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71. 執事精霊サミュエル

暖かな陽の光が差し込む庭園を、ディアーナは執事精霊サミュエルとのんびり歩いている。


何故こんな組み合わせになったかというと、ルーファスに体よく追い出されたからだ。

ひとりで不安だろうアナスタシアと一緒に謝罪に行ったのに、二人で話すと言われ代わりにサミュエルを付けられた。


「ごめんなさい。お仕事の邪魔をしてしまったわね」


ディアーナは鮮やかな色彩の花々を見ながら、半歩後ろを歩くサミュエルに声を掛けた。

サミュエルは口角をふんわりあげ微笑む。


『とんでもない事にございます。殿下とご一緒出来て何よりです』


人間で言うと20代半ばくらいに見えるサミュエルは

足を止めて恭しく礼をする。

流れるような動作はサミュエル自身の容貌と相まって溜息が出るほど美しい。

そう言えばノアも含めて執事精霊は皆美しい顔をしていた…そこまで考えたディアーナは人外美形のシリルを思い出す。


(執事精霊より綺麗なパパって…ホント凄いわ。そうだ、クルドヴルムに行く事をパパに報告しないと)


部屋まで戻ってシリルが設置してくれた転送魔法陣を使うか迷うが、広い宮殿のため部屋までが遠い。

ルーファス達が話し合いをしてる間に戻るなら、自分で移動魔法を発動した方が早いだろう。昨日出来たのだから多分大丈夫。


『なりません』


目を閉じて巨大樹をイメージしたディアーナにサミュエルの制止が入る。


『移動魔法は高難度の魔法です。昨日の発動は偶然と考えて頂いた方が良い。移動魔法を発動されるのはシリル様の許可を得てからになさって下さい』


穏やかではあるが、サミュエルは魔法を発動する事をキッパリと否定した。

修行でも移動魔法は習わなかった。…シリルが教えてくれなかったのだ。他の魔法は惜しみなく与えてくれたシリルが教えないという事は何らかの意味があるのだろう。


「ごめんなさいサミュエル」

『いいえ殿下。移動魔法は失敗すると時空の狭間を彷徨う事になる危険な魔法とはいえ、失礼を申し上げました』


謝罪するサミュエルから恐ろしい言葉を聞いて、発動しないで良かったと痛感した。


「わたくし、もう王女じゃないの。だからディアーナでいいわ」

『…では、姫様とお呼びしても?』


王女では無いと言ってるのに、引くつもりはないらしい。その瞳は柔らかなままだが、強い意志を感じる。

ディアーナは一つ息をはいて肩を竦めると、眉を下げて肯定した。


『では姫様、あちらで少し休憩といたしましょう。明日からの行程をご説明いたします』


サミュエルは少し先にある東屋を示し、ディアーナに手を差し伸べる。


「執事精霊とお話するのはサミュエルで二人目なの。執事精霊でもそれぞれ違うのね」


差し伸べられた手にディアーナは自らの手を重ねながら、言う。

『”執事精霊”と言いましても能力には個体差がございます。成人の姿ではありますがノアはまだ幼体ですから、至らぬところもあるのでしょう』

「パパ…師匠程の魔力を持っていても幼体が召喚されるの?」

『パパで宜しゅうございますよ。…そうですね、執事精霊の召喚には魔力量も必要ですが、術者の気持ちが大きいのです。執事精霊は紹介で召喚されます。恐らくシリル様はあまり乗り気では無かったのかもしれませんね』


ディアーナは初めて聞く執事精霊の召喚について目を瞬いた。


(紹介制度って、家政婦紹介所みたいな感じなのかしら?)


執事精霊が紹介制度なら、自分も呼び出す事が出来るのではないかとディアーナは考える。

サミュエルはそれを察したのかふんわりと微笑んだ。


『姫様は我が君と同程度の魔力量をお持ちですので、召喚は可能でしょう。ですが、姫様の持つ魔力は我々にとっては喉から手が出るほどに憧れる聖なるもの。姫様の執事になりたくて、もしかしたら精霊王が召喚されるかもしれません』

「ーー精霊王に執事は出来るの?」

『出来ませんね。執事でも無いのに権力を使い召喚される可能性がある、という事です』

「いい迷惑ね。…ではわたくしは執事精霊は召喚しない方が良いという事かしら」

『さようでございますね。お試し頂いても良いのですが、精霊王が召喚されると我々も面倒ですのでお控え下さると幸いです』


執事精霊にこき下ろされる精霊王が気になるが、大分面倒な存在なのだろう。サミュエルが困るならやめておこうと、ディアーナは素直に頷いた。


「サミュエルはいつからルーの執事なのですか?」

『クルドヴルム王族の執事精霊は先程お伝えした召喚法とは少し異なります。その為、私は我が君が幼い頃…物心つく前に召喚されました』

「ではずっと仕えてくれているのね」

『…はい。我が君のご両親…王太子殿下夫妻がお亡くなりになった後の数年はお仕えする事は叶いませんでしたが…』

「召喚契約は解除されなかったの?」


召喚には対価が必要で、使役精霊、使役獣の場合は対価が術者の魔力となる。その魔力に見合った数の使役が可能となるが、魔力を失えば契約は解除されると本で読んでいた。

ルーは一時的に魔力が使えなくなったので、その際に契約は解除されないものなのか、ディアーナは疑問に感じる。


『我が君の魔力は枯渇した訳ではありませんので、出る事は叶いませんが契約はそのまま残っておりました。…私にとっては辛い時間でしたが、姫様のお陰でまた我が君にお仕えする事が叶いました。私にとって姫様は我が君に次ぐ大切なお方。クルドヴルムに赴いた後、必要があれば私が執事を務めさせて頂きます』


サミュエルはルーが魔力を失った時を思い出したのか一瞬哀しげに目を伏せた後、ディアーナに柔らかな笑みを向けた。


「ありがとうサミュエル。その時はよろしくお願いしますね」


ルーファスの側を離れて大丈夫なのか疑問は残るが、サミュエルが言うなら問題無いのだろう。


『姫様にもお仕えする事ができ、私は幸せ者でございます』


そう言ってサミュエルはディアーナを東屋の椅子に腰掛けるよう誘導する。

ディアーナは誘導されるままに腰を下ろし、サミュエルに笑いかけた。


『本日はローズヒップティーをご用意いたしました』


サミュエルの言葉にディアーナが瞬きすると、目の前のテーブルには様々なお菓子と湯気をたてた紅茶が置かれていた。

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