20. ディアーナと課題
「ほら、変化の魔法は使っていません」
ディアーナとルーは丁度あと一歩の距離で向かい合っている。
後で手を組んだディアーナはそのまま少し上半身を横に倒すと、白銀色の髪がさらりと流れた。
触ってみますか?なんて言ったらセクハラかな?
子供同士だから大丈夫かな?
なんて、ディアーナは笑顔を見せながらどうでも良い事を考える。
ポカンとあいていたルーの口が形を変えて、への字になったかと思うと
「…ごめん」
そう言って、バタンと扉を閉めてしまった。
今度はディアーナがポカンと口をあける。
何かまずい事をしたのだろうか。
人見知りっぽい感じがしたのに距離を物理的に縮めたせいか。それともその両方か。
「何で閉めちゃったんだろ」
理由が解らずディアーナは首を傾げた。
ルーへ感謝は伝えられたが、自分から王族か聞いておいて素直に答えたら謝罪付きの拒絶。
セウェルス国王のように王色を持たない姫を出来損ないとでも思ったなら理解できるが、そんな感じもしない。
ディアーナは扉の前で考え込み、しばらくして「そうだ!」と呟き顔を上げると、部屋に戻る為に階段を駆け上がった。
「パパ!」
部屋に戻ると、1人掛けのソファーに座り窓の外を眺めていたシリルに声を掛けた。
ルーの部屋からディアーナの部屋に戻るのに階段を駆け上がったせいで、またゼイゼイと肩を上下している。
「おかえり。ありがとうは言えましたか?」
「はい、それは言えました。ですが…」
ですが?と、シリルは小さく首を傾げた。
「何故、ルー様はわたくしを避けるのでしょうか」
解らなければ聞く。それから考えようと疑問を口に出す。
ディアーナを見つめたシリルの瞳は太陽の光で今は青く光っている。
ゆっくりと肘掛けに腕を置き、長い指でその肘掛けをなぞるようにしたシリルは、口元だけ薄く笑う。
「何故知りたいのですか?」
「そうしないと改善出来ないからです。気分を害してしまったなら謝らないといけませんから」
「ディアーナは何か悪いことを?」
「それが分からなっっ、きゃっ!!」
話し終わる前に身体が浮いて、またディアーナはシリルの腕の中にいた。
事前に許可を取らないのか。超絶美形は何をしても許されるのだろうかと、ディアーナは口を尖らせたところでシリルの膝の上に降ろされた。
シリルは覗き込むようにしてディアーナを見る。
「それを見つけるのを最初の課題としましょうか」
「課題ですか?」
「ルーとまともな会話を交わせるようになる事。それが弟子入り初めての課題です」
ハードル高っ!!しかも強さ関係ない!!!と、ディアーナは心の中で反発するが、シリルに気づかれたらしい。
「諦めますか?」
カッと目を見開いたディアーナはブンブン首を振ると否定する。
ディアーナの想像していた課題では無いが、諦めるかと言われて諦める訳がない。
ルーが拒絶する理由も気になる。
「がんばります!」
ディアーナはシリルの膝の上で鼻息荒く拳を作って盛大に頷いた。