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【番外編】国王夫妻の新婚旅行

本編直後の話です。

 クルドヴルム国王の執務室。

 リアム・レスホールは数日間放置され書類が溜まるだけの机に目をやると大きな溜息をついた。


「今日で5日目。あと5日頑張らないといけないの?」


 主君が居ない部屋でも姿勢を正したままクラース・シェルマンは言う。


「宰相閣下が10日と約束してしまったから仕方ないだろう。…俺だって誰一人連れずに"シンコンリョコウ"に行くなんて不安だよ」


 クラースの表情が不安気に曇るのを見て、リアムはもう一度溜息をついた。


「だよね。いくら強くても二人きりは心配だよ」


 ルーファスとディアーナが新婚旅行という理由で結婚式翌日から王族の避暑地へ発って早5日。

 予め調整済みなので基本的な政務が滞る事は無いが、護衛を一人も連れずに出発した事は不安要素でしかない。


(二人共もう少し自分達の価値を認識してもらわないと…)


 万が一という事態も有り得る。リアムとクラースはこっそり使役精霊を2人に張り付かせているが、それでも不安は拭えなかった。









 窓の外から差し込む暖かな陽光でルーファスは目を覚ました。

 気怠そうに瞬きを繰り返してから、腕の中で眠るディアーナの温もりに口元が綻ぶ。


 窓際には執事精霊サミュエルが控えており、先程の陽光はサミュエルがカーテンを開いた為だと理解した。

 視線に気付いたサミュエルは微笑み、隙のない動作で窓を開け放つ。

 途端、ルーファスの耳に潮騒が聞こえた。


『おはようございます我が君。もう昼過ぎでごさいますが朝食はいかがいたしましょう』


 昼過ぎまで寝ていた事をさり気なく指摘されたルーファスはムッと眉を顰めた。


 ディアーナと夫婦となって数日。

 長年抑圧してきた、最近では自分との闘いにもなっていたそれを漸く解放出来たのだ。いくら触れ合っても足りない。


『我が君。離宮は寝室だけではございませんよ。姫様に海を見せて差し上げるのでは無かったのですか?』


 グッと唸ったルーファスは腕の中でスヤスヤ寝息をたてているディアーナを見つめた。


 レスホール宰相に許されたのは10日。

 その半分をこの場所で過ごしたが、まだ足りないという正直な気持ちと、ディアーナに海や街を見せてあげたいという気持ちが拮抗する。


『…我が君。あくまで耳にした情報でございますが…』


「何だ?」


 言い淀むサミュエルを促すと、大仰な溜息をついてその先を続けた。


『"しつこい男は嫌われる"だそうでございます。お気持ちは理解致しますが、昼夜問わず姫様を求めるのは些か度が過ぎるかと』


 ピクリと眉が動き渋面になったルーファスはディアーナを起こさないよう細心の注意を払いながら肩を落とす。

 言外に"盛りのついた猿"と言われ、ルーファスは否定したくても正論過ぎて納得せざるを得ない。


 ディアーナと触れ合う時間は夢のようで、寝台に舞う白銀色、熱を帯びた肌、潤んだ瞳、艶のある唇から漏れる吐息がルーファスの欲を際限なく掻き立てるのだ。

 可愛くて愛しくて止まらないと言った方が正しい。


 "重過ぎてドン引きだよ"


 いつの間にかやって来たアルが窓辺で尻尾を揺らしている。

 ディアーナを手に入れる為に色々とやらかしたアルにまで指摘されたルーファスは、小さく舌打ちしてからディアーナに視線を戻した。


「……今日はディアーナの行きたい所へ連れていく」


『仰せのままに』


 サミュエルはアルをひと睨みした後、ルーファスに微笑んでから姿を消した。


 "執事精霊みんな生意気。僕を誰か知っててアレだからね。救いようが無いよ"


 ブツブツ呟くアルを無視する形でルーファスはディアーナの髪先に指を絡めて遊んでいる。

 真紅の瞳は際限なく緩み表情も幸せそのものだ。

 アルは何かを言い掛けたが、どうせ無駄だと諦めて窓辺から寝台に飛び移った。


「ディアーナに近づくな」


 "僕はディアーナと何年一緒に過ごしたと思ってるの?君の見てるそれは僕が全部先に見てるからね。もちろん成長過程も全部"


 呆れ顔のアルをルーファスは絶対零度の瞳で睨みつけた。

 そこから漏れる殺気でビリビリとアルの毛並みが逆立つ。


「丸焼きにされたくなかったらその口を閉じろ」


 "事実を言っただけなのに…"


 アルは心外だと不満を述べながらもそれ以上は近付かずに座りこんで大きな口を開いて欠伸をした。


 "僕はここで寝てるからディアーナの事よろしくね"


「お前に言われる筋合いは無い」


 好戦的なルーファスを受け流したアルは小さく丸まると目を閉じた。



「……ルー?」


 アルとのやり取りで目覚めたのか、腕の中にいるディアーナが身動ぎする。

 腕の力を緩めてやるとディアーナの腕がルーファスの背に回され、顔を胸に擦り寄せてきた。

 寝ぼけているだけと分かっていても、天然魔性のディアーナにルーファスの身体は硬直する。


「おはようルー」


 ディアーナの穏やかな息が胸を擽り、折角決意した外出を傍に置いたルーファスは、身体を反転させるようにして起こしてからディアーナを見下ろした。


「おはようディアーナ」


 ルーファスの腕の間に収まっているディアーナは次に起こる事を察して「起きたばかりなのに…」と文句を言うが、言葉とは裏腹にその腕はルーファスの首に回されている。


()()は海へ行こうか?」


 ルーファスは最愛の人を堪能すべく妖艶に微笑んだ。






 アルは丸めていた体を解いて起き上がると、開け放たれた窓から外に出た。

 外に出るついでに器用に尻尾を使って窓を閉める。


 "本当に僕って気遣いが出来る神だよね。窓開いたままだって気付かないのかな?"


 閉じられた窓を見上げたアルは溜息をついてから、静かに眠れる部屋を探すべく歩きだした。

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