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60. リアムは苦悩する

「ごめん、何言ってるかサッパリ判らない」


リアムはお手上げするように両手をあげる。

目の前に座るのは主君と隣国の王族だ。

だがリアムは全ての礼儀を取り払ってオブラートに包まず言う。


部屋に呼び戻されたリアムは、ルーファスからディアーナが王族から離脱する事、それも追放という形を願っていると聞き「馬鹿なの?」と、驚きを通り越して呆れた。

ルーファスも内心反対なんだろう。その顔から不安と不満の色が漂っている。


「いいか?普通は臣籍に下るか降嫁だ。追放なんてそれこそ難しい。一歩間違えば処刑だぞ。そんな簡単に追放なんて言うな」

リアムは吐き捨てるように言って頭を抱えた。


ルーファスは背凭れに身体を預けるようにしてから腕を組むと、溜息をつく。

リアムの言っている事は正しい。追放と処刑は紙一重だ。他の男に降嫁するのは断じて許さないし絶対阻止するが、臣籍なら上手くやれば自身の望む通りになるのではないか。それに追放よりは確実な手段だ。

ーーだが隣に座るディアーナは”クルドヴルムに行けば死ぬ”と信じて疑わない。

説得するにはディアーナの死がクルドヴルムでは無い事を示す必要がある。


「リアム様の仰る事もよく分かります」

ディアーナはリアムの態度に怒るでもなく、静かに言う。


リアムの言い分が正しい事は分かっている。

国王の事だから下手をすれば処刑される可能性もあるのだ。

だが、ディアーナには追放以外の道は無い。


「わたくしが臣籍に下る事は出来ないでしょう。…ですからこれはわたくしの我儘です」

そう言ってからディアーナは困った顔で笑う。


(結婚は好きな人としたい…なんて我儘。絶対に口に出来ない。恋をした事が無いから憧れているだなんて…)


ディアーナの言葉の先にあるものを察したルーファスとリアムは驚きのあまり言葉が出ない。

だがすぐにルーファスは瞳を緩ませると愛おしそうにディアーナを見つめ、リアムはそんなルーファスに視線を送ってから苦笑いを浮かべた。


「ーー我が主君は脳内お花畑状態だし、主君の女神殿は引いてくれないし、本当に俺って苦労人…」


リアムは盛大に溜息をついてから頭をあげる。

その顔は嫌々、渋々の文字が貼りつくような表情だ。


「追放に持っていけそうな方法がひとつだけ」


リアムはそう言ってから重い口を開いた。







ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「怒ってるか?」

ディアーナが去って二人きりになった部屋でルーファスはリアムに尋ねた。


「…怒ってるよ。ディアーナ様はたおやかな女性だと思ってたのにぶっ飛んだ発想をするわ、お前はデレデレして役に立たないわ、間に入る俺の身にもなれよ」

「あの時は冷静になれなかったからお前を呼んだ」

「それな!あの豊満な胸の中に顔を埋めたって…それで何もしないお前を褒めてやるべきなのか、馬鹿だと叱りつけるべきなのか。とにかく俺を呼んだのだけは正解だな」


サミュエルから状況を聞いた時には、真昼間から何やってんの?と言いたくなったが、子供の頃から同じようにスキンシップしていたと聞いて、鈍感って怖いと心底震えた。

婚約者が居る身だが自分なら耐えられる自信は無いと思う。その場で押し倒し、甘い言葉で行動を正当化させて事に及んだだろう。

ルーファスにとって彼女は唯一の存在で、欲よりも彼女の気持ちを取ったようだが、辛かったろうな…と同情を覚える。


「お前…今、余計な想像をしただろう…」


底冷えのするルーファスの声がリアムを硬直させた。

ほんの少し下心を持った目で見たと告げたら多分殺される。初恋拗らせ主君ならやりかねない。

リアムは方向性を変えるために口を開いた。


「いや、お前の愛がよく分かったよ」

「はぁ?」

「ディアーナ様はまだ気づいて無いが大分脈アリじゃないか。良かったな!」


「良くない。クルドヴルムが安全な場所だと思ってもらわないと彼女は振り向いてくれない」

政務の為に机へ移動したルーファスは肘をついて頭を抱えている。


「クルドヴルムに来たら死ぬとでも思ってるのかね」


リアムの言葉にルーファスの肩がピクリと揺れる。

それを見て「マジで?」と、リアムは唖然とした。


「詳しくは言えない。だが彼女がそう考えているのは事実だ」


リアムはルーファスの言葉に疑問を覚える。

クルドヴルムが生理的に嫌いなら分かるが、ルーファスと仲が良いところを見ると嫌ってはいない。

降嫁についても、元帥とセウェルス先王の婚儀は彼女の力が大きかったと聞いている。クルドヴルムで安全が確保出来ないならば祖母を送り出す事は無いだろう。

なのに当の本人はクルドヴルムへ行くと死ぬと思っている?


「彼女は予知の能力でも持ってるのか?」


リアムの口から出たのは純粋な疑問。

色々総合すると”自分が死ぬ未来が分かっている”と考えるのが一番理解出来る。


「まあそんなものだ。彼女がクルドヴルムへ来ると戦争が始まる。彼女はそこで俺に殺されるらしい」

「はぁ?お前が彼女を殺す事なんて有り得ないだろ」

「当たり前だ。それはディアーナも理解している」


だが…、そう言ってルーファスは頭をあげる。


「未来を知ってから7年経ち、彼女の環境は大きく変わった。変わったが…何か見えない力が働いている事を彼女は恐れている。今もそうだ。俺が求めただけで彼女は戦争が起こると決めつけている」


そう言ったルーファスの赤から燃えるような意思を感じ、リアムはルーファスの意図を察した。

リアムは書類の束を脇に抱えると、臣下の礼をとる。


「陛下の御心のままに」


ルーファスは不敵に笑みを浮かべた。

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