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55. アナスタシアの戸惑い

「私、お姉様が全く気付いてないとは思ってませんでした」


あの後、石像のように固まって動かないディアーナを回収して自室に放り込み、言い切ってスッキリしたルーファスは居合わせた彼の側近に引き渡した。

そしてアナスタシア達は今、別室で向き合っている。


「あのディアーナが泣き出すくらいに会いたかった相手だろ。それなのにディアーナは友達だと思ってたって事か?」


クリストファーは未だに状況が理解出来てないらしい。勝ち気なディアーナが泣く姿も青天の霹靂だ。


「あの国王が相手って…。ディアーナ鈍いからゆっくりでいいと思ってたのに…あんなの無理だ」


ルーファスの殺気を一手に引き受けたハリソンは顔を覆った。

クリストファーは慰めるようにハリソンの肩を叩く。


「だからもっと見て貰える努力をしろと言ったんだ」

「お前、人の事言えるのか?」

「お二人共、今はお姉様の事ですわ」


クリストファーと、それを睨むハリソンに、アナスタシアは言う。


「恐らくルーファス様はお姉様に求婚なさるでしょう。本当に悔しいですわ、きっとお姉様が自覚された事で積極的になる筈ですから」

「しかしアナスタシア。冷静に考えたら両国の安寧の為にはディアーナがクルドヴルムへ嫁ぐ事は慶事だと思うのだが」

「アナスタシア。俺はあんな魔王のような男に勝てる自信は無い」


アナスタシアはキッと二人を睨む。


「お姉様はずっとセウェルスに居ていただきます。クルドヴルムには絶対渡せません!そうでないとお姉様はっ!!…って、あれ??」


アナスタシアは何を言おうとしていたのか、自分でも分からなくなった。大好きなお姉様と離れていたくない。クルドヴルムに連れていかれると…。


「私、何を考えているの?」


大好きなお姉様が側に居ないのは寂しいけど、お姉様が幸せならクルドヴルムでも良いじゃない。お姉様が笑顔ならそれで良い筈なのに、何故こんな…。


「お姉様の気持ちなんてどうでも良いから、セウェルスに留めておきたい…なんて、どうして?」


その為ならクルドヴルムなんて消えてしまえばいい、なんて…。

アナスタシアは僅かに頭痛がしてこめかみを押さえた。





ーーーーーーーーーーーーーーー


「パパッ!!」


転送魔法陣を使って突然現れたディアーナをシリルは受け止めた。

泣き腫らした顔の化粧は落ちて、髪は乱れに乱れている。


「落ち着きなさい。一体何があったのです」


ディアーナに尋ねるがおおよその見当はついているシリルは大きく息を吐いた。


「パパは知っていた?」


答える代わりに、縋るようにしてシリル見上げるディアーナの頭を撫でてやる。

ディアーナはそれだけでルーファスの気持ちをシリルも知っていた事を察した。


「色恋以外の事では本当に優秀なのに、貴女は」


あれだけ分かり易い行動を何故気付かないのか。

どれだけ鈍感なのだと、シリルは頭を撫でながらもう一度息を吐く。

ディアーナはシリルの胸に顔を埋めると「だって考えた事もなかった」とグズグス泣き出した。


「わたくしどうすればいい?戦争は起こってないけど、17歳になってしまったわ。クルドヴルムに行く事がわたくしが死ぬ鍵だとしたら…」

「前にも言ったでしょう。未来はひとつでは無いと。少なくともルーがディアーナに手をかける事だけは絶対に有り得ません」


シリルは子供の時にしたのと同じようにディアーナを抱き上げた。

何年も一緒に暮らしていたのでシリルの顔には免疫がついたが、17にもなって抱き上げられるのは恥ずかしい。


「本当に大きくなりましたね」


昔は抱き上げられてもシリルの目線と同じか、見下ろされていたのに、今はシリルが見上げて話すくらいに大きくなった。

シリルはディアーナの成長を喜び、目を細める。


「…この7年間、ディアーナは沢山の努力をしました。暗い影が落とされたとしても、今の貴女ならきっと乗り越えていけます。貴女はもう少し自分を信じなさい」


片手で軽々と抱えながらディアーナの涙を拭って、シリルは微笑むと、ディアーナに尋ねた。


「ディアーナはルーが嫌いですか?」

「大好きよ!…大好きだけど…これが恋愛感情かと言われると分からない」


ディアーナは俯く。ルーの事は大好きで、会えなくて寂しかったし、苦しかった。会いたかった、会えて嬉しかった…けど、ディアーナは恋を知らない。

そして瑠衣果も本当の意味では分かっていない。


「ゆっくりで、ディアーナのペースで構いません。いつかその時がくれば、おのずと分かるでしょう」


シリルはそう言ってからディアーナを下ろす。


「可愛い私の娘。自由に、貴女の思うまま進みなさい。貴女の選んだその道が、進むべき未来です。

私はいつも貴女の幸せを願っていますよ」


温かく諭すような声音に、ディアーナはようやく落ち着きを取り戻した。

シリルの言う事は正しい。これだけ努力してきたのだ。何があっても頑張れる気がする。


「パパ」

「ん?」

「大好きよ」


ディアーナはシリルに抱きつくと、目を閉じた。

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