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168. ディアーナは半身と別れを告げる

アルは衝撃のあまり開いた口が塞がらない。

ディアーナとルーファスも驚いて顔を見合わせた。


「瑠衣果の事を俺達皆が忘れるんだ。それこそ死ぬのと同じ。俺達の世界で生きた瑠衣果は死ぬ」


アルはパクパク魚のように喘いだ。


『な、何言ってるの?君は馬鹿なの?なんで記憶から瑠衣果を消すのさ』

「方法は問わない、そう言ったよな」

『だからそんな都合の良い話…』

「都合が良い?記憶から消える事が都合が良いって?」

『僕が欲しいのは魂だ!そうしないと精神体が保てない』


琉偉はアルを睨みつけたままそれ以上口を開こうとしない。

話すのも無駄だとその表情が告げていた。


「アル。お前は分からないか?記憶から消えるという事はルイカの存在自体が無くなる。ルイカの存在が無くなるという事は、ディアーナの魂からもルイカが消える」


ルーファスがアルに言うのを聞いてディアーナは瞠目する。


「ディアーナの魂はディアーナだけのものになる。それは神が干渉しても罰を受けない。そうではないのか?」

『え?!』


アルはディアーナが別の世界から来た魂だから罰が怖いと言った。

瑠衣果の存在が瑠衣果達の世界から失われれば、存在しない魂の制約は受けない。故にディアーナの運命に干渉しても罰を受けない。


ルーファスは唖然とするアルにそう説明する。

琉偉はルーファスの話を黙って聞いたあと、ディアーナに顔を向けてフッと笑った。


「君にとって瑠衣果はディアーナだ。ルーファスを生き返らせるにはディアーナの死が必要だけど、瑠衣果が死ぬのだからルーファスは生き返る」


琉偉は一瞬アルを見てからすぐにディアーナに戻すとディアーナに向けて言う。

琉偉に見つめられたディアーナの瞳から自然と涙が流れ落ちる。


「泣くなよ。俺は笑った瑠衣果が見たいよ」

「琉偉はどうして…」


ディアーナは両手で顔を覆ってから溢れる涙を見せまいと肩を震わせた。


物心ついた時から瑠衣果でいる間はずっと、琉偉が近くにいた。

瑠衣果にとってはお腹の中から一緒に居た片割れであり、頼りになる兄であり、無邪気な弟のような存在。


「いつも私の事ばかり優先して!私の幸せを考えてくれるなら琉偉も幸せになってよっ!!」


琉偉は何度か瞬きして空を見上げてから「ホント馬鹿」と小さな声で呟く。

そしてディアーナの腕を引いてもう一度胸の中に収めた。


「瑠衣果が幸せならそれでいい。それが俺の幸せなんだ」


無償の愛を琉偉は最初から最後まで与えてくれる。

琉偉の想いが嬉しくてそれ以上に辛い。


『…確かに君の言う通りかも知れない。君のところの神も賛同してくれた』


琉偉とのやり取りの間に確認していたアルが考え込むようにして告げる。


「俺はディアーナと一緒に戻るぞ」

『えぇ?ルーファスは生き返らせるにしてもディアーナは駄目だよ』

「今のままなら運命の通りだろ。ディアーナの寿命になるからアルは手元に置けない」

『…でも』


まだ納得しないアルの後頭部にルーファスの拳が振り下ろされた。

ダメージは無いが突然の暴挙に驚いたアルが頭を押さえてルーファスをジトリと睨みつける。


『僕は神だよ?』

「知るか。俺とディアーナにとって、お前はアルだ」


アルは目を見開いた。


「お前は俺達が死ぬまで世界に留まればいい。その後はこっちでお前の相手をしてやるよ。ディアーナだけでなく、この俺もな」


妥協案を提示したルーファスの表情を見た琉偉は吹き出しそうになって口元を押さえた。


「瑠衣果は彼に愛されてるね」


そう小さな声で呟くのをディアーナは訳が分からず首を傾げる。


「瑠衣果は知らなくていいよ。俺も大概だけど彼の重さに比べたらマシだなぁ」


笑いが堪えられないのか琉偉はディアーナの肩に頭を置いてから肩を震わせている。


『…僕がディアーナのそばに居ていいの?』

「俺は嫌だがアルが居ないとディアーナが悲しむ。だからお前は責任とって手を下した者達を復活させろ。そしたら俺の邪魔さえしなければディアーナの側に居る事を許してやる」


アルは困惑した表情でディアーナを見つめた。

ディアーナは琉偉の頭が肩に置かれた状態で空いている腕をアルに伸ばす。

ディアーナに導かれるようにアルは腕の中に収まった。


「アルと出会えてわたくしは幸せだったわ。毎日ずっと側に居てくれたのはルーが居なくなったわたくしを心配してくれたからでしょう?」

『それは…だってディアーナが泣いてるから…』


ディアーナは「ふふっ」と微笑んで、ルーファスに殴られた後頭部に唇を落とした。


「わたくしの側にいたアルはとても優しい子。わたくしはアルが大好きよ」


肩に頭を置いたままの琉偉はアルを射殺さんばかりの表情で睨みつけているが、アルはディアーナだけを見つめているので気付いていない。


『僕は沢山悪戯したよ。きっとこの先も変わらないかも知れない』

「そんな事するとは思えないけど、それなら全力で止めるわ」


アルは振り返ってルーファスを見つめるとディアーナの腕に抱かれているアルに嫉妬心を隠さず、それでも無言で肯く。


『…じゃあ僕も行く。…ディアーナとルーファス以外は少しだけ記憶を改竄するよ。戻った途端にセシリオスに殺されそうになるのは御免だから』

「それで良いわ。皆にとって大切なのはあの世界を、大切な人達を護れる事だから」


ディアーナの言葉にアルはくしゃりと笑ってから目を閉じた。


『ディアーナ。白須琉偉に最後のお別れを』


アルの声に琉偉の身体がピクリと震える。

ディアーナと琉偉はお互いの顔を目に焼き付けるように見つめ合う。


「瑠衣果。俺は瑠衣果と一緒に生きられてとても幸せだったよ。俺の妹になってくれてありがとう。俺を愛してくれてありがとう」


ディアーナは涙を堪えて必死で笑顔をつくる。


「私も琉偉の片割れで、妹になれて…琉偉が沢山愛してくれて本当に幸せだった。感謝の言葉が見つからない…琉偉が私を忘れても、私は琉偉を忘れない。ずっとずっと大好きなお兄ちゃんだから」


琉偉は幸せそうに微笑むと、身体を起こしてルーファスに向き直る。


「ルーファス。瑠衣果を任せていいか?」


そう言ってディアーナの身体をルーファスに向けて軽く押した。

よろけたディアーナをルーファスの腕が受け止める。


「勿論だ。ディアーナは…瑠衣果は俺が責任を持って幸せにする」


ルーファスはディアーナの肩を抱く腕に力を込めた。

琉偉は満足気に笑うと身体が薄くなり始める。

ディアーナは両手を琉偉に伸ばすがもう触れる事は叶わない。


「さよならだ、瑠衣果。……愛しているよ」


琉偉はディアーナに向けて満面の笑みを浮かべる。

ディアーナは涙を流しながらも同じように笑顔を向けた。


「ありがとう琉偉。私も愛してるわ」



その言葉を最後に琉偉の姿は消えた。

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