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51. 建国祭と主人公

セウェルス聖王国の中心に王都はある。

白亜の城とも呼ばれる美しい王城から円形状に広がる城下町は、いつもより賑やかだ。


簡素なワンピースを身に纏い、碧眼に白銀色の髪を一括りにした娘がひとり活気に溢れた城下町を歩いている。

通りすがる男性が思わず振り返り一緒にいた女性に怒られた。

注目を浴びている事を気にする風でもなく鼻歌まじりで城下町の雰囲気を堪能している。


娘の横を通り過ぎた馬車が急停車すると、勢いよく扉が開き、中からひとりの青年が飛び出してきた。

慌てるようにして娘に追いつくと、その肩を掴んで引き留める。


「何をしているのだ。ディアーナ」


肩を掴まれた娘、ディアーナは振り返ると口を尖らせた。


「ねえクリストファー。淑女の肩をいきなり掴むなんて失礼じゃなくて?」


ディアーナの抗議に動じる事もなく、クリストファーと呼ばれた青年は否定する。


「騎士団の連中をボコボコにする馬鹿力に淑女なんて言葉を使って欲しくない」

「あら、何ならクリストファーもボコボコにして差し上げてよ」


拳を握りしめて顔の位置まで上げてからニッコリ笑うディアーナにドン引きするクリストファー。

溜息をつくと「とにかく行くぞ」と、ディアーナを引きずるようにして馬車に押し込めた。


「折角城下町を堪能出来ると思ったのに…」


ディアーナはブツブツ文句を言いながら腕輪を外すと、透明度の高い紫色の瞳に変化する。

クリストファーは呆れたように肩を落とし、イラつきを抑えるようにワシワシ髪を掻いた。


「本当に勘弁しろよ。何でセウェルスの王女が護衛も付けずにフラフラ歩いてるんだ」


ギロリとディアーナを睨みつけるそれは、射殺しそうな殺気を放っている。

ディアーナはその殺気を察しているのか、いないのか、気にする様子もなく微笑んだ。


ディアーナの目の前に座る青年。

彼がエルガバル英雄伝説の主人公、後に英雄と呼ばれるクリストファー・ネヴァン、その人だ。

母親似なのか熊のような父親とは違い、均整の取れた身体付き。ネヴァン家の特徴である青い髪と瞳を持ち、目鼻立ちがハッキリした綺麗な顔立ちをしている。


「わたくし強いのでしょう」


ディアーナの返答にグッと詰まるクリストファー。

暫く見つめ合うが、負けたのはクリストファーで悔しそうに顔を背けた。


「それに今は建国祭よ。城下におりて楽しみたいと思わなくて?」


走る馬車の窓から名残惜しそうに街の様子を眺めたディアーナは、ふと息を吐く。


ルーファスがクルドヴルムに戻ってから暫くは毎月のように遊びに来てくれた。

足が遠のくようになったのは、クルドヴルムの国民が通う学園に入学してから。毎日忙しいらしく、長い休みが取れた時位しか顔を出せなくなった。

そして決定的になったのは4年前。クルドヴルム竜王国の国王だった彼の祖母が崩御し、ルーファスが即位した。そこからは、会えていない。

その間にディアーナの修行もひと段落し、アナスタシアの強い希望もあって王城に戻る事になった。

なので唯一二人を繋ぐのは手紙だけ。

忙しいだろうに、手紙だけは毎月欠かさずディアーナに届けられた。

その手紙の中で、建国祭に招かれた事が書かれていたのだ。


(もしかしたら会えるかもと思ったんだけど)


ルーファスの事だ。国賓として迎えられたとしても、先にお忍びで城下町を見てまわるような気がしたのだ。

だから護衛も付けず城下におりたーーが、クリストファーに見つかってしまった。


クリストファーは正義感の塊だ。主人公だからその設定は仕方ないのだが、こんな時くらい見逃して欲しかった。

ディアーナは視線を合わせようとしない未来の義弟を面倒くさそうに見つめ、小さく溜息をついた。

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