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75. 気持ちの変化

「…わたくしの、気持ち?」


ルーファスの手は未だ後頭部にあるため視線を逸らす事も出来ず、かといって目を閉じる事も出来ず、真っ直ぐディアーナを見つめる瞳に吸い寄せられるように、ディアーナもルーファスを見つめた。


「今の、嫌だったか?」

「…嫌…じゃない」

「他の誰かにされるのは?」

「嫌よ、気持ち悪い」

「断言してくれて嬉しいよ。ディアーナは俺以外にここに触れられるのが嫌なんだ」


嬉しそうに微笑んだルーファスは、顎に触れている方の指でディアーナの唇に触れ、なぞった。

ディアーナはその指先の感覚にビクリと震えるが、ルーファスは益々嬉しそうに笑みを深める。


「ディアーナが"王妃のもの"と口にした時、自分でどんな顔をしてたか分かるか?」

「…分からないよ。自分の顔は見られないもの」

「辛くて仕方ないっていう顔。俺の事が好きだから他の女が隣に立つのは嫌だと、そう言ってた」


言い当てられたディアーナは全身が熱くなるのを感じた。恥ずかしくて顔は真っ赤になり瞳が潤む。その変化に瞳を和ませたルーファスはディアーナの耳元に顔を寄せるとそっと囁いた。


「まだ気付かない?俺が死んだら生きていけないディアーナは、俺の事が好きなんだよ」


ーー彼が居ない世界でわたくしが生きていると思う?


アナスタシアの暴走を止めるために確かに言った。死にたく無い筈なのに、ルーファスを失った世界では生きる意味が無いと、そう思えたから。




「えええぇぇっっ!!!」




ディアーナは馬車の外にも聞こえるだろう声で叫んだ。


(私はルーファスの事が好きだったの?!…誰か好きになるって、こんなに胸が痛くなるの?)


自身の気持ちについていけずにパニックを起こしているディアーナを見たルーファスは肩を震わせて笑う。


「何を考えてるか分かるけど…この手の事だけは身体で分からせないと駄目みたいだ」


そう言って、ディアーナの両頬を包むとそっと唇を重ねた。驚いたディアーナは目を見開くが、優しく触れられた唇からルーファスの気持ちが伝わるようで、身体の力が抜けたディアーナはゆっくりと目を閉じた。






「陛下!!ディアーナ様!!!」


バタンと大きな音を立てて扉が開き、アルを頭にのせたリアムが慌てたように車内に乗り込もうとして動きを止めた。

音に驚いたディアーナは反動でルーファスの胸を押し、邪魔をされたルーファスは眼光だけでリアムを睨みつける。


「…お前」


リアムが拳を作った腕をゆっくりとあげ、ルーファスを睨み返すと


「ーーこのっっ!馬鹿野郎がっっ!!ディアーナ様に何をしてるんだっ!!!」


そう叫んで空いている方の座席に拳を叩きつけた。


「合意の上だ。それよりよくも邪魔してくれたな。何故止めなかったサミュエル」


ルーファスはディアーナの身体を引き寄せてから、低い声でサミュエルの名を呼ぶ。


『頃良いタイミングまでお止め致しましたよ。ねえ、リアム様』


答えたサミュエルは、いつの間にかディアーナの向かいの座席に座っている。

リアムも乗り込むと、サミュエルの隣に腰を下ろした。


「ディアーナ様の叫ぶ声が聞こえたのにサミュエルが止めるからおかしいとは思ったんだ。………それで、ディアーナ様はご自身の気持ちに気づかれたのか?」


そこまで言って、ディアーナの指に光る指輪を見つけると、震える指でそれを指して「マジで?」と呆気に取られた。


ディアーナは見られてしまった事が恥ずかしいのか、ルーファスの胸に顔を埋めるようにして震えている。

その白銀色の髪を優しい手つきで梳くように撫でながら、ルーファスは幸せそうに目を細めて微笑んだ。


「……あー…、お前が無理矢理か…。他国の…しかも伯爵に何て事をしてくれたんだ」


答えないルーファスにリアムは大体の事を察して額をおさえる。

ディアーナの同意がないまま行為に及んだのであれば国際問題にも発展しかねない。出発一日目にこれでは先が思いやられるとリアムは溜息をつく。


「あのっ…リアム様」


ディアーナが顔をあげた。

頬が薔薇色のように赤みを帯びて、瞳はしっとりと潤んでいる。全身から匂い立つような色香だけでなく、ルーファスの胸に縋り付く様子が庇護欲をそそる。


「…無理矢理…では、無いです。…多分…」


それだけ言うと恥ずかしくなったのか、またルーファスの胸に顔を埋めてしまった。

もっと見ていたいと思いつつ、あれ以上見てはいけない、そう理性が止めたリアムは、自らの熱を下げるように大きく息を吐く。


「…分かりました。合意の上であれば、私が言う事はありません」

「だから言ったろうが」

「ディアーナ様の事に限ってお前の言葉は信用ならないんだ。全く…いくら話し合いをすると言われても二人きりにするのは間違っていたよ」


リアムの指摘を気にする様子もなくルーファスは宝物を抱くようにディアーナを抱きしめており、リアムはこめかみをおさえて呻く。

その様子を黙って見つめていたサミュエルはその手に書類の束を持つとニコリとルーファスに向かい微笑んだ。


『我が君は存分に休まれたご様子ですので、本日の宿に着くまでの間に此方を処理して頂きましょうね。それまでの間、姫様は私がお預かり致します』


その言葉に政務を思い出したルーファスは溜息をつくと、書類の束を渡すよう手を伸ばした。片方の腕はディアーナに回されたままだったが、サミュエルが『お渡し下さい』と笑みを更に深くすると渋々ディアーナを解放した。


『では我が君、終わるまではお預けです。頑張って下さいませ』


サミュエルが言うと、ルーファスとディアーナの間に黒い膜が現れ、途端に隣に座っている筈のルーファスが見えなくなった。


「サミュエル…これは?」

『空間の閉鎖でございます。これで隣の声は聞こえませんし、触れる事も出来ません。姫様にはその間、クルドヴルムの生活についてご説明致しましょう』


そう言ったサミュエルの手にティーポットが現れた。

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