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68. ディアーナは怒る

ディアーナが駆け出そうとするのをアナスタシアの手が止める。


「…私のそばに居てくれるのでしょう?」


もう間に合わないよ、とアナスタシアは告げた。

茫然とアナスタシアを見つめながら、ディアーナは荒く息を吐く。その頭の中にあるのはたったひとつ。



ーーールーファスが殺される!!



それだけは絶対に嫌だ。ルーファスを殺させたりはしない。

ルーファスが居ない世界を想像するのも恐ろしい。

そんな事になれば…


(…イメージしろ!!!!)


ディアーナはギュッと目を閉じる。

シリルなら何ら苦労なく発動出来る魔法をディアーナはイメージし…ルーファスの元へ行きたい。行かせてくれと願う。


その願いが届いたのかディアーナと、その手を掴んでいるアナスタシアの足元に移動魔法陣が展開された。

魔法陣から光が発せられ、二人を包み込む。




「ディアーナ様!!」


二人の異常に気付いた侍女の叫ぶ声が、遠くに聞こえた。







煙が立ち込める部屋の中で、剣の音が鳴り響く。


「おい!俺達セウェルスと喧嘩してたっけ?」


そう言ったリアムは振り向きざまに剣を振り下ろし、真っ黒な装束に身を包んだ男を斬りつける。

そのままその男の首根っこを掴むと、向かってくる黒装束に向けて投げつけた。

ルーファスは執務机の椅子に座ったまま「知らん」とぶっきら棒に言う。


「とにかく政務関係の書類が無事で良かった。サミュエルに届けさせるのが後一歩遅れてたらと思うとゾッとする」


そうルーファスは安堵の息を吐いた。

リアムは「そりゃそうだ!」と笑い、剣を真正面に向けると「グリフォン!!」と叫ぶ。

剣先に魔法陣が展開されると、鷲の上半身、獅子の身体を持つ使役獣が現れた。


「あまり破壊するなよ。ディアーナに迷惑がかかる」

「戦う側近の心配じゃなくてお姫様の心配って…なんて奴だ!!」


リアムはルーファスに向かって叫ぶと、グリフォンが突進していく方向と別方向から飛び出してきた敵に一太刀を浴びせる。


「ってか、俺は側近だからね!騎士じゃないからね!」

「そんな当たり前の事を聞くな。騎士ならあちらで戦っているだろう」


ルーファスとリアムの先で騎士と黒装束が剣を交える音が鳴り響く。


「だからっ!お前は竜騎士でしょうよ!!少しは手伝わんの??」


リアムの叫びに「やれやれ」と溜息をつくと、ルーファスはゆっくり立ち上がった。

そのままリアムの隣に立って片方の口元だけを上げる。


「ではその竜騎士に護られるか?()竜騎士殿?」


リアムは「嫌味だねぇ」とぼやくと、ルーファス目掛けて剣を振り下ろす敵を薙ぎ払った。


「主君を護るのが側近の務めなんでね。元竜騎士に護られてなさい」


リアムの返答にルーファスは笑う。そしてすぐに表情を改めると、


「今回の件はセウェルスに確認するとして…数だけ多くて面倒だ。とっとと片付けるぞ」


そう言って、ルーファスは腰に下げた剣を引き抜いた。

煙の向こうから放たれる魔法を軽々と剣で両断するルーファスを見て、リアムは「壊すなって言ってなかった?」と半眼で睨みつけた。

ルーファスが両断した魔法は二人の後方に着弾。城は破損し、そこから煙があがっている。


「俺達が壊さなければいい。あれはセウェルスが悪い」


ルーファスはさも当然のように告げ、そのまま剣を掲げると、上から飛びかかってきた黒装束の身体に深々と突き刺してから、傍に放り投げた。


「…なんだ?」


ルーファスは目の前に現れた見覚えのある魔法陣に眉をひそめる。

敵かもしれないと体勢を整えたところで、血生臭い場所にそぐわない馴染みのある甘い匂いが鼻をくすぐる。慌てて剣を収めると受け止めるように腕を広げた。

魔法陣が発する光の中から両手が伸びてルーファスの首に絡みつく。

光が収まると、ルーファスの腕の中にはディアーナが。そして足元にアナスタシアが座り込んでいた。


「ディアーナ!何で来た!!」

「会いたかったの!!」


ディアーナの身を案じて言ったのに、何故か怒鳴りつけられてルーファスは怯む。


「…でも良かった。怪我してないのね」と、ディアーナはホッと息を吐くとルーファスを抱く腕に力を込めた。

心配して移動魔法まで使ったのかと、ルーファスは心が弾むのを感じ、ディアーナの温もりに目を閉じる。


「もしもし?!今の状況理解出来てます??」


リアムの呆れた声でルーファスは舌打ちし、ディアーナは顔をあげた。

ディアーナはルーファスから降りると座り込むアナスタシアと目線を合わせる。


「アナスタシア!影を止めて!!」


俯くアナスタシアの肩がピクリと動き、顔をあげた。

黒装束達もアナスタシアの姿を認知したのだろう。

その動きが止まるのを認めると、ルーファスは手を挙げ、騎士達の動きを止める。


「アナスタシア、わたくしの声が聞こえる?」


顔をあげたアナスタシアはまだ虚ろだ。

ディアーナは近くに落ちていた剣を拾い、アナスタシアに握らせると自分の首元に剣先を当てた。


「ディアーナ!」

「ディアーナ様?!」

頭の上からルーファスとリアムの狼狽する声が聞こえたが、そのままの状態でアナスタシアに言う。





「彼の生命が欲しいのなら、先にわたくしを殺しなさい…アナスタシア」





ディアーナの言葉にアナスタシアの手が震え、カタカタと剣が震える。アナスタシアのディアーナを見つめる瞳が、僅かだが戸惑いと怯えの色を見せた。


「貴女は勘違いしているわ。彼が居ない世界でわたくしが生きていると思う?」


剣先が更に揺れてディアーナの顎に傷をつけるが、気にせずディアーナはアナスタシアに微笑みかけた。


「だけど…わたくしが知る、わたくしの愛するアナスタシアは絶対にそんな事はしない。誰より優しい貴女が…そんな事をする訳が無いの」


アナスタシアの様子は明らかに異常だった。

考えられるのはゲーム強制力にアナスタシアが支配されたという可能性。本来巻き込まれる事なくゲームのヒロインとして、次期国王となるアナスタシアを歪めてしまった。


ディアーナの言葉にアナスタシアは紫色の瞳を大きく見開いた。

その口から掠れたような言葉にならない声が溢れる。







「……助けて…。お姉様…」







僅かに聞こえたその声にディアーナは力強く頷くと、アナスタシアの額に手をやる。

その動きで剣先が更に深く食い込んだが、流れる血はそのままで目を閉じた。


ディアーナは怒りながらイメージする。

アナスタシアを苦しめ、ルーファスの生命を危険に晒したこれは許せない。


(このクソゲーム!!私の大切なアナスタシアを苦しめた事を絶対後悔させてやる!絶対にゲームの思い通りになんてなるものか!!!)


強く思った瞬間、ディアーナの瞳が赤く染まり、その身体から眩い光が発せられた。



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