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87. 二人の時間

国王達との謁見の後、オルサーク邸の離れを訪れたルーファスが長椅子に座ったまま肩を震わせて笑っている。


「もう!なんでずっと笑っているのよ!!」

「ディアーナを深窓の姫と勘違いするなんて、奴らも読みが甘い」


ルーファスはそう言って目の前に立つディアーナの腕を取ると自らに引き寄せた。

ルーファスの腕の中にすっぽり収まったディアーナは顔を上げてルーファスを睨みつける。


「ルーはわたくしの事を何だと思ってるの?!」


暴れ馬か何かだと思っているのではないか。そう憤ったディアーナはルーファスに口を塞がれた。

ルーファスは心ゆくまでディアーナの柔らかなそれを堪能すると、ゆっくり顔を離して妖艶に微笑む。


「俺の唯一」


迷いなく断言され、ディアーナは驚きのあまり金魚のように口をパクパクと動かす。

王城でのルーファスと違い、赤の双眸が蕩けるように甘い色を帯びている。

その瞳を見ているだけで、頭が痺れるようだ。


「負けず嫌いのディアーナだから助けは要らないって言うと思っていたけど。少し…いやとても…男として不甲斐なく感じてしまうから、頼ってくれると嬉しい」


拗ねたように言うルーファスの顔は少年の頃を彷彿とさせ、つい笑みが溢れてしまう。

ディアーナは腕を伸ばすとルーファスの頭を抱え込む。


「隣に居てくれたでしょう。わたくし一人だったらあんな啖呵はきれなかったわ」


ありがとう。そう頭を撫でるとディアーナの胸元に顔を埋める事になったルーファスが盛大な溜息をついた。


「…俺、健全な男なんだけど」

「え?」


ルーファスに両腕を掴まれ、気付けばディアーナの視界に天井が広がっていた。


「………あれ?」


キョトンとするディアーナを見下ろすルーファスが微笑む。


「ディアーナの全部が欲しい俺に、煽るような事をしちゃ駄目だよ」


マズイと、ディアーナの本能が告げる。

ルーファスの低音が艶を増し、ディアーナをなぞる指先が熱い。


「可愛い…」


そう言ってゆっくりとディアーナへ近づいたところで、ルーファスの後頭部に手刀が落とされた。


『そこまでです。シリル様とオルサーク公爵に雷を落とされますよ』

「………チッ」


舌打ちしたルーファスは渋々起き上がるとサミュエルを睨みつける。

サミュエルは涼しい顔でディアーナの元に跪き『大丈夫ですか?姫様』と手を差し伸べた。


「ありがとうサミュエル」


ホッと息をついて手を置いたディアーナを、サミュエルが苦笑しながら抱き起こす。


『宜しいですか?あれは狼です。危ないのであまり触れてはなりませんよ』


ディアーナのほつれた髪を整えながら、主人をこき下ろすサミュエルに苦笑しかない。


『我が君は頭を冷やしていらっしゃい』


サミュエルはチラリとルーファスを見て、ほぅと溜息をつく。


『私の育て方が悪かったのでしょうね…』


そうしてディアーナの手を取ると、『夕食の準備を進めましょう』と、主人を残したまま部屋を後にした。


ルーファスは身体中にくすぶる熱を放出するように長い息を吐いてから「拷問かよ」と呟き、上半身を曲げて顔を覆った。









「なあちょっと待って。何でルーファスからディアーナ様と同じ匂いがするの?」


ルーファスが転移魔法陣でさっさと離れに行ってしまったので、仕方なく馬を使ってやってきたリアムは眉をひそめた。

厳密にはディアーナが使用している石鹸の匂いだが、目敏いリアムはそれだけで"何かをやらかした"と察する。


「何でリアムまで来てるんだ。魔法陣で部屋に戻るから護衛は要らないと言ったろ」

「ディアーナ様に呼んでもらったんだよ。で、何で同じ匂いなんだ。まさかお前…」


そう言いながらリアムは真っ青になる。


「…馬鹿か?冷静になる為にシャワーを借りただけだ」

「……へえ、あ、そう」


心頭滅却しなくてはいけない程の何かがあったのだろう。

リアムは自分を睨みつけるルーファスの肩にポンと手を置く。


「まずはさ、ディアーナ様の口から"好き"って言って貰えるよう頑張りな。じゃないと、お前の欲は最後までお預けだよ」


リアムの指摘に、ルーファスはグッと唸る。

ルーファスに恋をしている、そう気付かせたのはルーファスだ。ルーファスに恋をしているのは間違い無いが、ディアーナ自身がそれをきちんと自覚しているかが怪しい。

ディアーナの言う"好き"は親愛の枠から出ていない気がする。


「鈍感なディアーナ様が一歩前に進めた事は成長だけど、ルーファスの想いばかりが先走っているようにも見えるんだよな」


リアムの何気ない言葉がルーファスの胸を容赦なくえぐる。ルーファスは胸を押さえて呻いた。


「お前の頭に不敬や無礼の言葉は無いのか?」

「これは友人としてのアドバイス。一週間後には学園だろ。ディアーナ様モテるだろうなぁ。俺も学園に戻りたいよ」

「……ディアーナに手を出す輩が居れば、一族郎党粛清してやる」


至極真面目に言うルーファスに呆れながらも、リアムはルーファスに囁いた。


「王妃の座を狙う家がディアーナ様に仕掛けるぞ。クロエとシャーロットを側に置くようにはするが、それでも油断するなよ」

「シャーロット嬢はともかく、クロエを側に置いたら火に油とならないか?」

「……クロエは俺と同じで美人に弱い。ディアーナ様ならドストライクだ。安心しろ」

「いや、そうではなく。ディアーナとクロエで暴れた挙句に学園を壊さないか?」

「………」


リアムはルーファスの懸念に口を閉ざした。


リアムの妹と婚約者を側に置く事で、ディアーナにはオルサーク公爵家だけでなくレスホール公爵家もいる事を示すのが狙いだ。

クルドヴルムの二大公爵家の庇護を受けるディアーナに手出し出来る者は少ない。

しかしルーファスと年齢が近く王妃候補の筆頭とも言われるリアムの妹は、ルーファスが懸念するように気性が激しい。

ディアーナとは気が合うかもしれないが、何かしでかしそうな気もする。


「シャーロットに充分お願いしておくよ」


リアムが返せたのは、婚約者に全てを任す、という事だけだった。

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