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58. ゲームのはじまり

言いたい事を言って安堵したディアーナはリアムに向き直ると優雅なカーテシーをしながら微笑む。


「ご挨拶が遅れてしまいました。ディアーナ・ヴェド・セウェルスと申します。アデルバート伯爵」


低頭するディアーナの動きに合わせて、白銀色の髪がサラサラと溢れ落ちる。

リアムを見つめる紫の瞳に吸い込まれそうになり、慌てて礼を返した。


「リアム・レスホールと申します。お目にかかれて光栄です。王女殿下」

「ルー…ルーファス様からお話は伺っております。幼い頃からの大切な友人だと。お会い出来て本当に嬉しく思います」


リアムは勢いをつけて顔を上げると、そのままの勢いでルーファスを見つめた。

ルーファスは言ってくれたなと渋い顔をして、ディアーナを見てから外方を向く。その耳が僅かに赤い事に気づき、リアムは胸が熱くなる。


「いえ!私も殿下のお話は毎日のように、いや毎日ですね、聞いておりました!我が主君を闇の中から救い出して下さった殿下には感謝のしようもございません」


「毎日ですか?」とディアーナは驚く。リアムは「はい!毎日です」と肯定し、ディアーナに笑いかけた。ディアーナは未だに外方を向いているルーファスを見上げてからリアムに向き直ると、柔らかく笑む。


公式の場で見る儀礼的な微笑みとは違う、心からの微笑みはディアーナの美しさをより際立てた。


(ルーファスが他の女性に目をくれなかった理由がわかる)

「ーー俺は顔で選んでない。勘違いするな」


リアムの心の声を読んだのか、ルーファスが否定した。


「ごめん、ごめん。王女殿下なら皺々のお婆さんでも良いんだよな。毎日聞かされてたから知ってる」

「お前はさっきから余計な事を…」


その後も続く二人のやり取りをディアーナは交互に見つめ、可笑しくなったのか口に手を置き必死に笑いを堪える。


「ディアーナ?」

「ふっ、ふふっ…あははっ!ルーはアデルバート伯爵が大好きなのね!」


そう言って朗らかに笑うディアーナ。ルーファスとリアムはキョトンとしてお互いを見た。

ひとしきり笑うと、ディアーナは改めてリアムに微笑む。


「アデルバート伯爵。どうぞディアーナとお呼び下さい」

「はっ?いや、それは…」


ルーファスの殺気立った視線を感じ、リアムは返答に窮した。とはいえ王女殿下の願いを無下にする事は出来ない。


「私の事もリアムとお呼び下さい。ディアーナ様」


ルーファスの殺気を感じつつも、リアムはそう言って頭を下げた。

ディアーナは満足気に微笑むと、隣に立つルーファスを見上げる。


「ルー、相談したい事があるの」


その言葉を聞いたルーファスは視線だけでリアムに退室するよう指示をした。

リアムは側に控えるサミュエルに「君の主人が暴走しないよう見張っててね」と声を掛けて退室していく。


リアムが退室するのを見送ってから、ディアーナを長椅子に誘導すると、ルーファスはディアーナの正面にある長椅子に腰を下ろしてから尋ねる。


「それでディアーナ。相談事とは?」


ディアーナは肩から膝の上に移動したアルの背を撫でながら、ロスタム獣王国の使者からの伝言を伝えた。







「獣人は力だけでなく勘も働くから、何か感じとったのかも知れないな」


ロスタムの使者は聴覚にも優れていた。

勘だけでなく何かを聞いたのかも知れないとディアーナは思う。


「俺だけが狙われているなら何も問題は無い。それよりもゲームの始まりがクルドヴルムでは無い可能性の方が問題だ」


ゲームの始まりがクルドヴルムからの宣戦布告だと聞いて、ディアーナが死ぬ事が無いよう今まで努力してきたのだ。これがセウェルスからであれば根底が崩れてしまう。

自らの命を狙われても負けるつもりは無いが、ディアーナの命が危険に晒されるのは何としても避けたい。

ルーファスの考えはその一点にある。


「だが今のクルドヴルムには大叔母上がいる。セウェルス先王の命を脅やかしてまで開戦するのか。それにゲームでは何故ディアーナが攫われたのか。全てがクルドヴルムからであれば納得出来るが…」


そこまで言ったルーファスは顎に拳を軽くあて思案にふける。


「あのね、ゲームの始まりは確かに攫われる感じだったの。でもよく考えると…抵抗していなかったような気がするの。ゲームのわたくしは後ろ姿ばかりで表情は見えないから想像でしか無いけど、攫われそうになったら普通抵抗しないかしら…だから」


ディアーナは身を乗り出すようにルーファスへ訴えた。


「わたくしが自ら望んだ事だとすれば…」

「つまりゲームのディアーナは自ら望んでクルドヴルムに来たと。それが開戦の理由だというのか?」

「ーー可能性はあると思う」


ディアーナはもう一度座り直して目を伏せた。

言外にディアーナの言いたい事が分かったのか、ルーファスは顔を歪めた。


「俺が求婚する事が戦争の引き金になると、そう言いたいのか?」


紡がれる言葉は擦れ、一番大切にしているものが抜け落ちるような虚無感に襲われる。

胸を抉り取られたかのような痛みが走り、ルーファスは思わず顔を覆った。

ディアーナを護る為に今日まで邁進してきたのだ。

それを喪って生きる意味があるのか。


耳にディアーナの衣擦れの音と彼女の気配が側にある事に気づくが、ルーファスは顔をあげる事が出来ない。


顔を両手で押さえたまま俯くルーファスの頭に、温かなものがふれた。

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