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閑話④ 見習い騎士の少年

「うん!バッチリだわ」


鏡の前でディアーナは自画自賛した。

白銀色は銀髪に、王色である紫は青へ変化し、育ちの良い胸はサラシを巻いて潰し、見習い騎士の団服を着たディアーナは年齢もあって少年に見える。


侍女ステラは複雑そうな表情で、リナはディアーナと同じように満足気だ。


「ディアーナ様。今からでも遅くございません。剣の稽古でしたらシリル様にお願いすれば良いではございませんか」


ステラの懇願にディアーナは首を振った。


ゲームのシリルは魔法剣士。それも主人公クリストファーより強い破格の人物。

修行中にシリルに稽古をつけてもらったが、実力の差がありすぎてディアーナ自身がどの程度の強さか全く分からないのだ。

折角、嫌々王城に戻ったのだから、せめてこの位の我儘は良いだろうと身分を偽って騎士団見習いに入隊する事に決めた。


「わたくしの今の実力を知りたいの。日陰の王女はこんな時便利ね」


誰も気にする人は居ないと、ディアーナはステラとリナに笑いかけた。


「いいえディアーナ様。離宮の者達は皆ディアーナ様を主と慕っております。日陰など、悲しいお言葉…仰らないで下さいな」

「ありがとう。わたくし、離宮の皆に出会えて本当に幸せよ」


ディアーナの微笑みにステラとリナは言葉を詰まらせ、頬を染めて「勿体ないお言葉です」と深々頭を下げた。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


王城の一画にある騎士団の練習場。

白亜の城と呼ばれる優雅な城とは一変し、石垣で作られたここはまるで砦のようだ。


今日は見習い騎士の入団式なので、ディアーナと同じ団服を着た少年達が何人か歩いているのが見える。

皆それぞれ希望に溢れたキラキラした瞳をしていた。


それもその筈、騎士団は貴族出身も居るが平民も多い。平民がどんなに強くなっても、今のセウェルスでは要職に就く事は出来ないが、上手くすれば副官になれる。運が良ければ一代限りになるが貴族の末席に名を連ねる事も可能だ。


(男の子が憧れる職業だよね。女の子が少ないのは残念だけど、いつか女騎士も増えるといいな)


つい見習い騎士に目がいってしまい前方を確認していなかったディアーナは、前を歩いていた見習い騎士にぶつかり、よろけて尻餅をついてしまった。


「お前!平民のくせに貴族の俺にぶつかるなんて無礼だぞ!!」


振り向いた少年が着ている団服は青。ディアーナが着ている団服は鈍色。

青が貴族、鈍色は平民と分かりやすく区別されている。


「も、申し訳ありません」


ディアーナは頭を下げるが、少年はディアーナの髪を掴んで引っ張るとギラギラとした目でディアーナを睨みつけた。


「土下座しろ」

「……は?」

「貴族の俺にぶつかったんだ。土下座して詫びろよ」


こいつは馬鹿か、とディアーナはギロリと少年を睨む。甘やかされて育ったのだろう。ディアーナの眼光で少年は怯むが、逆に頭に血がのぼったのか掴んでいるディアーナの髪を更に引っ張ろうとしてーー白の団服を纏う手が、少年の手を掴んで止めた。


「貴族の名を冠する者が、守るべき相手に暴力を振るうのが許されると思うのか?」


地を這うような低い声で少年に問いかける青髪の青年。


「クリストファー…様?」


少年の声が動揺で掠れている。

白の団服は聖騎士団騎士の証、最年少で騎士に昇格したクリストファーは見習い騎士ならば誰もが憧れる存在。


「君はストール子爵家だったか。騎士になるのであれば貴族の傲りを捨てなくてはならない。…分かったならもう行きなさい」


クリストファーはそう言って少年の手を解放した。

少年はクリストファーに頭を下げると一目散に逃げるように去っていった。


「…君、大丈夫だったかい?………ん?」


クリストファーに引き起こされたディアーナは気まずそうに視線を逸らす。


(よりによって何でクリストファーなのよ!)


ディアーナは自らの不運を嘆く。

城に戻る前からアナスタシアに紹介されて何度か会っている。

クリストファーが余程の間抜けでなければ気付かれる筈だ。正義感の塊である彼が見習いを許してくれるか。


「………君は、誰かに似ていると言われないか?」


逆の意味でディアーナは絶句した。

クリストファーはディアーナに似ているとは気付いたようだが、本人とは気付いてないらしい。

こんな幸運ってあるのかと、ディアーナは見たことの無い神様に感謝する。


「クリストファー!探したよ、どこに行って…あれ?王女殿下?」


一瞬で神様への感謝を取り下げる。


青い団服を着た赤髪の青年がクリストファーに声を掛け、ディアーナを見て目を丸くした。

クリストファーも弾かれたようにディアーナを凝視する。


赤髪の青年、ハリソンはつい先日フランドル公爵とアナスタシアによって引き合わされたので顔を覚えていたのかもしれない。


(公式の宴以外に参加した事ないから絶対知り合いには会わないと思ってたのに…)


今更違いますと否定しても逆に追求されるだろう。

ディアーナは諦めて二人を見つめた。


「ご機嫌よう。クリストファー様、ハリソン様」


慌てて騎士の礼をとろうとする二人を手で制すると、口元に人差し指をあて微笑む。


「わたくし、自分の実力を試してみたいの。見逃して頂けないかしら?」


上目遣いでウルウルと見つめられたクリストファーは渋面になり、ハリソンは顔が赤く染まった。


「殿下と分かった以上、見習いというのは流石に…」

「……いいですよ。殿下が望むならそれで」


クリストファーはギョッとした顔でハリソンを見つめ、ハリソンは気にせずディアーナに笑いかける。


「運がいい事にクリストファーは第一部隊隊長です。殿下を第一部隊所属にすればお護りできるでしょう」


ハリソンの言葉にキラキラと目を輝かせたディアーナは花が咲いたように笑った。


「ありがとう、ハリソン様!」


ハリソンは益々顔を赤くしながら「ひとつお願いがございます」と、ディアーナに顔を寄せる。

ディアーナは「何かしら?」と笑うと、ハリソンは胸に手をやって目を閉じた。


「殿下をお名前でお呼びする許可を頂きたく」


ディアーナはキョトンとして「そんな事でよろしいの?」と首を傾げるが、ハリソンはニッコリ笑って頷く。


「許可します。どうぞディアーナと呼んで下さい」


すぐ後に「ここではディアンとお呼び下さいね」と、小さな声でお願いした。





それから二年、同じ釜の飯を食う仲間のディアーナとクリストファー、ハリソンは気軽に話し合える関係となる。


そして見習い騎士ディアンはその強さを騎士団内で示す事になるが、ある日忽然と姿を消した。

他の騎士や見習い騎士は心配のあまりクリストファー達に詰め寄ったが、ベネット伯爵の護衛に選ばれたと説明されると「見習いなのに?」と首を傾げ、「まあ強いからいいか!」と皆が一様に納得した。






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