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170. 脇役王女は永遠を誓う①

あれから二ヶ月が過ぎた。

あの後ディアーナはクルドヴルムへ戻らず、正確にはアナスタシアに引き摺られるようにしてセウェルスに帰国した。

アナスタシアとの約束がありルーファスも止める事が出来ず、それから今日まで直接顔を合わせていない。


セウェルスに帰国してからは毎日アナスタシアと共に過ごし、挨拶出来ていなかった騎士団見習いの練習場へ行ったりと有意義な時間だったが、何故かルーファスとの対話を禁止されてしまい、手紙のやり取りだけになっていた。

アルは"妹の言う事に従っておきなよ"とアナスタシアの判断に好意的だ。


ルーファスから毎日のように送られてくる手紙には、クルドヴルムの近況報告も含まれていた。

その中に"あの時降り注いだ白銀色の光は、魔物によって失われた生命をも復活する奇跡を起こした"と書かれていた時には驚いて、昼寝をしていたアルを叩き起こしたものだ。

アルが言うには、ディアーナを手に入れる為に行った全部を元に戻しただけらしいが、それを報告すると流石のルーファスも絶句したそうだ。


そして奇跡の光が白銀色だった事、アナスタシアが()()()()()()()()()の奇跡と公言した事で、ディアーナを色無しと直接蔑む者は居なくなった。






そして二ヶ月後の今日、ディアーナとルーファスの結婚式が行われる。


雲ひとつない青空の下、白亜の豪華な馬車がクルドヴルム王都の市街をゆっくりと進んでいた。

馬車にはセウェルスの紋が刻まれており、セウェルス聖騎士団が先導している。

道の周りにはセウェルスから嫁いでくる奇跡の姫を一目見ようと多くの国民が集まっていた。

馬車が目の前を通るとカーテンで仕切られ中が見えないにも関わらず、皆一様に祝福の賛辞の声を挙げた。


「見て下さいお姉様!お姉様の結婚式をこんなに沢山の国民が祝福してくれています!」


アナスタシアは興奮した面持ちで振り返ると、隣に座るディアーナに向けて声を掛けた。


「アナスタシアが乗っているからよ」

「そんな事無いわ。試しに顔を出してあげれば良いのよ。衣装が乱れるといけないから窓から手を振ってあげたらいかがかしら」


アナスタシアに急かされて仕方なくカーテンを開き、窓の外に集まる国民に微笑みながら手を振る。

それがディアーナである事に気付いた国民は一瞬無言になるが、次の瞬間、地面が揺れる程の大歓声が響いた。

アナスタシアは満足気に笑い、鼻息荒くディアーナを賛辞する。


「ほら、ご覧になったでしょう。いつも美しいお姉様が今日はまるで女神のようですもの。…そのドレスの贈り主がルーファス様なのが悔しいですが…」


ルーファスから贈られたドレスが気に入らないらしい。

プクリと頬をリスのように膨らませたアナスタシアがディアーナの姿を下から上まで堪能するように見つめている。


ディアーナは所在無さ気にアナスタシアの視線から流れて対面に座るクリストファーに視線だけで助けを求めた。


「俺も今日ばかりはアナスタシアに同意するよ。とても綺麗だ。剣を振り回していたディアーナとは思えないよ」

「…クリストファー。一言余計よ」

「それだけ綺麗だって事だ。いいじゃないか」


悪びれもせず爽やかな笑顔を見せるクリストファーに、アナスタシアは満足気に頷き、ディアーナは溜息をついた。

そうして自分の婚礼衣装に目を落とす。


Aラインのドレスはハイネックにロングスリーブと露出が限界まで抑えられている。

ルーファスの執念が感じられるとアナスタシアはドレスを見た時に呆れ顔で言った。

そのドレスはシンプルなデザインに見えるが、美しい刺繍が施されており、品良く纏められている。

そしてディアーナの頭上には薄いマリアベールが飾られていた。


ディアーナはかつて身につけていたベールを思い出す。

あの時は出来るだけ黄金色に見せる為のカモフラージュ的な役割でしかなかった。


瑠衣果が目覚めた時、ディアーナは死亡確定の脇役王女だった。

ベールで守り必死に王族であろうとした幼い少女。

あのまま瑠衣果が目覚めなければ、死ぬまでどんな人生を歩んでいたのだろうか。

ゲームのディアーナは顔が見えなかったが苦しんでいる様子はなかった。ならば幸せだったのだろうか。


"運命のままでもディアーナの最後はそれなりに幸せだったと思うよ。考え方はそれぞれだけど、愛する人の為に命を懸けれたからね"


ディアーナの考えを察したアルが、アナスタシアの膝の上で寛ぎながら教えてくれた。


選んだ道を後悔はしていない。自分の意思で選択して、努力してきたからこそ今の自分がある。

そしてディアーナの為に沢山の人達が味方になり、協力してくれた。

運命の通りに生きたディアーナが幸せだったとしても、今のディアーナにはこの道しか選択出来ないと素直に思える。


「わたくしが今日を迎えられるのは、アナスタシアや皆のお陰よ」


ディアーナが思わす涙ぐみそうになったところで、アナスタシアが「まだ泣いてはダメですよ」と、自らも涙目になって指摘した。


「ほら、見えて来たぞ」


クリストファーの声にディアーナとアナスタシアは微笑みあってから窓の外に映る竜王の神殿を見上げた。







竜王の神殿内には既に参列者達が着座していた。

中央に備えられた祭壇にある玉座にはルーファスが座っている。


レスホール公爵家の席では、クロエとシャーロットが顔を寄せ合い談笑していた。


「ディアーナが到着したみたいですわね。ディアーナの花嫁姿を最前列で見れるなんて眼福ですわ」

「ふふっ。とても素敵でしょうね」


友人を祝福している姿に、シャーロットの隣に座るリアムは目を細め、それから壇上に立つルーファスに顔を向けた。


永遠の忠誠を誓った主君であり、幼馴染みのルーファスの幸せを一番近くで願っていた。

その願いが今日ようやく叶う言葉に感慨深くなる。


正装に身を包んだルーファスは威厳に満ちているが、氷の陛下と呼ばれた頃の面影は無い。

全てディアーナが溶かしてしまったらしく、ルーファスの表情は幸せそのものだ。


「…幸せになれよ」


リアムは今泣く訳にはいかないと天井を見上げ、祈りを込めて親友を祝福した。

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