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――――――――――――――――――――――――――――――


「ニンゲン様。お疲れではないですか?お足の方は大丈夫でしょうか?」


「あぁ、うん。大丈夫……」


「あ、お望みでしたらこちらの歩く速さをもう少し遅らせることもできますが……」


「あー、いやいや、大丈夫。問題ないよ。何かあったらちゃんと言うから……」


「そうですか。ふふっ。ニンゲン様は謙虚な方ですね」


 前を歩く小人の少女は私の返事を好意的に解釈したらしく、こちらを高く見上げながらやさしく微笑んだ。実を言えば精神的には疲れてはいたが、それよりもこれ以上歩くスピードが落ちる方が嫌だった。

 本当はもっとせかせかと歩きたかった。しかし今は彼らと歩調を合わせるしかない。そう思いながら私はちらと横を見る。私のすぐ横では小人たちが列を作り彼らなりに精一杯歩いていた。改めて見るとそれはやはり、かなり現実離れした光景であった。


(あぁ、どうしてこんなことになってるんだ……)


 トラックにはねられて謎の世界へ飛ばされてから2日目。ようやく出会った自分以外の生物は何と小人という実にファンタジーな存在だった。そんな彼らとなんやかんやあって今私は彼らの村へと向かっている。

 なぜかは知らない。なぜかは知らないが彼らが執拗に私に村に来るようにと勧誘してくるのだ。


『私たちの村へおいでくださいませ、ニンゲン様!』

『ニンゲン様!どうぞ我らが村へ!』


 彼らがここまで私を連れていきたがる理由はわからない。その熱心さは少し不気味でもあったが現状他に行く当てもないので私は素直に彼らの村とやらへ付いていくことにした。

 そして今まさに私は村へと帰るという一団の隣をゆっくりと歩いているというわけだが……。


(遅いな……)


 気が滅入るというほどではないが彼らの歩く速度は私にとってはかなり遅いものだった。その原因は歩幅だ。身長170センチを超える私と60センチ程度しかない彼らとでは当然その歩幅は異なる。歩幅が異なれば移動スピードも異なる。別に彼らはゆっくりと歩いているわけではないのだが、それでもやはりこちらがうっかり歩速を早めたら軽く置き去りにできるくらいには差があった。

 じれったくはあったが、かといって村の場所がわからない以上彼らに先導してもらうしかない。私は仕方がないと軽くため息をついてから、この手持ち無沙汰の時間を周囲の観察に使うことにした。


(やっぱり人の気配はしないな……)


 だが、やはりと言うべきだろうか、相も変わらず人工物のようなものは見受けられなかった。周囲は相変わらず自然ばかりで特別目につくようなものはない。こうして成果を得られなかった私の目は自然と隣を歩く小人たちへと向かっていった。


(そういえばこいつらも人間を珍しがってたみたいだしな……というかそもそもこいつらは一体何なんだ……?)


 隣をとことこと歩く小人たち。身長が60センチ程度というところを除けば姿かたちはほとんど人間と変わらない。だが私を『ニンゲン様』と呼んで区別していることから人間とは異なる存在なのだろう。

 しかしそれにしたってあまりに人間じみている。言葉だって使うようだし、なんなら日本語も理解できている。さらに社会性も高いようだ。例えば今だって小人たちはまるでアリの行列のように一列になって進んでいる。ふらふらと列からはみ出るような者はいない。(ちなみに私が列から少し離れているのは、誤って小人たちを蹴ってしまわないようにするためだ。)それに服装等を見るに階級もきちんとあるようだ。今朝の大巫女ダナテァがいい例だろう。その統率力から彼らの社会性が想像以上にあることがわかる。


(これはもしかしたら思ったよりも高い文化や文明を持ってるかもしれないな……)


 だが文化というところでは少し心配なところがある。それが……私は軽く振り返り、列の中央付近にある神輿に目をやった。8人の小人によって担がれているそれは、担ぎ棒を井桁に組んでその上に装飾の施された台座を載せた神輿だ。そしてその台座上にはあるものが大事そうに乗せられていた。

 いや、今更そこをぼやかしても意味がないだろう。そこに乗せられていたのは他でもない、私のうんこだ。私が昨夜出して、そして今朝彼らが掘り起こした私のうんこだ。それを彼らはまるで神仏か何かのように大事そうに神輿に乗せて仰々しく運んでいるのだ。


(これが彼らの文化なのか……?いや、それにしたってただのうんこだぞ?別にそこまでありがたがるものじゃないだろ……)


 もちろんうんこだって使い方次第では価値があることは知っている。それに文化が違えばありがたがるものが違うことも知っている。しかしそれにしてもうんこをあそこまでありがたがる文化はちょっと記憶にない。


(こいつらは一体何を考えているんだ……?)


 ここでふと見知らぬ文化から一抹の不安を覚えた。果たして本当に彼らについていってもいいのだろうか?もしかしたら友好的に見えるのは今だけで、その村とやらに着くや否や拘束されたり殺されたりはしないだろうか?彼ら一人一人は小さいが、彼らが集団で組織的に襲ってきたら……。ふいに浮かんだそんな妄想に思わず背すじが寒くなる。


「……大丈夫ですか?ニンゲン様」


 そんな私に心配そうに声をかけたのが私の前を歩いていた巫女服の少女であった。彼女は巫女・ルゥフ。巫女と言えば今朝果実がどうこうと言っていた大巫女ダナテァがいたが、そのダナテァの後方に控えていたのが彼女である。

 軽くされた説明では彼女、巫女ルゥフは彼らの村の次席に当たる巫女で、年を召しているダナテァに変わり彼女が『ニンゲン様』である私の世話係に就いたそうだ。彼女は世話係よろしく私の前を先導するかのように歩き、そして不安がっていた私に声をかけた。


「大丈夫ですか、ニンゲン様?何かありましたら何なりとお申し付けくださいね?」


「あぁ、うん、大丈夫。えっと、村ってまだ遠いのかな?」


「村ですか?村でしたらまもなく着きますのでもう少しばかり辛抱をお願いいたします」


「あぁ、もう着くんだ……」


 そう言ってふと顔を上げると列の向かう先に小さな岩が集まっている場所が見えた。その岩には所々に穴が開いており、その中から何かがちらちらと見えている。


「……もしかして、あの岩が集まっているところが君たちの村?」


「あ、はい、そうです!よくわかりましたね!」


「はは……まぁ俺はみんなよりも背が高いからね……」


「さすがですね!ニンゲン様!」


 素直に褒めてくるルゥフであったが私としては複雑な心境であった。今から自分たちとは違う文化を持つ集落に足を踏み入れるのだ。彼らが小柄で、かつ友好的だからつい忘れてしまいそうになるが命の保証すらされていないのだ。

 思わず逃げ出したくなるのは普通の感情だ。しかし他に情報がない以上進むしかない。私は意を決してその足を進めるのであった。

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