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48. ディアーナと悪巧み

全力を出し切って気が抜けたディアーナは、アルのフワフワを堪能しながら癒されていた。

隣に座るルーはまたしても忌々しそうにアルを見下ろしながら「焼いてやりたい」と毒を吐いている。


気が付けば既に夜は明け陽が昇り始めていた。

王城から離宮まで距離があるとはいえ、母親が倒れたのだ。もしかすると国王がやってくるかもしれない。

祖母が完治した事を伝えるのは良いが、それだとまた祖母と元帥は離れ離れになってしまう。

それにいくら完治したと言っても…祖母の時間はディアーナ達より確実に短い。

だからせめて、残りの時間を自由に生きて欲しいと願うのは我儘だろうか。


「どうにか、おふたりが離れないで済む方法は無いでしょうか。折角逢えたのに…」


ディアーナはアルの背を撫でながら呟いた。

ルーは少し考えるようにすると「クルドヴルムに連れて行ければ」と独り言のように言う。


「それだ!それよ、ルー!!」


ガバリとルーの両肩を掴むと、ルーは訳が解らず勢いに押されて怯んだ。


「パパ!パパは賢者ですわね!!賢者は何でも出来ますわよね!」


テーブルを挟んで目の前に座るシリルはキョトンとしながら「さっきディアーナがみせた奇跡以外は」と答える。

ディアーナはテーブルに両手をつくと、


「セウェルス先王陛下にはクルドヴルム元帥閣下に降嫁していただきましょう!!」


ディアーナは鼻息荒く、大きな声で宣言をした。


その声に側に控えたサラは真っ青になって「ディアーナ様!」と嗜めるが、ディアーナは気にせず微笑んだ。


「サラ、おじい様はおばあ様と元帥の仲を望んでいらしたの?」

「…はい。ローラン様を王配に据えようとするくらいには。…そのお気持ちは生涯変わる事はございませんでした」

「長年仕えてきた貴女の言葉を信じますわ。おふたりの幸せと、おじい様の望み。どちらも叶えて差し上げます!」


そのまま立ち上がり腕組みをしながらニッコリ笑う。

反対に、座ったままディアーナを見上げたルーは眉をひそめた。


「僕はディアーナがまた辛い思いをするような気がしてならない。ふたりには幸せになって欲しいけど、ディアーナが傷つくのは嫌だ」

「大丈夫よ!だって…」


ディアーナは腰を曲げてルーを覗き込むように見ると花が咲いたように笑う。

その明るく柔らな笑顔にルーは息を呑んだ。


「わたくしにはルーとパパがいる。ルーはクルドヴルムに戻ってしまうけど、わたくしに辛い事があったら…」

「すぐ戻るよ。ディアーナが元気になるまで、ずっと側に居る」


ルーはディアーナの言葉を遮るようにして腰を浮かせた。

ディアーナはルーの手を取ると自分の頬にもっていき、ルーの体温を感じるように少しだけ目を伏せると、


「ね、だからわたくしは大丈夫。何があっても傷つく事なんてないの」


そしてまた、幸せそうに笑った。






ディアーナはシリルに頼み、王城からの馬車が離宮に到着するまでの時間を稼いでもらう事にした。

悪戯好きのシリルは「楽しそうですね」と爽やかな悪役顔で了承してくれる。やり過ぎはしないか不安になったが「馬車には貴方のご両親が乗っているようですよ」と教えてくれたシリルに「全力でお願いします」と頼んだ。


祖母には無理をさせられないので、寝室から元帥を呼び出し計画を説明する。


「まずはおじい様の書斎で手掛かりを探します。きっとおじい様の事です。こうなった時の事は考えていらっしゃった筈。

その上で国王はわたくしが説得…多少脅しになるかもしれませんが了承させます!」


元帥はディアーナの計画を黙って聞き終えると、静かに尋ねた。


「君は私が嫌では無いのか?」

「??…わたくし、難しい事は考えられません。

大好きなおばあ様に幸せになって欲しい。

その幸せが閣下と共にある事なら一緒になって欲しい。それをおじい様が望んでいたなら尚更。

それだけです」

「反対する者も多いだろう」

「王位を退いたおばあ様のささやかな幸せを責める者がおりましょうか。もしそんな輩が居たら、わたくしがペッチャンコにしてあげます!!」


ガッツポーズを決めたディアーナに、元帥は肩を震わせて笑い、隣に座るルーは困ったように自分の額を押さえた。


「ディアーナ。君の力を貸して欲しい」


笑いを潜め、懇願する元帥の低い声がディアーナの心臓を跳ね上がらせる。


(やばい。カッコ良すぎる…)

「…ディアーナ。いい加減怒るよ」


ルーは両手でディアーナの顔を押さえると、ぐるりと自分の方に向かせる。ルーはニコリと笑っているが、全身から迸るオーラが怖い。


「…ラスボスみたい」

「ディアーナ」


コツンと額を合わせてからルーは低く唸った。

ディアーナを見つめる赤い瞳が熱を持ったように見える。


「ごめんね」

「何が悪いか解ってる?」

「…ラスボスみたいって言った」


「はー」と長い溜息をついたルーは「僕は早く大人になる」と呟くと、諦めたように目を伏せた。


「大叔父上はその災厄をどうにかしないと、上手くいっても捨てられますよ」


ルーは八つ当たり気味に元帥を睨み、元帥は困ったように肩を竦める。


「ルー、()()()()、おじい様の書斎に参りましょう」


“大叔父様”と呼ばれた元帥は僅かに目を見開くと、嬉しそうに目を細めた。

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