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77. 騎士の驚愕

夕刻、クルドヴルム一行はセウェルスの国境付近にあるユーセラの街に到着した。


書類が山積していたのか、宿屋に着いてもルーファスとの間に下ろされた黒い膜が解除される事はなく、ディアーナ達は先に降りて宿に入った。






「ルー達は大丈夫かしら?アルもリアム様に預けたままだし、心配だわ」


貴賓室の居間にある長椅子に座っているディアーナは、そう言ってサミュエルから渡されたクルドヴルムの本を閉じた。


「3日分の量なので時間がかかるとサミュエル様が仰ってましたよ」


セウェルスから連れてきた侍女ステラが教えてくれる。

ステラは離宮に仕えていた侍女で、ディアーナのクルドヴルム行きに立候補して勝ち残った一人だ。

もう一人、同じように勝ち残った侍女リナの2名を連れ、他は離宮に戻した。


「そうなの?それでも馬車の中で政務を行うのは疲れないかしら」


座り心地の良い長椅子でも長時間同じ姿勢でいるのは疲れるものだ。馬車の座席も座り心地は良かったが、それでも辛いと思う。


着いたのは夕刻だったが、既に陽は落ち窓の外は暗い。長時間一緒に居るリアムも、ディアーナに付けられた騎士以外は今も馬車を護っている。


「少し様子を見に行こうかしら」


ディアーナは立ち上がりステラに声を掛けると、馬車が停車している正門へ向かった。







「もうヤダ…書類は暫く見たくない」


ディアーナが正門に出ると、騎士の一人にもたれかかって愚痴を言うリアムの姿がある。


「リアム様!」

「へ?ディアーナ様??」


リアムへ声を掛けると、リアムは慌てて居住まいを正し、騎士もディアーナに向けて一礼した。

リアムの足元にいたアルは、ディアーナへ掛け寄り、その肩へ飛び乗った。


「お疲れ様です。…アルもごめんね」


ディアーナはリアム達に向けて柔らかな笑顔で微笑み、アルの頭を撫でてやる。


ディアーナの背後に漏れる宿屋の光がディアーナの身体を縁取り、まるで後光のように輝いて見える。優しく微笑む姿は美しく、仕事の疲労を癒してくれるようだ。


「…なあ俺、女神様でも見てるのかな?…やっぱり綺麗だなぁ…」

「リアム…それを言ったらダメだ。解るがダメだ。」


気が抜けているのか顔を赤らめたリアムがぼんやりと言うのを、隣に立つ騎士が指摘した。

ディアーナは二人が何を言っているのか理解出来ず首を傾げる。

ディアーナの動きにあわせて、さらさらと白銀色の髪が肩から流れて首元が露わになると、リアムはゴクリと唾を飲み込み、騎士は顔を逸らした。


「リアム様?どうかなさいましたか??」


リアムと、何故か隣に立つ騎士まで様子がおかしい。

何か変な格好でもしてるのかとディアーナは自分のドレスを見るが、特に問題ない。


「あぁ、いや…ディアーナ様が余りにお綺麗なので驚いてしまいました」


リアムは慌てたように両手を振ってディアーナに説明する。


「リアム様はおかしな事を仰るのね。…お隣の騎士様は、セウェルスにはいらっしゃらなかったような…」

「お目にかかれて光栄です。クルドヴルム騎士団 近衛隊隊長のクラース・シェルマンと申します。クルドヴルムより陛下をお迎えに参りました」


リアムの隣に立つ騎士、クラースは騎士の礼をとる。


「シェルマン子爵でいらっしゃいますね。ディアーナ・ヴェド・ベネットと申します。お会いできて嬉しく存じます」


クラース・シェルマン子爵。

切れ長の目が印象的な栗毛の騎士は、ゲームの登場人物だ。もちろん敵としてだが、ディアーナ同様脇役なのでルーファスを最後まで護ろうとした近衛騎士くらいの印象しか残っていない。

爵位が言えるのもサミュエルがくれた本に書いてあっただけで、名乗らなければ多分気付かなかっただろう。


「…私をご存知なのですか?」

「ルーファス様とリアム様のご友人だと」


サミュエルがくれた本に書いてありました。とは言わずにディアーナは微笑む。

本にはクルドヴルムの主要な貴族、ルーファスの身近な人物など、ディアーナがクルドヴルムで困らないよう沢山の情報が詰め込まれていた。

クラースはルーファスの近衛騎士でもあり、ルーファスとリアムの友人でもある。

ゲームでも忠誠心は厚かったし、サミュエルの本に書かれているなら良い人なのだろう。


「わたくしの事はディアーナとお呼び下さい。シェルマン子爵」

「では私の事もクラースと呼んでいただければ」

「はい、クラース様」


花の様に笑うディアーナを見てクラースは咳込む。

リアムは「ディアーナ様って無自覚だから余計に怖い」と、珍しく赤面する友人を見ながら呟いた。







「リアムとクラースは俺に殺されたいらしいな」


地を這う様な低い声が二人の背後から聞こえると、名前を呼ばれた二人は固まる。逆にディアーナはパッと顔を輝かせるとルーファスに駆け寄った。

途端にルーファスは二人に向けていた殺気を霧散させると、ディアーナに微笑んだ。


「大変だったね、お疲れ様」


ディアーナは両手をルーファスの頭に伸ばすと、子猫を可愛がるよう、くしゃりと髪を撫でてやる。

疲れた様子のルーファスは目を閉じてなされるがままだ。


「…俺は幻でも見てるのか?」

「大丈夫、現実。それに、まだ序の口だから」


唖然とするクラースと半眼になるリアム。

案の定、ルーファスは肩に乗るアルを払うと、ディアーナの細い腰を引き寄せて首元に顔を寄せる。


「………あれは一体誰だ?!」


クラースは真っ青になってリアムを見るが、リアムは呆れて溜息をついた。


「俺らの主君"氷の陛下"だねぇ。他の女性にもああしてくれたら男色なんて噂されずに済んだのに…俺は男色の相手役にされるわ、目の前でイチャイチャされるわ、本当散々だよ」


信じられないものを見るように、クラースはもう一度自らの主君に顔を向け、ジワジワ顔を赤くするとブンッと音をたて横を向いた。


「慣れないとキツいかもね。…俺は帰ったらシャーロットに慰めてもらうんだ」


リアムの視線の先には、白銀色の髪に指を絡ませて、首元から上に向けて唇を滑らせた後、真っ赤になって怒るディアーナを蕩けるような瞳で見つめるルーファスの姿があった。

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