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56. ロスタム獣王国の使者

夜が明ける前にディアーナは自室に戻った。

ディアーナが戻った事に気付いたアルがトコトコ近付いて、甘えるようにディアーナに身体をすり寄せる。

ディアーナはアルを抱き上げ、鼻の上辺りを撫でた。


「アルは知ってた?わたくし鈍感過ぎるみたい」


「キュ?」と、首を傾げるアルを見て、ディアーナはホッと息を吐くと独り言のように呟く。


「ルーは今迄、どんな想いでわたくしを受け止めてくれていたのかしら…」


思い返せば反省すべき行動が多々ある。

ルーファスが嫌がる事も沢山してきたように思う。


「ルーは全部宝物だって、そう言ってくれたのよ」


会えない時間を思い出と手紙が支えてくれたように、ルーファスも同じ想いで過ごしていたのだろうか。




「ルーと話をしなくちゃ」


ルーファスがディアーナに抱くのは恋愛感情。

ディアーナがルーファスに抱くのは友情…家族愛に近いかもしれない。


前世では男性と付き合った事はあったが、どちらかと言えば”取り敢えず付き合う”感覚だったので本気で好きになった事は無い。しかも何故か毎回、琉偉に邪魔されたような気がする。ーーそしていつも振られた。


「…あんな風に告白されたのは初めてだったな」


ディアーナはポツリと呟いた。


あんな怒りに任せて怒鳴りつけるように告白されたのは、後にも先にも無いだろう。


「不思議ね。怒鳴られたのに、何故だかとても嬉しいの。瑠衣果の時に告白された台詞なんて覚えてないのに、多分ルーの言葉は忘れられないわ」


そう言ってアルを撫でる。


ディアーナはもちろん、瑠衣果も恋をした事が無い。

今ある自分の気持ちが何なのか分からないが、ルーファスときちんと向き合わないと先に進む事は出来ないと思う。


そう考えながら、アルを抱いたディアーナは窓辺に寄り、暁の空を見上げた。







ーーーーーーーーーーーーーーーーー

来賓が宿泊している区画に向かう途中、ロスタム獣王国の使者と遭遇した。


「これは第一王女殿下。おはようございます、体調は如何ですか?」


恭しく礼を取るウサギ耳の使者に、そう言えば全て見られていたと思い出し、僅かに顔を赤らめる。


「はい、お恥ずかしいところをお見せいたしました」


丁寧に謝罪すると使者は「とんでもない」と首を振る。


「それにしても聖獣を連れているとは驚きです。滅多に出会えない貴重な生き物ですのに…一体どこで見つけたのでしょう」


使者はディアーナの肩に乗るアルを見ている。

まさか湖で溺れていたのを拾いましたとは言えない。


「聖獣は神の使いとされ、人に慣れる事はありません。我が国では聖獣に愛された者を”神の愛し子”と呼びます。セウェルスで”神の愛し子”にお会い出来るとは僥倖です」


シリルが言っていた”神の愛し子”とはロスタム獣王国で呼ばれる名前だったのかと合点がいく。

だがアルは溺れていた。聖獣は溺れるのか??


曖昧に微笑むディアーナを見て、使者は早々に話題をかえる。


「我が国はクルドヴルムとも交易をしております。国王陛下にお会いした事もございましたが、あの様な行動をなさる方とは思いませんでした。またひとつ、国王陛下の魅力に気付く事が出来ました」

「魅力…でございますか?」


ディアーナの疑問に使者はニッコリ笑い「はい!」と頷く。


「私共獣人は強き者に惹かれる傾向にございます。クルドヴルムの王族は我が国の王族と並ぶ強き者。ましてや国王陛下はあの容姿でございましょう。我が国の女性達が羨望して止まないのです」


どうやらルーは獣人に人気があるらしい。

確かにルーは強いから、強さに惹かれる獣人の特性は理解できる。


(なんでこうモヤモヤするのかしら…)


ルーを褒められて嬉しい筈なのに、落ち着かない。

使者はディアーナの様子を察したのか小さく微笑むと、ディアーナに顔を寄せた。


「クルドヴルムでも女性達を虜にしながらも、誰も相手にしない事から”氷の陛下”とも呼ばれているらしいですが…。成程、殿下のようなお美しい方がいらっしゃるのであれば納得です」


そうして自分の長い耳を指で差し


「あのような激情を内に秘めていたとは、いやはや…羨ましい」


ディアーナは使者が言外に告げた事に気づき、全身が熱くなる。

獣人は人に比べて諸々超越した能力があると聞く。

ウサギ耳の使者は


(あの告白を全部聞かれていたの⁈)


ディアーナは思わず顔を覆った。

使者はディアーナの様子を気にする事なく「可愛らしい姫君でいらっしゃる」と微笑む。


「ああそうだ。もうひとつ、他国の事ですので黙っていようと思いましたが」


そっとディアーナの耳元へ顔を寄せると声を潜めて低く囁いた。


「何やらキナ臭い感じが致します。クルドヴルム国王陛下へ細心の注意を払うようお伝え下さい」


そこまで言うと一礼して去っていった。

ディアーナは使者の去った方を振り返り、胸の高鳴りを抑えるように拳を握りしめる。


ゲームでディアーナが攫われたのはセウェルス建国祭の最中だった。建国祭はこの後も一週間続く。

クルドヴルム側からの戦争は回避出来たと思うが、何か根本的に思い違いをしているのではないか。


ディアーナは胸騒ぎがして、ルーの元へ急いだ。

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