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79. 側近の悩み

次の日、ディアーナが目を覚ますと腕の中にルーファスの頭があった。

顔だけあげたディアーナは自分が居る場所が割り当てられた部屋のベッドではない事に気付く。


(あのまま寝ちゃったんだっけ…)


泣き止まないルーファスと部屋に戻り、昔のように頭を撫でながら歌っていたら、知らぬ内に眠っていたらしい。


「…痛そう…」


ディアーナは泣き過ぎて赤く腫れているルーファスの目元にそっと触れた。

ルーファスは僅かに身動ぎするが寝息を立てている。


(……どうしようかな…)


昔は子供だったと言い訳出来るが、この世界では結婚もしていない適齢期の男女が一緒に寝る事は駄目だ。何もないにせよ怒られるだけで済むだろうか。

こっそり部屋に戻りたくても、ルーファスにガッチリと抱きしめられて身動きすれば起こしてしまう。

可哀想だけど起こすしかないか、と溜息をついたところで大きな音を立てて寝室の扉が開いた。




「ルーファス大変だ!ディアーナ様が居な…えっ?!」


転がるように入室してきたリアムはディアーナの姿を発見すると真っ青になって固まった。


『ご心配は不要と申しあげましたのに』


おっとりと言いながら入室してくるサミュエルを、リアムは全身の毛を逆立てるようにして睨みつける。


「これの何処が心配不要なんだ。おいルーファス!!」


リアムはディアーナ達に向き直りルーファスを怒鳴りつけた。


「………朝からうるさい」


目を開けたルーファスは、まだぼんやりしているのかディアーナの胸に顔を埋めると目を閉じる。

枕か何かと勘違いしているのか、更に密着する事になったディアーナは流石にマズイと、ルーファスの頭を軽く叩いた。


「…ディアーナ?…何でここに??」


ようやく目を覚まして身体を起こしたルーファスは状況が理解出来ていないらしい。


「何でここにじゃないだろ!…っておい、その目はどうした。何かあったのか」


肩を怒らせたリアムはルーファスの腫れた目元をみて途端に真剣な表情になる。


「……あぁ、そうか」


リアムに心配されたルーファスは状況を思い出したのか、頭を押さえた。


「心配ない、両親の事を知っただけだ」

「心配ないって…そんな顔で…」


リアムの困惑する声でディアーナが身体を起こすとサミュエルが側に寄り、見苦しく無い程度に髪を整えてくれた。

サミュエルに礼を言ってから、目元を腫らしたルーファスの顔を両手で包む。


「リアム様が心配しているよ」


ディアーナが言うと、ルーファスは大きく息を吐いてリアムに説明をした。









「…王太子ご夫妻が亡くなられたのは不運な事故だった、そういう事か?」


リアムの質問にルーファスは自嘲してから俯く。


「そうだな、お互いの為に良かれと思った事が不運に繋がった」


だが俺が殺したかもしれないと、ルーファスは考えているのだろう。

その証拠にルーファスが握る手に強さが増している。

大分痛いが、それ以上にルーファスの傷が大きい事を知っていたのでディアーナは表情を変えずにルーファスを見つめる。


『我が君。ディアーナ様の御手を潰すおつもりですか?』


サミュエルの指摘にルーファスは慌てて力を緩め、ディアーナに謝罪した。


「とにかく、理由は何であれディアーナ様がお前と一緒だった事が分かるとディアーナ様に傷が付く。外じゃディアーナ様が居なくなったと大騒ぎだからな。どうにかしてバレずに部屋に戻さないと…」


ディアーナの名誉を守る為に頭を抱えるリアムの優しさに、つい笑みがこぼれてしまう。


ディアーナは側に立つサミュエルを見上げると「お任せできる?」と首を傾げた。

サミュエルが一夜を共にする事を許容したのは何かしらの回避策があるからだろう。

ルーファスも同じ事を思っていたようで、サミュエルに向けて頷いた。


『承知いたしました。ディアーナ様、参りましょう』


サミュエルはディアーナに向けて恭しく礼をする。

ディアーナはベッドからおりる前に、ルーファスの目元に指をおくと目をとじた。


(ルーファスの腫れた目が元に戻りますように)


治療をイメージしたディアーナの指先が光るとルーファスの目元の腫れが治っていく。


「これで良し。もう痛くない?」


ルーファスが素直に頷くと、ディアーナは微笑み「また後でね」と告げて、サミュエルと共に部屋を後にした。




「……無詠唱魔法…初めて見た」


初めてでは無いだろ、とルーファスは言おうとしたが、アナスタシアを戻す際の記憶が抜けている事を思い出し言葉を飲み込んだ。


「先に伝えておくが、ディアーナは詠唱魔法が使えない」

「そうなのか…って、そんな事ってある?」

「彼女の魔法は全て師匠から学んだものだ」

「……分かった」


ディアーナが魔法を学んでいない事を察したリアムはそれ以上何も言わなかった。

ルーファスは目元をなぞると小さく笑う。


「ディアーナの前では泣いてばかりだ」


そう言いながらも幸せそうなルーファスを見て、リアムもつい顔を綻ばせかけ…慌てて表情を正す。


「反省しろルーファス。お前が泣くのは構わないが、ディアーナ様の女性としての名誉を傷付けかけたんだ」

「分かってる。早く妻に迎えて嫌というほど寝てやる」


リアムは無表情でルーファスに近付くと、拳をルーファスの頭めがけて振り下ろした。

鈍い音が室内に響き、ルーファスは頭を抱える。


「朝から何言ってんの?全く反省してないね。後何発か入れないと目が覚めませんか、馬鹿主」

「お前っ…それが主君に対する態度か?」

「主君を諫めるのも側近の務めです」


頭を撫でながら文句を言うルーファスにリアムはニコリと笑う。

ルーファスは溜息をついてから、真っ直ぐリアムを見つめる。


「リアムに頼みがある。これは俺の我儘だからお前の判断に任せたい」


口調が変わったルーファスにリアムは姿勢を正すと、了承の意味を込めて頭を下げた。


「お前達は先に国へ帰れ。俺は後から追いつく」

「それは護衛を付けずにお一人で、という事でしょうか」


ルーファスは肯定した。


「あの場所には俺だけで行きたい。…あとはもう一つ立ち寄る場所が出来た」

「ディアーナ様とご一緒ならば」

「……いいのか?」

「…本当は駄目だよ。だけどいいんだ、お前は好きな事を俺に言えばいい。お前が国を背負っている覚悟を忘れさえしなければ、俺は全力でお前の我儘を叶えてやる」


リアムはそう言って一礼すると、扉に向けて歩き始めた。


「リアム!」


ルーファスの声に上半身だけで振り向く。


「俺がもし道を外したら、その時は全力で俺を殺せ」


リアムはキョトンと瞬きを何度か繰り返すと、柔らかい笑顔を見せる。


「お前はならないし、俺がさせない。それでも道を外すようならお前を殺して、俺も後を追ってやる」


迷いなく言い切ると、リアムは部屋を後にした。







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