33. ディアーナの希望
「ディアーナ、ありがとう!」
朝、食堂に現れたディアーナに対しシリルは嬉々として喜ぶと、そのテンションのままディアーナを抱き上げると優しく抱きしめた。
数ヶ月一緒に過ごして超絶美形の免疫はついた筈だが、こんな風に抱きしめられると心臓に悪い。
「なんですの⁈わたくし何もしてませんわ」
頬がくっついているので、両手を使って無理矢理顔を引き剥がすと、シリルを睨む。
「ルーの心が開かれた」
「え?」
あの後、ディアーナとルーは手を繋いで一緒のベッドで眠りについた。
淑女としてあの行動は問題だとは思ったが、そんな事よりもルーをひとりにしたくなかった。
ルーはずっと泣いていたので、ずっと頭をあやすように撫でながら、瑠衣果の母親が歌ってくれた子守唄を歌い、気付けば眠っていたのだ。
朝起きるとルーの前髪はまた元通りになっていたので「隠す必要あります?」と聞くと、真っ赤な顔で何かをゴニョゴニョ言って自分の部屋に戻ってしまった。
「わたくし、ルーと一緒に居たくらいですわ」
「それで良かったのです。これでルーは元通りになるかもしれません」
「元通り…。ルーの魔力は戻るのですか?」
シリルは笑顔で肯く。そしてまたディアーナにペタリと頬を合わせると、小動物にするようにスリスリと摺り合わせる。
「私は言ったでしょう。この大地に産まれた者は大なり小なり魔力があると。ルーは魔力暴走のショックで魔力の栓に蓋がされているような状態です。魔力を失った訳じゃ無いのでキッカケさえあれば元に戻ります」
「本当ですか⁈」
ディアーナはシリルを再度引き剥がしながら、それでも可能性が見えた事に笑顔を見せた。
「はい。また暴走しないように魔力をコントロールする力が必要ではありますけどね」
「ではわたくしの修行をサポートするよりも、コントロールの修行を優先しなくてはなりませんね」
少し寂しいが、それで魔力がコントロール出来るようになるなら、こんなに嬉しい事は無い。
可能性が見えたなら、そちらを優先すべきだ。
ディアーナはうんうんと、自分を納得させるように何度も頷く。
「大丈夫ですよ。ディアーナのサポートをする事は魔力コントロールの修行でもありましたから」
ディアーナの考えを察したシリルはサラリと言う。
シリルの行動に意味が無い事なんてあるのか。
本当に全部シリルの手の上で転がされているような気がすると、ディアーナはひくつく口元を押さえた。
「おはようございます」
ルーの声にシリルとディアーナは振り向く。
「おはよう。大分明るくなったね」
「ルー!とっても素敵よ!!」
ルーは少しだけ顔を赤らめながら立っていた。
前髪は眉下くらいまで短くなり、瞳もよく見える。
また昨日まで長いローブ姿だった装いも、今は身体の線がよく見えるシャツとパンツ姿だ。
「ありがとう」
ルーは恥ずかしそうに笑うと、違和感があるのか前髪を触った。