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64. アナスタシアの叫び

後にも先にも国王からここまで衝撃的な宣言をされた事は無い。

しかも爵位が与えられるという事は臣籍降下だ。フランドル公爵家への降嫁は一体どうなったのだとディアーナは混乱した。


思わず振り返ってフランドル公爵とネヴァン公爵を見るが、渋い顔をしているフランドル公爵に対し、ネヴァン公爵は穏やかだ。

訳の分からぬまま、ディアーナは会場に向き直る。


何も知らない者は様々な反応を見せたが、唖然としているのはアナスタシアにクリストファー、そして知らぬ内に婚約破棄となったハリソンだ。


アナスタシアは真っ青になって、よろける身体をクリストファーに支えられている。

ハリソンはフランドル公爵に目で訴えたが、公爵は首を振る。ハリソンは「マジかよ」と呟くと、痛み出す胸を押さえながら俯いた。


ディアーナは会場のざわめきを耳に入れながら、国王の宣言に反論する事も出来ず、国王に向けて了承の意味を込めて無言で低頭した。


「話は終わりだ」


国王が告げると、また会場に音楽が流れ出し、華やかな宴の場に戻っていった。


「王女殿下。私から説明いたします」


国王は話す気が無いのだろう。自分の席に戻るとディアーナと視線を合わせる事は無く、代わりにフランドル公爵がディアーナの元へ近付いた。


「わかりました。別室に参りましょう」


ディアーナとフランドル公爵がその場を去ろうとした時、ルーファスが声を掛けた。


「私も同席しよう。ーー良いでしょうか、セウェルス王」

「ああ構わない」


ディアーナに興味の無い国王は了承する。

ルーファスは国王に一礼すると、ディアーナの横へ並んだ。






「貴方…わたくしを騙したわね」


先導するフランドル公爵の後に続いたディアーナはルーファスを睨みながら小さく言う。


「俺は諦めないって言ったろ。より確実な手段を選んだだけだ」


悪びれもなく囁くように返すルーファス。

「それよりも…」と、ルーファスはディアーナの姿を凝視すると眉をひそめる。


「俺以外に肌を見せるな」

「ーーーっつ!!」


フランドル公爵が前を向いているのを良い事に、ルーファスはディアーナの耳元まで顔を寄せると低く囁いた。

ディアーナは囁かれた方の耳を押さえると、全身真っ赤になってルーファスを睨みつける。

衝撃のせいか涙目になっているディアーナをみて、ルーファスはクツクツと笑う。

ディアーナが思わず叫びそうになった時、フランドル公爵が足を止めた。


「さて…クルドヴルム国王陛下。我が国のディアーナ王女殿下に随分とご執心のようですが、全ては貴方様の差し金ですかな?」


穏やかに言いながらフランドル公爵はゆっくりと振り返った。





ーーーーーーーーーーーーーーーー


「どうしてっ!!どうしてお姉様を臣籍へ下らせるだけでなく、クルドヴルムへ行かせる必要があるの?」


夜会の後、アナスタシアは国王に詰め寄った。

国王は何故アナスタシアが取り乱しているのか理解出来ない様子で「落ち着きなさい」とアナスタシアの肩に手を置いた。


「魔法を使えないディアーナがフランドル家に降嫁しても苦労するだけだ。ならば魔法を使わないクルドヴルムへ赴いた方がディアーナにとっても幸せだろう」

「お姉様に魔法を教えなかったのはお父様達じゃない!!髪色が違うのが何?あんなに素敵なお姉様なのにずっと蔑ろにして…その結果じゃない。お父様達が法律を守っていればこんな事にはならなかったのよ!!!」


そう叫んでからアナスタシアは国王に縋り付く。


「お父様、今なら間に合うわ!この話を無かった事にして!!ずっと黙っていたけどお姉様は魔法が使えるわ。とても綺麗なのよ。ねえ、お願いよお父様…」


アナスタシアの瞳から涙が溢れ頬を伝う。

愛娘の訴えに心が揺らぎそうになりながらも、ディアーナの放つ魔法を見た事がない国王は、アナスタシアの言葉を信用する事も出来ず、また保身を考えると首を縦に振る事が出来ないでいた。


「既にクルドヴルムと誓約書も交わしている。国王同士の決定だ。それを覆す事は出来ないのだよ、アナスタシア」


その言葉でアナスタシアの表情が絶望に染まる。

やがてその表情は怒りに変化していった。


「お姉様が死んでしまったらお父様のせいよ!!もしお姉様に何かあったら私はっ、クルドヴルムも、お父様も絶対に許さないんだから!!!」


まだ死ぬと決まった訳では無いのに、死を前提としている事に疑問を感じながらも、国王は愛娘の慟哭に胸を痛めた。

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