22. ディアーナとルー
ビシッと音を立てたように固まるルーと、ニコニコ笑って対峙するディアーナ。
ディアーナはルーの行く手を塞ぐ様にして立っているが、前回のように近付かずに一定の距離を保っている。
ルーは口元を震わせながら何かを呟くと、体を翻して階段を駆け上がろうとするが
「わたくしはルー様に失礼をしたのでしょうか⁈」
ディアーナの叫びにルーの足が止まった。
半身だけ振り返ると焦ったように首を振る。
「では何でしょう。何かルー様を不快に…」
ディアーナは一歩も動いていないが、気持ちが昂っているのか前のめりだ。
ルーを見つめる瞳は真剣そのものだが不安気に揺れている。
「…不快にさせたのは僕だ」
その声はかすれていた。
「あの時は感謝こそすれ不快に思うなど…」
「…髪を」
「髪、ですか?」
「僕は…驚いたんだ…王色を持たない王族を見るのが初めてだったから」
てっきりディアーナが距離感を掴めなかったせいだと思ったが違ったらしい。
王族なのに髪色が違う事を暗に伝えた事でディアーナが傷付いたと思い込んだようだ。
正直、もうディアーナにとって王色はどうでも良い事だったため、ルーの言葉が理解出来ずに困惑した。
「それが何故避ける事に繋がるのでしょう」
「だってそんなの…」
ルーは言葉を切ると
「…僕は…無意識に人を傷付けるから…」
ディアーナから視線を逸らすように俯くと、今にも消え入りそうな声で言い、腕が僅かに震えているのをもう片方の手で押さえつけるようにしている。
それを見てディアーナは瞠目した。
ルーの瞳は相変わらず長い前髪に覆われており表情は読めないが、その声は思い詰めたように重い。
ディアーナより年上だろうが、まだ少年。
王色を持たない姫に王族か聞いた事で私が傷付いたと思ったの⁈
私が髪色を見せた事が、裏返しの行動だと考えたの?
自らの存在を否定するような台詞にディアーナは胸が痛くなり、同時に頭の中が焦げ付くように熱い。
「避けられたほうが傷付きます!」
真っ直ぐルーを見つめながら、凛とした声で叫んだ。
その声にルーは怯むように肩を震わせるが、ディアーナは気にしない。
「無意識に人を傷付けるなんて…」
そして視線はそのまま、ゆっくりと階段を昇り
そっとルーの手をとった。
握り締められたルーの手は緊張のせいか冷たく、固まったように動かない。
ディアーナは動かないルーの指を一本一本ほぐす様に開くと、今度は温めるように両手で包みこんだ。
「傷付いているのはルー様のほうです」
ディアーナを見下ろしているルーの喉が震えたのを感じる。「僕は…」と、否定するように口を動かすが、声は益々かすれて音にならない。
「ルー様は王色を持たない王族の境遇を…わたくしの気持ちを考えて下さった。…まだ出会って僅かですが、これだけは言い切れます」
包みこんだ手に少しだけ力を込めると、ルーは戸惑うような仕草を見せる。
「ルー様は優しい人です」
そう、ディアーナは泣きそうな顔で笑った。