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1-1

初投稿です

のんびりと投稿していきます

初めてなので無作法なところもあるかもしれませんが、どうぞ楽しんでいってください

「こ、これこそが我らが探し求めていたものだ!」

「おおっ!これでとうとう我らが村にも繁栄の兆しが!」

「ああ!とうとう来たんだ!『御使い様(みつかいさま)』が我らの村にも!」


 もはや手の付けられないほどに沸き立つ歓喜の輪。私はそれをひどく冷めた目で眺めていた。

 脳が現状の理解を拒んでいるといってもいいかもしれない。とにかく朝からわけのわからないことばかりだったが、今とうとうそれに対するキャパシティが限界に達したようだ。


「よしっ!そうと決まれば運び出すぞ!」

「そうだな!早くしないと誰かに取られてしまうかもしれないしな!」

「おいっ!誰か村まで行って何か運ぶもの持って来い!」


 そんな彼らの中心にあるもの。それは数時間前に私がした大便、うんこであった。

 彼らは私がしたうんこを中心に輪を作り、喧々囂々とこれをどう運ぶかについて語り合っていた。それはもはや気の遠くなるくらいにわけのわからない光景であった。


(あぁ……どうしてこんなことになってるんだ……?)


 混乱する頭で私はどうにかここに至るまでの経緯を思い出そうとしていた。


――――――――――――――――――――――――――――――


 私、こと御手洗大樹みたらいたいじゅは疲れていた。

 連日の労働。少ない睡眠時間。そして変わり映えのない毎日。ただ起きて、食べて、仕事をして、そしてうんこをして寝る。そんな張り合いのない毎日の中を私はただ生きていた。


(はぁ……つらい……)


 いつもの朝、いつものバス停前。いつものようにバスが来るのを待っているだけなのにそれだけでもう苦しく、出るのはただため息ばかりである。

 これからわけのわからない数字の羅列と顔を突き合わせ、ぼんやりとしたゴールに向かって走らされ、他人との行き違いに頭を下げる。そんな、果たしてそれを「仕事」と言ってもいいのかすらわからないことをしにわざわざ一時間近くかけて会社まで行くのだ。まったく『社会の歯車』とはよく言ったもので、入社して数年の私の心身はすっかりと摩耗していた。

 そんな心身だからだろうか、ふとした折に頭に浮かぶのは非現実めいた全く別の世界のことであった。


(はぁ、つらいなぁ……何もしなくても褒めてもらえるような、そんな世界に行きたいなぁ……)


 理想郷への現実逃避。

 あぁ、もしそんな世界があったなら、何もせずにただ食べて寝てうんこをして、それだけで崇め奉られるような世界に行けたら、それはどれだけ素敵なことなのだろうか。

 もちろんそんな都合のいい世界などあるわけないことはわかっている。しかしそれでもつい考えずにはいられない。そんな妄想に逃げなければならないほどに私は摩耗していたのだ。

 そしてそんな心持だったからだろう、私が同じくバス待ちをしている周囲の人たちがにわかに警戒しだしたことに気付けなかったのは。


 結論から言えばそれは坂を下ってくる一台の自転車であった。手入れなど全くされていないのだろう、キーキーとブレーキを鳴らしながらその自転車は決して安全とは言えない速度で坂を下っていた。乗っているのも80代くらいの痩身のおじいさんだった。遠目からでも筋肉がすっかり落ちてハンドルを押さえ切れていないのがわかる。そんな自転車が猛スピードでこちらへ向かって下ってくるのだ。

 普通の人ならブレーキ音で気付き警戒して道を開けるだろう。しかし私を含めた何人かはギリギリまでそれに気づかず、(おそらく私と同じく疲れていたのだろう、)本当にギリギリのところで鳴らされたブレーキの甲高い音でようやくその存在に気付き回避しようとした。


 だがここでちょっとした不幸の連鎖が起こった。ありていに言えば将棋倒しだ。どこが起点かはわからないが誰かの回避のための一歩が他の誰かを押し、そしてその押された人の一歩が次の誰かを押す。

 狭いバス停で起こった小さな押し合い。その終点にいたのが私の目の前に立っていたおばあさんであった。


「あっ……!」


 ぶつかり自体は小さなものであった。しかし反応の鈍い、足腰のおぼつかないおばあさんがそれを堪えられるはずもなく、押されたおばあさんはぐらりと倒れそうになった。その先は車道。そして時刻は朝の通勤ラッシュの時間である。絶え間なく流れ続ける幾台もの車。そこに倒れこむということはどういうことか。

 私は考えるよりも先に体が動いた。


「あっ、危ない……!」


 私はとっさに倒れそうになったおばあさんを押し戻そうとした。押し戻すには力の入りやすい場所に移動しなければならない。私は反射で一歩前に出ておばあさんを支えた。

 これが不用意だった。車道ギリギリのところに立つ私が一歩前に出れば、そこは当然車道ではないか。

 これがもし私の体調が万全ならその後の立ち回りもうまくいったかもしれない。しかしあいにくこのときの私は疲れから複数のことを考えられない状態であった。その結果が気付けば目の前に見えるトラックの前面部である。


 走馬灯なんておしゃれなものは流れずにその巨体は一瞬で私の意識を遠くに弾き飛ばした。

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