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【番外編】雪遊び

目を覚ますと静寂がディアーナを包む。

空気は澄み、まるで清浄な空間に居る様な感覚。


(雪が積もっているんだわ)


幼い頃から毎年見てきたセウェルスの冬。

雪が積もる時は独特の気配がして何故だか無性に胸が締め付けられる。


窓の外を見ようと起きあがろうとして、ディアーナの身体が毛布だけでなくルーファスの腕に包まれている事を思い出した。

昨夜はルーファスが遅かったので先に眠っていたのに、いつの間にかルーファスに包まれていたらしい。

背中にルーファスの穏やかな寝息と温もりを感じ、しばらく動けないと苦笑する。


仕方なくカーテンが閉められた窓を見つめていると、カーテンに手が伸びて一部が持ち上げられた。

窓の外に見える景色はディアーナの想像通り銀世界。

ディアーナは眠りを妨げない程度にカーテンを開けてくれたサミュエルに口だけ動かし礼を言う。


ぼんやり外を見つめていると、ひとりぼっちだった頃を思い出す。

窓から見えるのは新雪の上を駆けるアナスタシアと、それを見守る国王夫妻。ディアーナは外に出る事も叶わず、勉学に明け暮れる日々。心が寒くて、冷たくて、悲しかった。


ふとディアーナの首元にルーファスの顔が寄せられた。夢現なのか擦り寄るように頭を振るわせ、緩く回されていた腕はディアーナを離さないとばかりに強く抱きしめられる。

まるで重く沈んだ気分を慰めてくれるみたいだ。

感謝を込めて黒髪を撫でてやると、薄らと目をあけたルーファスは、ぼんやりと窓の外に広がる白を見て、パチパチと瞬く。


「ん…おはようディアーナ。…一晩で積もったな…。寝る前に雪が降っていたのは知っていたが、こんなに積もるなんて想像していなかった」


「おはよう。クルドヴルムは温暖だから。セウェルスの冬は毎年こんな感じよ」


サミュエルがカーテンを全開にすると、光り輝く外界が視界に飛び込んできた。

雪が止んだ空は青く、雪が太陽に反射してキラキラと輝いている。

「…綺麗だ」と、呟いたルーファスはディアーナの髪を一房すくって手の中で感触を確かめた。


「今日の雪はディアーナの髪色に似てる」


ディアーナの髪色に似ているから綺麗なのだと、ルーファスの何気ない一言に、恥ずかしくなったディアーナは枕代わりの腕に顔を埋めた。

耳まで赤く染まる姿を眺めつつ、ルーファスが尋ねた。


「今日は一日空いている。クロエ達は城下におりると聞いたが、ディアーナはどうする?」


ディアーナは身体を反転させてルーファスに向き直り、雪遊びがしたいと提案すると、ルーファスは微笑んで同意してくれた。








◇◆◇◆


リアムと共に王城の廊下を歩いているハリソンがピタリと足を止めた。


「ディアーナにルーファス陛下…と、あれは?」


窓際に寄ったハリソン達から見えるのは、ディアーナとルーファスで雪を丸めている様子と、周りにいくつか置かれた大きな丸い雪玉。

ディアーナが頬を赤く染めて楽しそうに笑っている。それを向けられているルーファスも笑顔だ。


「昔みたいだ」


ハリソンの隣に立っているリアムがポツリと呟いた。

「昔ですか?」とハリソンが問えば、しまったと口元を押さえて苦笑する。


「…ルーファス…陛下は両親を失うまでは、いつもあのように笑っていました。あの時から笑顔を見せる事はあっても、子どものような…あんな無邪気な顔で笑う事は無くなってしまった。…あの笑顔がまた見れたのでつい…」


ルーファスを見つめるリアムは優しい顔をしている。

ハリソンは微笑んでから、雪玉をルーファスの顔にぶつけて大きく口を開けて笑うディアーナに肩を落とす。


「王城では彼女は完璧な淑女を演じていたので決してあんな風に笑いません。ここであの顔をするのは余程楽しいのでしょう」


淑女失格ですけど、と呆れ顔のハリソンを見てリアムは笑った。

観察を続けていると黄金色の髪と、それを追う青色の髪が2人に近付いていく。


「セウェルスの女王陛下も参加されるようですね」








「お姉様!これは何ですの?」


大きな丸い雪玉がふたつ。下の玉には木の枝が、上の玉には花が添えられている。

そして辺りには掌サイズの雪玉が沢山積まれていた。


「これは雪だるま。あと小さいのは雪合戦用なの」


アナスタシアが不思議そうに雪だるまを見つめ「お姉様が作ったものは芸術的ね!」と褒めた。

ルーファスは俺との合作だと訂正するが、アナスタシアは聞くつもりが無いらしく雪だるまを撫でている。


「アナスタシア!これからルーと雪合戦をしようと思うの。アナスタシア達も一緒にやる?」


「ディアーナ!俺はディアーナに雪玉を投げれないからな!!」


ルーファスの顔は雪で濡れているが、ディアーナは綺麗なまま。それを見たクリストファーは、余りにも不利だと溜息をついた。


「お姉様!ルーファス様に雪玉をぶつけて良いのね!!喜んで参加します!」


「では男性チームと女性チームに分かれ…」

「駄目だ!アナスタシア嬢にも投げるのは無理だ!!ネヴァン卿も同じだろう」


えー、とディアーナにアナスタシアはプクリと頬を膨らませる。そうしているとふたりは姉妹だと感じずにはいられない程よく似ている。


「仕方ないわ。ルーとアナスタシア。クリストファーとわたくしのチームにしましょう」


「ええっ!ルーファス様と一緒なの?!」

「アナに雪玉を投げられる訳無いだろ!」

「だからよ。わたくしとアナスタシアは楽しく投げ合うから、ルーとクリストファーは本気でやり合えば良いわ。ルーが勝ったらわたくしがルーとアナスタシアの希望を叶える。逆にクリストファーが勝ったらアナスタシアがわたくし達の希望を叶える。これなら良いでしょう?」


ディアーナの提案で男達の目が変わった。そしてアナスタシアも。


「お姉様。私達が勝ったらお姉様が願いを叶えてくれるのね」


ええそうね、とディアーナは微笑んだ。








「なーにやってるんでしょうか」


ハリソンとリアムは呆れ顔で雪合戦の様子を眺めていた。

豪速球で投げ合うクリストファーとルーファス。

ひょろひょろとディアーナに雪玉を投げるアナスタシアと、痛くないようなスピードで投げ返すディアーナ。


「陛下とネヴァン殿の雪玉は避けれる自信が無いなぁ」


「俺もです。殆ど目で追えない…。あれを避けあってるふたりが異常だ」


だけど、と二人は声を揃えた。


「「皆、本当に楽しそうだ」」


夕焼けに照らされた雪の中、男達は目的を忘れて雪玉を投げ合っている。


リアム「まだ続いてたの?馬鹿なの?」


ハリソン「…(呆れて言葉にならない)」


ディアーナ「互角に闘える相手で嬉しいのよ」


アナスタシア「ふたりとも目的を完全に忘れてるわ。もう意地の張り合いじゃない」


結局ディアーナ達が止めるまで、ふたりは雪合戦を続けたそうな。

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