21. ディアーナと観察日記
その日からディアーナはルーを観察した。
先ずはルーの行動範囲や時間を把握する為、ディアーナは観察日記をつけた。
日記をつけながら、日本だったら確実にストーカーだと自分の行動にゾッとする。
これは課題。課題で必要だからルーの行動を見てるだけ。
ディアーナは自分を正当化する為に何度も言い聞かせながら日記に筆を走らせる。
「ここに来て一週間。あのあと一言も話せて無いって」
行き場の無い焦りのせいか、筆を走らせている紙が筆圧で歪んだ。
そう。もう一週間経っている。
シリルから課題を出された後に、執事精霊であるノアを紹介された。精霊は美形なのか、ノアはシリルほどでは無いにせよ、深緑の長い髪に瞳が印象的な美女だった。燕尾服姿のノアは一見男性の様にも見える。
ノアにルーの生活リズムを聞いたが、普段から自室に籠りきりで、食事にも姿を見せないのでよく分からないとの事だった。
修行の時間であればルーの姿を見られるのではないかと考えたが、不思議な事に修行している様子がない。
なのでディアーナに出来るのは、自室の扉に耳をつけて階下の様子を窺う事だけだった。
地味にストレス。
いっそ突撃して力技で理由を聞きたい。
筆を置くとそのまま頬杖をつきながら眉を顰めたディアーナは、机から見える窓の外を眺めた。
空は今日も青く広がり気持ち良さそうだ。
気分転換に散歩でもしようと、椅子から立ち上がり部屋を出た。
その時僅かだが扉の開く音が聞こえ、ディアーナはハッとする。
ルーが部屋から出た!!
足音は子供のように軽く、今は階段を降りる音が聞こえる。ディアーナは気付かれないように階段とは逆の方向に移動すると、足下にある魔法陣の上に立つ。
「リビングへ」
ディアーナの声に呼応するように魔法陣が光り、
「やっぱりゲームの世界って便利」
ディアーナがしみじみ言いながら目を開けると、リビングの高い天井が見えた。
“移動魔法陣”
シリルの家は巨大樹の中に作られただけあって部屋数も多いし、何より上に高い。エレベーター代わりでもある移動魔法陣はこの家で生活するのに必要なものだ。
ディアーナは急いでキッチンへ行くと、ティーセットを用意してワゴンに載せる。そのままカラカラとワゴンを階段付近まで移動させ、自身は階段の陰にこっそりと隠れた。
この一週間の様子を観察していると、不思議な事にルーは移動魔法陣を使用せず、階段を利用しているようだった。
ディアーナの部屋もそうだが、ルーの部屋も比較的高い場所にあるので移動魔法陣を使わないと階段の昇り降りだけで時間がかかってしまう。
今もディアーナがティーセットを用意出来る時間があったのは、ルーが階段を使っているからこそだ。
ディアーナの耳にトントンと一定のリズムで階段を降りる音が聞こえる。
普段ならこのまま様子をみようと隠れていたが、今日は違う。
今日こそルーへ声をかける!!
ディアーナは小さくガッツポーズすると、ちょうど階段を降り終えたルーの前に躍り出た。
「ルー様!お待ちしておりました」