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8. ディアーナは城を出る

ディアーナは自室に入り魔道具を外すと、長椅子に置いてあるクッションに拳をめり込ませる。

ディアーナは無言で何度もクッションをサンドバッグ代わりに殴り続けた。

まだ小さな手に殴られるクッションはボスンボスンと軽快なリズムで音を立てている。


何度も何度も殴り続けようやく落ち着くと、今度はクッションを撫でながら長椅子に腰を下ろした。


ディアーナの為に両親にやり返す事は決めていたとはいえ、想像以上に疲れた。

とはいえ城を出て良い言質は取れた。

ディアーナはそっと自分の胸に手を置く。


ディアーナ…。

悲しかったね。

悔しかったね。

苦しかったね。

本当に、本当に良く頑張ったね。


そう瑠衣果はディアーナに想いを馳せる。

『出来損ない』と言われた時は心臓が抉られそうだった。

忌々しそうに睨み付けられた時は逃げ出したくなった。

耐えられたのは瑠衣果だったから。

身体は10歳でも中身は18だ。まだ子供だけどそれなりに色々あった。

それに瑠衣果は親の愛を知っている。親ならあんな事言わない。あんなのは親じゃない。ディアーナにとって毒にしかならない敵だ。

そう思えたからこそ、瑠衣果は最後まで耐える事が出来た。

瑠衣果は労わるようにディアーナの、自らの胸を優しく撫でてやる。


どうして瑠衣果(わたし)の記憶が戻ったのかは分からないけど、これからは一緒に頑張ろうねディアーナ(わたし)





「…殿下…」


ああ、そういえば側に居るのを忘れてた。


マーサが思い詰めた声で呼びかけたので、側にいた事を思い出す。

マーサを見ると少し顔色が悪い。

一緒について来るよう言われないか不安なんだろう。


「マーサ、貴女について来いとは言わないわ」


そう言ってディアーナは背筋を伸ばしマーサに向かって微笑んだ。


「面倒な王女付きになって貴女も苦労したでしょう。今までありがとう。そしてごめんなさいね」


その言葉にマーサは膝をつく、その目には涙がうかんでいる。


「申し訳ございませんでした」


まあ、そうなるよね。ディアーナはマーサに気付かれないよう溜息をつく。


マーサは全て知っていた。

ディアーナがいつもひとりだったのも、無駄な勉強を繰り返されているのも全て知っていた。

もちろん侍女だから何も出来ない事は理解している。

理解してるが瑠衣果ならディアーナに寄り添っただろうと思う。

でもマーサは知るだけで幼いディアーナに寄り添ってくれる事はなかった。

ディアーナ自身もマーサに特別な感情は無い。

瑠衣果に至っては嫌悪する対象の一人だ。

そんなマーサに今更頭を下げられても困ってしまう。


「仕方ないわ。それがマーサの仕事ですもの」


その程度の仕事、と嫌味を込めていったがマーサは気付かなかったらしい。

良い様に捉えたらしく、今になって何か出来る事は無いかと聞かれたので、荷物を纏めてもらうよう指示した。


窓から見える夜空には満天の星が広がっている。

長椅子に座り夜空を眺めながら、ここから見る夜空はこれが最後かもしれないと、ディアーナは感慨深い気持ちになった。







そして翌朝、最低限の荷物をもって王族の所有する馬車の中で一番簡素なものを選び、ディアーナは王宮を後にした。

向かうは、王族直轄地の中でも国境付近にある離宮。

そこは先王ティターニア・ルグ・セウェルスの居城である。

話を聞いていた近衛や侍女達には固く口止めし、ディアーナは国を学ぶために遊学すると周りには伝えています。

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