4. ディアーナは優雅に微笑む
部屋には既に家族が揃っていた。
楽しそうに談笑していたが、ディアーナが入室するとピタリと静まる。
ディアーナは胸が痛むのを感じた。
10歳のディアーナには辛い時間だったのだろう。
だけど瑠衣果は違う。
家族に溺愛されていたと自信をもって言える。
家族の愛を知る私が、毒親になんか負けるもんですか!
そう、ディアーナは心の中で宣戦布告した。
「お久しゅうございます。国王陛下、王妃殿下」
ディアーナはニコリと微笑むと優雅にカーテシーを行う。
普段であれば寂しそうな笑顔で「お父様、お母様」と呼ぶ娘の変化に両親も驚いた様子だった。
「お姉様!」
椅子から降りたアナスタシアが笑顔で駆け寄ってくる。
「まあ!アナスタシアもお久しぶりね。会いたかったわ」
抱きついてきたアナスタシアをディアーナも抱きしめ返した。
一歳差しかないので身長は殆ど変わらないが、アナスタシアの方が小さい。
「お姉様が笑ってくれて嬉しい!妖精さんみたいにとても綺麗だわ」
「ありがとうアナスタシア。わたくしも貴女の笑顔を見ると幸せな気持ちになるわ」
そう言ってディアーナは柔らかく微笑んだ。
珍しい姉の笑顔を見られて、アナスタシアも満足気に笑う。
アナスタシアはディアーナの手を取ると両親のもとへ連れていく。
両親の顔が強張るのを見て、ディアーナは心の中で笑った。
「お父様、お母様も見たでしょう!お姉様が笑ってくれたのよ!!わたしお姉様の笑顔が大好きだわ。お父様達もそう思うでしょう」
愛娘に促されて、両親は引きつりながらも曖昧に笑う。
「さあアナスタシア、食事が冷めてしまうよ」
両親の言葉に、アナスタシアは頷いて自分の席に着いた。ディアーナもそれに倣い自分の席に着く。
「アナスタシア、今日はあまり遊んであげられなくてごめんなさいね。寂しかったでしょう」
母親はディアーナを見ないように、自分の隣に座るアナスタシアに声を掛けた。
徹底してるなぁ、とディアーナは思う。
正直10歳の娘にする事か?この後何も無ければ食卓ごとひっくり返したい気分だ。
体力的に出来ないだろうけど…。
「少し寂しかったけど、侍女達が居たから大丈夫よ」
アナスタシアは母親にそう答えた後、良い事を思い付いたようにディアーナを見てから、両親の顔を見比べた。
「お父様達はお仕事が忙しいから、お姉様と一緒に遊べばいいのよ!お姉様と一緒に遊べたら、わたしとっても幸せだわ」
アナスタシアは名案だ、という風にキラキラした瞳で両親を見ている。
両親の顔は明らかに引きつっていた。