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81. クルドヴルム

リアム達と合流して数日。

クルドヴルムに初めて足を下ろしたディアーナは、目の前に聳える王城に目を見張った。


「サクルフの森から遠目には見えてたけど、こんなに大きい城とは思わなかったわ」


囁くように言ったディアーナは、王城を見上げ感嘆の溜息をつく。

シリルの元に居た時も、ゲームの事があってクルドヴルムには行った事がなかった。なので間近で見るのは初めてだ。


セウェルスの王城は一言で言うと宮殿で、クルドヴルムは要塞のよう。

ゲームでも全体像は映像で流れたがゲームと実物は本当に違う。どっしりと構えたその王城に華美なところは無いがそれがまた良い。


「気に入ってもらえた?」


周りに聞こえない程度の声でディアーナをエスコートするルーファスが隣で優しく微笑む。

ディアーナも笑顔を返すと、迎えに出てきた侍従と騎士が騒めいた。

何だろう?と、ディアーナは周囲を見渡すが、驚きに固まる者、真っ赤になる者など様々だ。


二人の後ろに立つリアムには、城の面々が考えている事が手に取るように分かる。

国王にエスコートされて馬車から降り立った妖精のように美しい姫と、普段表情を崩さない国王が甘い顔で微笑む姿を見れば、誰だって固まるし、赤くもなるだろう。


リアムが周囲に同情していると、城内から騒めく声がして「あー来ちゃったか」と、肩を落とした。

ルーファスも無自覚だが、年齢を重ねてもなお無自覚に色気を垂れ流して惑わす恐ろしい人物。


ルーファスは相手に気付くと僅かに眉を顰め、ディアーナを庇うようにして立つ。

城内から現れた男性、クルドヴルム元帥ローラン・ヴェド・オルサークは真っ直ぐディアーナの元へ進むと、ルーファスが庇うのも気にせずディアーナを軽々と抱き上げた。


「よく来たなディアーナ!!」

「おっ…大叔父様?!」


子供のように高い高いの状態になったディアーナは久しぶりに会う元帥に目を白黒させた。

最後に会ったのは7年前。確実に歳を重ねている筈なのに寧ろ若返ってるんじゃないかと錯覚させられる。


「ああ…昔から綺麗な子だったが、本当に美しくなったね。さあ、我が家に帰ろう!」


喜々として話す元帥をルーファスは鬼の形相で睨みつける。


「…大叔父上、ここは王城です。客人に失礼な事をしないで頂きたい」

「ははっ!嬉しさのあまり忘れていたよ。済まないね、ディアーナ」


ディアーナを下ろした元帥は全く悪びれない様子で笑った。


柔らかな笑顔の元帥から発せられる色気。

相変わらずだな、と思いながらも昔のように心臓が高鳴り動揺する事もない。

人外美形のシリルと長くいたので免疫がついたのかもと、ディアーナはひとり納得した。


「お久しゅうございます。大叔父様」


ディアーナは元帥に向けて微笑みながら、カーテシーを行うと、優雅で美しい動作に周囲から溜息が漏れる。


「今日から家族になるのに、堅苦しい挨拶は不要だよ」


元帥の大きな手がディアーナの頭を優しく撫でた。


王妃の部屋を断固拒否したディアーナは、結局ディアーナの祖母が降嫁した元帥の元で暮らす事になった。

元帥の元ならば安全が確保出来ると、ルーファスも渋々了承した…のだが、やはり納得いかないのか無表情のルーファスから発せられる空気が重い。


元帥はルーファスを見て苦笑すると、ディアーナの耳元へ顔を寄せた。


「ルーファスを受け入れてくれて感謝するよ」


囁くように言いながら元帥の指がディアーナの右手、丁度指輪の部分にコツンと触れる。

何故分かったのかと、元帥の洞察力にディアーナは目を丸くした。


「…ルーファスが私を殺しそうな目で見ているな」


肩を震わせて笑った元帥はディアーナから顔を離すと、ルーファスへ頭を下げる。


「おかえりなさいませ、国王陛下」

「……セウェルスの妖精に心を奪われ、主君を忘れていたようだな」

「ご無礼を致しました。年甲斐もなく()()の可愛い妖精にすっかり魅了されておりました。本日から私の妻と共に、この可愛い妖精を存分に慈しみましょう」


元帥の挑発にルーファスの眉が僅かにあがる。

それでもそれ以上表情を崩さないルーファスだったが、代わりに身体からドス黒い殺気が放出された。


ルーファスの殺気に周りの侍従は怯え、騎士もゴクリと唾を飲み込む。

反面、殺気の矛先である元帥はニコニコ笑っており、意に介していない。


「陛下!ベネット伯爵はこのままオルサーク公爵家に参ります。あまりお時間を取らせては失礼なので、我々は城に戻りましょう」


慌てたリアムがルーファスと元帥の間に割り込んだ。

元帥はおやおやと微笑むが、ルーファスは無表情のままだ。

ディアーナもルーファスの機嫌が絶不調なのは分かっているが、周囲に人がいる状況ではこちらから気安く触れる事は出来ない。

一つ息をついたディアーナは、ルーファスの元へ歩み寄ると、その手を取り、カーテシーを行いながら捧げるように深くお辞儀をした。


深い敬意を表すその動作にルーファスもディアーナの意図に気付き、殺気を霧散させる。


「…ベネット伯爵。長旅疲れたであろう、今日はゆっくり休みなさい」


ルーファスは穏やかに言うとディアーナの手が離される一瞬の隙に、指輪がはめられた指を撫でるように触れた。


「ご温情に感謝申し上げます」


カーテシーを解く最中にディアーナの口が動いた。その途端、ルーファスの目がキラキラと輝きだしたのを見て、側にいるリアムは首を傾げる。


「ではベネット伯爵。明日また会おう」


ルーファスはそれだけ言うと、侍従と騎士を引き連れて城内へ戻っていった。

後に残されたのは微笑みながらその姿を見送ったディアーナと、元帥。ポカンとしたリアムだ。


「何を仰ったのですか?」


ルーファスの態度が軟化したのはディアーナがカーテシーを行ってから。更に城に入るルーファスの背中からは全身から幸せそうな気配が滲み出ている。


「お願いをいたしました」

「お願いですか?」

「はい。"料理を作って待ってるから、早く仕事を終わらせて会いに来てね"と、申し上げました」

「…………は?」


言葉の衝撃にリアムが絶句すると、ディアーナはクスクス笑う。


「お困りだったでしょう」

「…では、料理をつくるというのは虚言だと?」


つまり皆が困っているからルーファスの機嫌を直そうとした、そう言っているのだ。

貴族、元王族のディアーナに料理など出来る訳がない。すっかりその気になったルーファスが虚言だと知ったら、その時の方が怖い。


「リアム様、わたくし嘘は申し上げません。もちろん大叔父様のお許しが必要ですが、料理は出来るので安心して下さいな」


微笑むディアーナに、リアムは唖然とする。


「許可しよう。私達にもディアーナの手料理を食べさせてくれるかい?」

「もちろんですわ!…あの、でも失敗してもお許し下さいね」

「可愛い孫娘の作ってくれたものなら、失敗だろうと全て頂くよ」


穏やかに会話するディアーナと元帥を見て、リアムは心底羨ましくなる。


"俺も食べたいです!"


リアムは口から出かかった言葉を必死で飲み込んだ。

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