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171. 脇役王女は永遠を誓う②

「始まってもいないのにお二人共泣かないで下さいな」


祖母の呆れた声に、元帥とシリルが手にしたハンカチで目元を拭う。

それから元帥の隣に座るシリルは元帥越しに祖母に訴えた。


「だってティア。可愛い娘の結婚ですよ。これが泣かずにいれますか?」


シリルはオルサーク公爵家の一員として参列している。シリルが賢者である事、真実を知らない者達も多く居るため髪色と瞳は変化させていた。

有限の生命になったシリルは幸せいっぱいの笑顔で笑うと、亡き妻を想い目を伏せる。


「全部目に焼き付けていつかベルリュンヌに報告するんです」


嬉しそうに語るシリルはまるで少年のようだ。

祖母は微笑んでからセウェルス王家の為に用意された席を見るが、ネヴァン公爵とハリソンの姿だけで、我が子の姿は無い。

アナスタシアが即位した後、何度も面会を希望したが叶う事は無かった。

セウェルスとクルドヴルムの為にアナスタシアの即位に向けて画策したのは間違いなく祖母自身。

だが国の事を除けば、どんなに出来の悪い息子でも愛しい我が子には変わりない。


「ティア。俺は元帥の職を退くよ。もうルーファスに俺の支えは必要ない」


そう言って元帥は祖母の手に自らの手を重ねた。


「昔の約束を果たしに行こう。まずはセウェルスだ」


微笑む元帥に、祖母は言葉を詰まらせた。

言外に"息子に会いに行こう"と告げているのが分かり、思わず涙ぐんでしまう。


「セウェルスの後は、アールヴを探しに行きましょうか?」


かつて話をした他愛のない夢物語。

祖母と元帥はお互い顔を見合わせて微笑みあった。






「フレディ。お前公爵家の席じゃなくていいのか?」


ヴァレンティンが確認する先に、ディアーナのクラスメイトに用意された席にフレディが渋い顔をして座っている。


「いいんだ。邪魔したくないからね」


フレディはエイセル公爵家の席に視線を移す。

そこにはエイセル竜騎士団長とカルステッド幻術師団長が座っていた。

ヴァレンティンはそれを見て、フレディがこの場に居る理由が分かり肩をすくめる。


「公爵閣下がカルステッド侯爵閣下と再婚されるのを聞いた時には驚いたよ」

「父上が大怪我をした事が幸いしたみたいだ。腕を無くした父上の介抱を義母上がしてくれて、ようやく義母上も折れてくれた」


ディアーナの奇跡で、エイセル竜騎士団長の腕は元に戻っている。長年拗らせた想いが実ったせいか締まりのない顔を見せる父親に、先が思いやられると溜息をつくフレディだった。


「あの…貴族でも無い私達が居ていいのかな?…緊張して吐きそう」


カティが青い顔で胸をさするのを、側に座るランド先生も青い顔で心配するが、平民出身のランド先生も周りの華やかさに気圧されしているのか手が震えていた。


「緊張すべき事なんですかね。ただの儀式でしょう」


アルヴィが冷めた表情でランド先生に言った瞬間、女子生徒達の鋭い視線がアルヴィへ集中する。


「貴方、ディアーナに負けたくせにまだそんな事言ってるの?」

「女性にとって結婚式がどんなに重要なのか解ってないのね!最低っ!」


女生徒達の非難にアルヴィは気まずそうに視線を逸らした。

それを眺めていたリューリ、エンシオ、ヨハンナ、ガブリエルの法学部四人組はお互い顔を見合わせた。


「あいつ、後で絞めましょうか」


いつの間にか席に座り真顔でアルヴィを見ているレーアにフレディは驚く。

ロスタムの席は別にあった筈と聞くとレーアはニッと笑った。


「私はディアーナ様の騎士として生涯を捧げるのでロスタムの席は必要ありません」


ここはクラスメイトの席だが、と思いながらも「君らしいな」と、フレディは微笑んだ。




ヴァリアン公爵が苛立ちを隠せない様子で座っているのをサンドラは黙って見つめていた。


(わたくしは負けたのね。いえ、初めから勝負にもなっていなかった)


公爵家のしがらみがあっても、ルーファスへの想いは間違いなく本物だと言える。

ルーファスには一度として見てもらった事は無いが、ライバルのクロエはルーファスを苦手としていた。

だから自分こそが王妃になると思い込んでいたのだ。

何て不相応で浅ましい考えだったとサンドラは自嘲した。





「フェーディーン公爵は警備の指揮を取らなくても良いのか?」


ベルマン財務長官が隣に座るフェーディーン騎士団長に声を掛ける。


「部下に邪魔だから参列しろと言われまして…」


複雑な表情で返したフェーディーン騎士団長に、鉄壁のベルマン財務長官も珍しく呆れ顔だ。


「確かにその様子では指揮どころでは無いな。…君も変わったな…」


フェーディーン騎士団長は苦笑した。






「セウェルス国王陛下のご入場です!」


騎士の一人がアナスタシアの入場を告げると、ルーファス含む会場に居た全員が起立する。

静寂に包まれる中、豪華な正装に身を包んだアナスタシアがクリストファー含む騎士団を伴って入場した。

年若くも威厳があり、それでいて陽の光を思わせる明るさを思わせる国王に皆驚きを隠せないでいた。

壇上に居るルーファスとアナスタシアは視線を合わせるとお互いゆっくりと礼をとる。

そしてアナスタシアは小さく口だけ動かしてから、来賓席に向かった。


「陛下?」


側に控えていたクラースが様子のおかしいルーファスに声を掛ける。


「いや、義妹の言葉に感動してな」

「言葉ですか?」


ルーファスは席に座って優雅な笑みを讃えているアナスタシアをチラリと見つめた。


ーーお姉様をお願いします。


義妹から小さな動きだけで伝えられた言葉。


ーー瑠衣果を任せていいか?


義兄から託された願い。


ルーファスは窓の外に広がる青空を見上げ微笑む。


「必ず幸せにします」


クラースだけが聞こえる程度の声でルーファスが呟いた。



出会ってから7年。

生涯護りたいと心に決めた相手をようやく正式に迎えられる事に万感の思いが溢れてくる。

自らを犠牲にして今をくれた琉偉に、ディアーナの輿入れをサポートしてくれたアナスタシアに、そしてクルドヴルムに、ルーファスは心から感謝した。




それぞれが様々な思いを交わしながら過ごしていたところに、ディアーナの入場を告げる声が響き、神殿は静寂に包まれる。




そして巨大な神殿の扉がゆっくりと開かれた。

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