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「なっ……えっ!?小人!?妖精!?」


 昨日以来ようやく会えたと思った人間。しかしそこにいたのは姿かたちこそ人間であったものの身長60センチ程度の小人たちであった。

 しかもそれは一人二人なんてものではない。彼らはざっと見たところ50人近く、それだけの数の小人たちが私を取り囲むように立っていたのだ。

 あまりにファンタジーじみた存在に私は思わず大声を出してしまうが、それは悪手だった。小人たちから見れば私は巨人だ。そんな巨人が急にその体を起こしたのだから周囲は一瞬でパニック状態になった。


「うわぁっ!お、起きたぁ!!?」

「お、おいっ!動くな!!立ち上がるなよ!?」

「だ、誰かっ!押さえるもの持って来い!」


 パニック状態になった小人たちはまさに右往左往している。もちろん私自身も何もわからないので混乱をしているのだが、ここで幸いなことに混乱する小人たちを見て少しだけ落ち着くことができた。他人がパニックになっているのを見ると逆に自分が落ち着くことがあるが、まさにそれだ。

 そして落ち着いて見てみれば、どうやら今すぐに命の危険にさらされるようなことはないだろうということが分かった。小人たちは別に私をガリバー旅行記のように拘束などはしておらず、また武器のようなものを持っているようにも見えない。それに何よりこの身長差だ。彼ら小人たちの体長は上半身を起こした私の半分くらいの高さしかない。むしろ変に体を動かせば彼らを傷つけてしまうことだろう。直感的にそれは避けるべきだと気づいた私は静かに防御姿勢を取って向こうが落ち着くのを待つことにした。


 さて、落ち着くと視野が広がり色々と見えてくるものである。向こうは未だパニック状態だが、私の方は彼らを観察できるくらいには冷静になっていた。

 いつの間にか私を囲んでいた小人たち。身長は60センチ程度で葉っぱや木の皮をつなぎ合わせたかのような服を着ている。見える範囲ではその姿かたちは人間に近い。それに言葉も話せるようだ。混乱の中で交わされている彼らの言語は、なぜだかわからないが普通に理解のできる日本語だ。ただコミュニケーションは取れそうだが、彼らはまだ浮足立っている。声をかけるのは彼らがもう少し落ち着くのを待った方がよさそうだった。


(うーん……どうしようかねぇ……)


 手持ち無沙汰になり私はもう一度周囲を見渡す。すると少し離れたところにもう一グループ小人たちの集団がいることに気付いた。どうやら彼らは私を取り囲む組とあの組、二つのグループに分かれているようだ。そして向こうのグループはこちらを気にしつつも地面を探って何かを探しているようだった。

 何をしているのだろうかと黙って眺めていると、やがてその中のリーダーらしき男が声を上げた。


「よ、よし!ここだ!掘り出せ!」


 リーダーらしき者の合図で小人たちは一斉にその場所を掘り始めた。始めは何事かと思ったがすぐにそこがどんな場所かを思い出した。彼らが掘ろうとしているその場所はまさに昨日、私がうんこを埋めたところだった。それに気づいた時、本能的な羞恥が思わず声を出させた。


「あっ、おい!よせっ!やめろっ!」


 私は周囲を小人たちが囲んでいることも忘れてつい叫んでしまった。当然落ち着きつつあった小人たちが再度騒ぎ出す。


「うわぁ!う、動くなぁ!!」

「に、逃げろぉ!」

「まてっ!落ち着くんだ!!」


(あぁっ、くそっ!!しまった!!)


 失態だった。再度騒ぎ出す小人たち。集団のパニックはやがて一種の狂気を孕んだものに変化する。こうなるともはや止め方など見当もつかない。

 どうしようもなくなり途方に暮れるしかなかった私であったが、そんな中そんな騒ぎを一蹴するかのように鋭い声がこの場に響いた。


「落ち着けぃ!!若人どもがぁ!!」


 その声は特に大きかったわけではないが、その威厳に満ちた叫びに小人たちだけでなく私も思わず息を呑みそちらの方を見た。

 振り向くとそこには老婆がいた。もちろん小人のだ。周囲にいる小人たちとは地位が違うのか、なんとなく小綺麗な衣装を身にまとっている。そしてその見立ては当たっていたようだ。周囲を取り囲んでいた小人たちはさっと身を引き、私のところまで続く道を開けた。

 老婆とその後ろには付き従うように同じような格好をした若い小人がいたが、その二人は今しがた開けた道を通って私のところまでやってきた。まさに手の届く距離までやってきた老婆は静かに私を見上げて、そして丁寧に頭を下げた。


「驚かせて申し訳ありません、『ニンゲン』様。彼らの無礼、村の大巫女である私、ダナテァが謝罪いたします」


「!?……あ、いえ、お気になさらず……どうもご丁寧に……」


 つられて頭を下げながらも私の頭の中は新たな展開にパニックになっていた。今たしかに彼女は『ニンゲン』と言った。こちらが彼ら小人たちのことを認知していないにもかかわらず、彼ら小人たちは『人間』という存在を理解しているということだ。ここは本当にどういう世界なんだ!?

 しかし混乱する私をよそに大巫女ことダナテァは言葉を続ける。


「ニンゲン様にもいろいろと思うところがあるやもしれません。しかし我々は『形なき果実』を求めているだけなのです。どうかそのところをご了承ください」


「か……『果実』……?」


「はい。我々の村では本当に、本当に久しぶりのことなのです」


 そう言って頭を下げた後、巫女ダナテァはちらりと遠くに目をやる。その視線の先は小人たちのもう一つのグループ、昨日私がうんこをしたところを掘り返している小人たちの方を向いていた。混乱はさらに加速する。彼女の話から彼らが『何とかの果実』を探しているということはわかった。しかしだからと言ってあそこを掘ったって……。


「でもあそこに埋まってるのは……」


 とその時、例の場所を掘っていた一団から驚きと悲鳴のような声が上がった。


「あ、ありました!『匂う泥』です!!」


(『匂う泥』……)


 また知らない言葉だ。だがそれがなにを指すかはおそらくだが予想がつく。あそこを掘って出てくる『匂う』ものなんて一つしかない。恥ずかしさも感じたがそれよりも彼らが一生懸命掘って出てきたのがそれだということに同情を覚えた。

 せめてこれ以上彼らが間違わないように「あぁ、それは……」とそれの正体を言おうとした時だった。


「おぉっ!ついに……!」


 巫女ダナテァがそれに向かって走り出した。


「あっ、それは……」


 思わず止めようとしたがダナテァはその容姿からは想像もできないほどに素早く例の『掘り出したもの』へと向かっていった。こうして止めるタイミングを完全に逃した上に、さらに彼らの異常なテンションに押されてしまいなんて声をかけていいのかわからず、結局黙って成り行きを見守るしかなくなってしまった。

 そんな私の憂鬱とは反対にダナテァたちの期待と興奮はまさに最高潮に達しようとしていた。


「巫女様、これです!すごいにおいです!」

「うむ、確かに匂うな……!」

「ええ!伝承の通りです!」


(あんまし品評しないでほしいんだけどな……)


 うんこを前に盛り上がる一同。そんな彼らが次に何をするのかと見守っているとその一団の最前列にいたダナテァが、まるでそれが当然のことであるかのように迷わずそれに手を触れた。


(あっ……!?)


 止める間もなかった。そして唖然とする私をよそに老婆は手に着いたそれをクンクンと嗅ぎ始める。もちろんこれらはダナテァが勝手にしたことだが、それでも何とも言えない申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


(あぁ、やっちゃったよ……何と勘違いしているのか知らないけど、それは俺が昨日したうんこなんだよ……)


 しかし事態は思わぬ方向に動く。巫女ダナテァが涙を流し始めたのだ。しかもそれはショックの感情からではなくうれしさから、つまりは感涙の涙だった。感極まった老婆は高らかに叫んだ。


「これじゃ……これこそが『形なき果実』じゃ……!あぁ、とうとうこの日が来たのじゃ……!われらが一族に栄光あれ!!」

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