24.ディアーナとティータイム
ディアーナはルーに瑠衣果の事を全て話した。
ここでは秘密にする意味を感じないし、大切な人を遺す側の辛さをルーには知っていて欲しかったから。
話の中にはクルドヴルムとの戦争も含まれており、ディアーナがその中で命を落とす事も正直に伝えた。
「荒唐無稽な話でしょう。だから…信じて頂かなくても構いません」
既に冷めきった紅茶が淹れてあるティーカップを両手で包み込むようにして持ったまま、ディアーナは最後にそう締め括った。
ルーの口はきつく結ばれたまま動かず、ただディアーナに向けた視線だけは感じる。
まあ普通そうなるよね。シリルがちょっと変わり者だっただけで、何も言えなくなるーーと言うか、普通はドン引くわ。
反応を見せないルーをみて、ディアーナはひとり納得する。
本当は信じてくれるかも、なんて淡い期待をしていたのかもしれない。そう思い、ディアーナは僅かに胸が痛むのを感じた。
「…僕だ」
所在無さ気にティーカップを見つめていたディアーナはルーの言葉に顔をあげる。
「君の言うゲームの”ラスボス”とやらは多分僕だ」
「へ?」
深刻そうに語るルーにディアーナは絶句した。
まだ小学校高学年。せいぜい中一くらいにしか見えない、ハッキリ言って弱そうなルーがラスボスだとは想像出来ない。
えーと、ラスボスの名前何だっけ?
「ルーファス」
そうそうルーファス。
「ーーって、えぇっ⁈」
思わずディアーナは身を乗り出した。
ディアーナが持つティーカップから紅茶が零れるのも気にならない程に驚く。
エルガバル英雄伝説のラスボスは、クルドヴルム国王、竜王ルーファス・ロイ・クルドヴルム。
ディアーナが死ぬのはクルドヴルム城にある王の間。
つまりディアーナに刃を向けたのは、
「ルーファス、なの?」
ディアーナは恐る恐る尋ねた。
ルーは長い前髪を揺らしながら肯く。
どうしよう。ラスボスが目の前に居るって…。
ラスボスだけあってメチャメチャ強かった。最後ドラゴンに変化したし…ん?ドラゴン??
「ルー様。ドラゴンに変身出来るのですか?」
「…君は僕が人間以外に見えるの?」
「セウェルスに恨みは?」
「ないよ」
即答されて、ディアーナは混乱する。
ラスボスはドラゴンに変化し、そしてクルドヴルムから戦争を仕掛けてきた。それは間違いない。
だが目の前に座るラスボスである筈の少年はどちらも否定した。
つまり今のルーにはセウェルスに戦争を仕掛ける理由が無い。
つまりこのままルーがセウェルスに恨みを持たなければ戦争は起きない?
そしたら私、生き残り確定じゃない!!
あっさりハッピーエンドに突き進めそうな希望が見えてディアーナは晴れ晴れと
「ルー様!わたくし死にたくありません。長生きが目標ですの!」
ルーに向かって明るく宣言した。
ルーは黙ったまま、まるで呆れたように息を吐いた。
テーブルの上に置いた両手を固く握ると、溜息をつくように言葉を紡ぐ。
「今の僕はセウェルスに恨みはないし、君を殺す必要はないよ。でも戦争が、必ずしも僕の意思かは分からないでしょ」
ルーの諭すような声にディアーナは固まった。