35. ルーの独白
ディアーナは魔法を使えるようになった事を報告すると言って里帰りした。
「ルーも一緒に行く?」
答えは分かっているようだったが、いつも一緒に居たから離れるのが寂しかったらしい。
「まだ他の人に見せたくない」と言えば、寂しそうな顔をした後、笑顔を見せると「分かった。お土産沢山買ってくるね」と宣言した。
僕にとってのディアーナは、初めての女友達。
でもそれだけなら、ここまで心を許す事は出来なかったと思う。
ディアーナと他人との決定的な違いは、僕と同じ様に王族でありながら王族には成りきれない事。そして遺す者の気持ちを知っている事。
そしてーーー
純粋に、ただ真っ直ぐに笑いかけてくれる事。
ディアーナが不在にするのは数日だけど、心はポッカリ穴が空いたように寒い。
それだけディアーナに依存していたのかと思うと、その変化が少しだけ怖くもある。
でも相手がディアーナだからこそ、その感情は当然だと思う気持ちが大きい。
そう、ディアーナは男友達ともまた違う、妹のような姉のような、それよりももっと大切な…
ーー言葉に出来ない不思議な気持ち。
「寂しいですか?」
「はい」
質問に対して素直に答えただけなのに、予想外だったのか師匠は驚いた顔をした。
「ふふっ、大分素直になりましたね。良い傾向です。折角ですし、ディアーナが居ない間に成長したルーを見せてあげましょう」
悪巧みを思いついた笑みを浮かべる師匠は怖い。
この邪悪な笑みはディアーナの修行の時にも何度か見せていたが、ディアーナは全く気付いていない。
無詠唱魔法だって、ディアーナだからすぐに発動出来たのだ。
普通あんな抽象的なアドバイスで発動出来る訳が無い。
だけど師匠の行動には必ずなんらかの意味がある。
だからあのアドバイスも分かってやってる訳で…
本当に師匠は性格が歪んでいると思う。
「頑張りましょうね」
師匠は僕の考えに気付いたのか、悪魔の笑みを益々深くした。
思わず舌打ちしそうになって代わりに唾を飲み込む。
ディアーナは易々と魔法を使えるようになったのに、魔力は無いまま、僕は何も変わらない。
「栓はワインのようにポンと抜けるわ!必ず戻るってわたくし確信してるの」と、ディアーナは励ましてくれるが、正直情けない。
僕がディアーナを支えたいのに、サポート役なんて言っても結局支えられているのは僕だ。
でも僕が頑張るって言ったんだ。
ディアーナが死なないように僕が頑張るって…。
僕がディアーナを殺すなんて、世界がひっくり返ってもあり得ないけど、そんな事するくらいなら死んだ方がマシだけど、ディアーナが心から安心出来るように僕は強くなる。
僕を馬鹿にしていた家臣達にも文句を言わせ無いよう、セウェルスとの戦争は起こさないよう、僕は絶対…
「よろしくお願いします。早く魔力を戻して、僕は誰より強くなります!」
僕の意思が伝わったのか、師匠はフワリと慈愛の籠もった微笑みを浮かべた。
ディアーナが居ない間に少しでも成長出来るよう頑張るから。
きっと成長した僕を見て、ディアーナはまた花が咲いたような笑顔を見せてくれるだろう。
そう考えるだけで、僕は無敵になれるような気がした。