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31. ディアーナに伝わる

ディアーナの宣言から更に半月。

サクルフの森一周から戻った二人にシリルが声を掛けた。


「二人共とても優秀なので次の段階に移りましょうか」


シリルはまずルーの頭を撫でると、次いでディアーナの頭も撫でて、柔和に微笑む。


その言葉にディアーナは顔を輝かせるが、ルーは嫌な予感がするのか口元が引き攣った。

喜んでいるディアーナは気付いていないが、シリルの目は笑っていない。確実に追い込まれるとルーは確信する。

シリルは笑顔のままチラリとルーを見ると、自らの口元に人差し指を添えて”黙ってなさい”と暗に告げた。


「ディアーナ、明日から魔法の訓練です」

「詠唱を教えて頂けるのですね!」


ディアーナは目をキラキラさせるが、


「いいえ。私の魔法を見て覚えなさい」


シリルの言葉にディアーナは笑顔のまま固まった。

そらみろ、とルーは溜息を吐きながら顔を手で覆う。


「見て覚えるとは?」

「言葉の通りですよ」

「わたくし、魔法をどうやって発動すれば良いのか分かりません」


シリルは唖然としているディアーナと目線を合わせてから、言う。


「ディアーナ、魔法は詠唱で発動するのではありません。創造するものです。

貴女のおばあ様が詠唱法を大きく簡略化しましたが、本来魔法や召喚に詠唱は必要ありません。

幸いにもディアーナは詠唱法を知らない」

「ーー良かったのですか?」


両親の悪意で子供の頃に学ぶはずの詠唱法を習う事が出来なかったディアーナにとって、知らない事が良かったようには思えない。


ディアーナの考えに気付いたシリルの両腕がディアーナの体を軽々と抱き上げた。

縦抱きにされたディアーナの目線がシリルと合う。


「私にとって、貴女は天が下された光り輝く宝石の原石です。詠唱法を知らない事は、今の貴女にとって大きな武器になります」


穏やかだが確信を持って言われた事で、ディアーナはふと、祖母の事を思い出す。

あの時、祖母はディアーナが詠唱法を知らない事を知って、教師ではなくまずシリルを提案した。祖母がディアーナを手放したく無いと言ったのは本心だろうし、それなら始めから詠唱法の教師へ依頼すればいい。


(おばあ様がシリルの弟子入りを勧めてくれたのは、この可能性を考えたから?)

「ティアは詠唱法を学んでいましたから、無詠唱魔法を発動するのに大分苦労していました。それでも目的の技は短期間で会得したのですが、ルーの大叔父のサポートが無ければ難しかったでしょう」


ディアーナの思考を読んだようにシリルが答えた。

ティア…祖母は無詠唱魔法を使えたのか。自身の経験でシリルまで導いてくれたのか。


(ありがとう。おばあ様)


弟子入りしてから遊びに行けていないので、今度会った時にはお礼を言わなくてはと、思う。

そしてシリルの台詞にルーの大叔父は…多分クルドヴルム軍のトップである元帥オルサーク公爵の事だと思うが、あの頃はまだお互い戦争中だった。何故祖母を助けてくれたのだろう。


「僕の祖母ローゼリアは戦争を止めたいと思っていたから、弟である大叔父上がセウェルス先王陛下の手助けをして恩を売った?」


ルーは考えるように拳を口元に当てると、可能性を示す。

シリルはルーとディアーナをそれぞれ見てから否定するように首を振った。


「ローゼ…、クルドヴルム国王が戦争を止めたいと思っていたのは間違いありません。ティアも同じです。

…ティアとローラン…ルーの大叔父は、今の貴方達と同じ兄妹弟子でした。そしてお互い想い合っていた。

ーーローランは恩を売るのではなく、ただ愛する人の目的が果たせるように、兄弟子として最後までティアを導いてくれました」


ディアーナとルーは驚いて顔を見合せる。


「じゃあ大叔父上が独り身なのは…」

「でもおばあ様にはおじい様が…」


ルーは王弟でもあり高位貴族が何故伴侶を迎えず独り身なのかという疑問が解消されたようだが、ディアーナは違い混乱した。

祖母には宰相だった祖父がいる。祖父との結婚は即位後直ぐだった。祖父はルーの大叔父の存在を知っていたのだろうか。


シリルはディアーナの頭を撫でる。


「細かい事は私にも分かりませんが、貴女のおじい様は親友だと、ローランは言っていましたよ」

「ではおじい様は二人の関係を知っていた?」

「そうでしょうね。ローランをセウェルスの王配に迎えようとした位に、二人の関係を望んでいたようですから」


ディアーナは驚きのあまり大きな目を見開き固まった。

祖母の譲位から少し後に祖父は亡くなったので、優しかった記憶以外残っていない。でも仲睦まじい夫婦だと周りが言っていたのを知っている。


「どうして…王族同士だから身分差は無い筈」

「環境が許さなかったのです。その時のセウェルスは、国を立て直す必要がありました。和平を締結しても、敵国の人間がセウェルス王族に名を連ねるには時が早かったのです」


シリルはそこまで言ってから、もう一度ディアーナとルー双方の顔を見ると、


「貴方達がまた二人の縁を繋ぐ架け橋になってくれる事を願います。……私の勝手な願いです」


囁くように言ってから目を伏せた。



ディアーナの祖母と、ルーの大叔父はスピンオフ作品の主人公とヒロインです。

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