34. ディアーナの才能開花
ルーが心を開いてくれてから数日。
ディアーナは魔法を使えるようになる。
「私が一番得意とするのは雷魔法でね。ほら、見ててごらん」
シリルは腕を空へ向けると、離れたところにある岩石に向けて振り下ろす。
シリルの指先から稲妻が放出されるとその衝撃で岩石が弾け飛ぶように崩れた。
シリルの魔法で発生した静電気なのか、ディアーナの手がピリピリと痺れる。
「神鳴と、呼ばれる魔法です。ディアーナにも使える筈ですから、やってみましょう」
「パパ、魔法学では雷魔法を使える人は少ないと習いました。それにどうやって…」
「創造しなさい」
シリルはアドバイスにもならないアドバイスをして、一歩後ろに下がる。
そんないきなり創造しろと言われても、創造なんて…と、ディアーナは頭を悩ませた。
雷、雷…とぶつぶつ呟き、ポンと両手を合わせる。
「雷って言えば…」
ディアーナは目を閉じて思い出す。
瑠衣果が居た日本では季節の変わり目に雷が鳴った。
小さい頃は雷鳴が怖くて、双子の兄と一緒に両親の部屋に駆け込んだものだ。
安心出来る両親の元で、あの時、布団の隙間から見えた稲妻。
ディアーナ達の立つ晴れた空に鈍色の雲が覆い始める。雲は厚くゴロゴロと音を鳴らし始めた。
あの稲妻は空から地上に落ちる光。
何本も何本も、眩い光が幼い瑠衣果の心に刻まれている。
(雷って、神鳴とも言うんだったっけ…)
懐かしい家族を想い出しながら、シリルと同じように腕を高くあげ、人差し指で空を示す。
(あの時見た雷は、本当に…)
美しかった!!と、ディアーナは目を開けると、谷の岩肌に向けて腕を振り下ろした。
爆音が響いたかと思うと、次の瞬間地面が大きく揺れて、ディアーナは思わず後ろに仰反る。
咄嗟に支えてくれたのは側に居たルーだ。
「…すごい…」
ディアーナを支えながら、ルーは呆気に取られた声で呟く。
「え?」と、ルーの視線を追うと、先程ディアーナが示した岩肌にまるでクレーターのような大きな穴が空いていた。
「何これ?」
「ディアーナの魔法でしょ」
ディアーナの質問に、ルーは呆れた声で答える。
シリルの威力はもっと弱かったので、ルーに言われてもディアーナには自分がやった事なのか理解出来ない。
ははっ…と、シリルの小さく笑う声が聞こえた。
「あははっ!!すごいじゃないですかディアーナ!!!私の想像以上です!流石はっ…」
そこで言葉を切ったシリルはまた大きな声で笑い出す。
こんなシリルは初めてだと、ディアーナとルーは顔を見合わせた。
「師匠、あんな風に笑えるんだね」
「わたくし初めて見ました」
「いや、僕もだよ」
「…わたくし、魔法使えた?」
「師匠の想像以上に上手くいったんじゃない?雷、すごく、すごく綺麗だったよ」
ディアーナはルーの笑顔を見て、ようやく自分が魔法を使えた事を実感した。
「はぁ…。ごめんねディアーナ。あまりの凄さに嬉しくて笑いが止まらなかったよ」
シリルは笑い過ぎて涙まで出たらしい。
指で涙を拭いながら、ディアーナに笑いかけた。
それからディアーナは炎、土、風、水と、殆どの属性魔法を難なく使えるようになる。
創造とシリルは言ったが、ディアーナの創造は「思い出」だ。
炎は遊園地のアトラクションで観た炎のステージ、土は工事現場など、日本でよく見た光景を思い出しながら力加減を注意するだけで放つ事が出来た。
(これってチートってやつ?)
こんなに難なく魔法を使えるようになるとは思わなかった。
そしてふと、ゲームのディアーナも同じように力が使えたのか疑問に思う。
多分才能自体はあったのだと思うけど、あの城であのまま育っていた筈のディアーナには難しいかもしれない。
(ーーと、言う事は…)
死亡確率が少しだけ減ったのでは?とディアーナは小さく喜んだ。