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29. ディアーナとお友達

ディアーナの修行が始まった。

修行と言っても基礎体力が無いディアーナは専ら走り込みや筋トレの日々。

毎日同じ事を繰り返し、毎日体力の限界まで自分を追い込む。


エルガバル英雄伝説はよくある魔物を倒せばレベルが上がるというゲームでは無い。そもそもこのゲームに魔物は居ない。あくまで人と人との戦争だ。

その為、ゲーム冒頭では騎士団の見習いや、修行イベントでレベルを上げる。

途中クルドヴルムに入国出来るようになってから、ようやく敵であるクルドヴルムの兵や幻獣や精霊を倒す事でレベル上げが出来るようになる。


そう考えると、基礎体力を向上させるこの修行は理にかなっている。

初めはまだ10歳の少女に対してやり過ぎなのでは?こんなに筋トレしてたら諸々の成長に影響するのでは?と本気で悩んだが、ゲームの世界だからか、ディアーナの体質なのか、いつまで経っても身体はふわふわ柔らかく、肌も透き通るように白いまま。

でも確実に体力は向上しており、2ヶ月経った今では東京タワー程度の高さがある巨大樹(シリルのいえ)のリビングから自分の部屋まで階段で移動しても全く苦じゃなくなった。

2ヶ月でここまで変化を感じられるのは、ディアーナ自身の努力もあるが、脇役王女でもヒロイン(アナスタシア)の姉だからーー潜在的な能力も大きいと思う。


サポートをしてくれているルーは最初から息ひとつ乱さない。修行を休んでいた筈なのにそれを感じさせないところを見ると、ラスボスチートだと妙に納得してしまうディアーナがいた。


そして今日も絶賛森を半周命令を出されたディアーナは、付き添いのルーと一緒に足元の悪い道をただ、走る。

ルーはディアーナの少し前を走りながら、手に持っている剣で障害物になりそうな草や木の枝を予め切ってくれていた。


「今日はお昼迄に終わるといいね」


前を向いているが、飽き飽きとした様子がルーの声から伝わる。

ディアーナから見れば何度走っても幻想的な森の景色は飽きないし、本当なら立ち止まって何時間でも過ごしていたいと思える場所だが、ルーには違うらしい。


その様子を見て申し訳なく思ったので、一度付き添いを断った事があるが、断固反対された。森には興味ないがディアーナのサポートは絶対に辞めない、と言われた時は嬉しくて泣けた。


2ヶ月一緒に生活して、ルーとディアーナは大分仲良くなれたと思うし、またルーが少しずつ明るくなる様子を実感出来る。

だが前髪は相変わらず長く、顔半分を隠しているところを見ると、きっとまだルーの中で整理出来ない事があるのだろう。


(いつか、ルーの瞳が見られたらいいな)


急ぐ必要は無いが、いつか見せてくれると嬉しい、そうディアーナは願う。


そうしてディアーナの願いに気付く様子もないルーにむけて


「お昼迄に戻らないとルーが萎んじゃうから頑張るわね!」


と答えると、ルーはチラリと振り返り不満気に口を尖らせた。


「僕は食べる事だけが好きな訳じゃないからね」

「ふふっ、ただお腹が空いてヘロヘロになってしまうだけよね」


ディアーナは面白がると、ルーはプイと前に向き直る。


「ディアーナはたまに姉のような口調になるよね。()()()にとっては僕は弟みたいなんだろうけどさ…」


ボヤくルーに苦笑しながら、ディアーナは少し速度を上げるとルーと並走する。

意外に早く並走出来たところをみると、恐らくルーは少しだけスピードを緩めてくれたのだろう。

真っ直ぐ前を向くルーに、見ていないと思うが笑い掛けた。

見えてない筈なのにルーの頬が淡く染まる。


「ごめんねルー。沢山食べるルーを見てるとこっちまで幸せになれるよ」

「ーーーっだから、それが姉みたいなのっ」


ゴニョゴニョと不満を言うルーを見ていると自然に笑顔になってしまう。

ディアーナの目の前に現れた大きな木の根を軽々と飛び超えてからルーに叫んだ。


「わたくしはわたくしよ、()()()


“お兄様”の響きにルーは珍しく足をもつれさせ転びかける。

その弾みで大きく揺れた黒髪の間から真っ赤な耳がのぞいた。


「ーー僕は兄でもない」

「兄弟子でしょう。お兄様みたいなものじゃない?」

「それはそうだけど、そうじゃなくて…」


言葉を詰まらせたルーの望む答えが何となく分かり、ディアーナは目を見開いた。

そしてその目を嬉しそうに細め、叫んだ。


「わたくし、()()()が出来るのが初めてだから嬉しいわ!」


ルーの口元が柔らかく弧を描く。


「僕も嬉しいよ。女の子の友達が出来るのは初めてなんだ」




ディアーナとルーは顔を見合わせると、ふたりで声をあげて笑った。

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