた。
(……すっぱい。けど食べられはするな)
かじった食感は半熟未満の桃という感じで、ややすっぱかったが十分食べられる味だった。私はとりあえず皿の上にあったこの果実をすべて平らげた。
だが所詮果実は果実。当面の空腹は抑えられたがおそらくそれも夜まで持つことはないだろう。ならばと私は皿に残ったものに目をやるが、流石に土や石は論外としても、花や草も食用のそれではないそこら辺に普通に生えているものだ。あまり進んで食べる気にはなれなかった。
(困ったな……食べるならギリギリ花くらいか?でもこれじゃあ腹は膨れないしなぁ……)
ちなみにキノコは初めから除外している。というのも毒キノコかどうかの判別がつかないからだ。キノコの毒には一口かじっただけであの世行きなんてものもあるので安全だとわかっているもの以外は口にしないのが鉄則だ、というのを小学生の頃に読んだサバイバルの本に書いてあったことを思い出していた。こうして私は危ない橋を渡らずに済んだというわけだが、だからと言って食べるられるものがないという事実は変わらず残ったままだった。
そんな困っていた私に助け舟を出してくれたのがルゥフだった。ルゥフはあまり食が進んでいない私を心配そうにのぞき込んできた。
「大丈夫ですか、ニンゲン様?お口に合いませんでしたか?」
「ああ、大丈夫ですよ。ただ、その……あまり私が食べられるものがなくってですね……」
私がそう答えるとルゥフは「まぁ!」と言って皿に残っているものを見た。
「これは……そうですか。ニンゲン様は果実を主に召し上がるのですね。勉強不足で申し訳ありませんでした。すぐに追加の果実を持ってこさせますからね!」
そう言うとルゥフはすぐに控えていた兵士に指示を出した。それを受けてあわただしく駆けていく兵士たちを見ると申し訳ない気もしたが、空腹には代えられないので私は黙って見送った。